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美術 東京芸術大学美術学部1999年
大学美術館開館

大学美術館全景

食堂テラスを見下ろす

大学美術館(上野)の螺旋階段

陳列館
(写真は4点とも『東京芸術大学大学美術館』より)
 1999(平成11)年10月4日、上野校地に大学美術館が盛大に開館した。この日は開校記念日。1887(明治20)年に東京美術学校が設置された日から、112年め。この間に蓄積されたコレクションは、27,000件にのぼる。近現代の日本美術コレクションとしては、質・量ともにまちがいなく最大級だ。なにより、制作の現場で収集・蓄積されてきた点に、特色がある。まさにそれは、多くの人々がここに生きてきた証だ。そのコレクションの中から、えりすぐられた作品157件による「開館記念・東京芸術大学美術館所蔵名品展」には、1カ月余りの会期中に、じつに34万人の人々が訪れた。それまで校内に一般の人はあまり入れなかったから、その新鮮さもあったのだろう。かつて若き日の巨匠たちが踏みしめた地を、確かめるように逍遥し、未来のアーティストたちと同じ食堂で食事を楽しむ人々の表情は、とても印象的だった。そうです、彼らがこれからを担っていくんです、応援してあげてくださいといいたくなる温かな空気が、そこにあった。

 大学美術館は、大浦食堂のあった場所に建てられた。戦前から貧しい学生たちを支え、美校名物の1つだった大浦食堂は、いまも美術館の一角で家庭の味を提供してくれている。ほかにも生協や画翠、ホテルオークラのカフェテリア、ミュージアムショップなども入っており、学校生活を支える場にもなっている。

 美術館がここにできたことで、上野校地の美術学部は、敷地の中央に緑を残し、周囲をぐるりと建物がとりかこむ形になった。美術館では、特別展のほか、各科主催の企画展や、修了制作展なども行われ、教育研究の現場と社会を結ぶ場になっている。展示施設としては、旧芸術資料館の陳列館も、小企画の展示に使われている。昭和初期のレトロな外観だが、内部は現代美術にもピッタリの使い勝手のいい空間だ。拠点となるこうした場だけでなく、校内のあちこちにも作品を展示し、現場と展示を一体化させたらどうかというファクトリー・ミュージアムの構想もあった。

 一方、この1990年代には、取手校地の開校(91年)という大きな動きがあった。いまここには、美術学部の1年生と、先端芸術表現科、一部の大学院、音楽学部の音楽環境創造科が展開している。ここにも美術館があるが(94年開館)、設計は、上野・取手の両館ともに、本学建築科の六角鬼丈(ろっかくきじょう)。取手館には、各科教官約30名による遊び心満載の装飾も仕込まれている。また上野館のロゴマークは、デザイン科の蓮見智幸(はすみともゆき)。まさに美術の現場の強みが、最大限に発揮されている。

 芸術とかアートとかいうと、高尚、カッコイイ、でもこむずかしいというイメージも強い。アーティストは作品という自己実現の手段があるからか、パワフルだが素朴で優しい人が多い。この大学、なんかみんな表情が明るいね、と言った人がいた。作品だけでなく、アーティストという人にも触れる機会があったら、きっとみんなハマるだろう。そんな魅力がある。創ることの原点も、そして可能性も、同じなのかもしれない。

(さとう・どうしん/美術学部芸術学科助教授)


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