古楽科について    



 東京芸術大学音楽学部では、2000年度から、「チェンバロ科」を改めて「古楽科」という科(専攻)が設置されました。

《「古楽」とは何か?》

 古楽とは、決して「古代の音楽」ではありません。主に、バロック時代の音楽を中心とする1500年代半ばから1800年頃までの音楽を、その時代にふさわしい方法で演奏することが目的です。しかし、音楽史におけるひとつの時代を切り取って、レパートリーを限定することが目的ではなく、歴史に対する新しい姿勢を求めることで、現代におけるよりすばらしい「演奏」の可能性を探ることが目的なのです。

《私たちは、歴史の中に生きている》

 演奏する作品が「過去」のものである限り、私たちは、常に自分の置かれている「現在」と作品の生まれた時との間に、多かれ少なかれギャップを感じずにはいられません。また、作品が生まれた背景、目的、使用された楽器、作曲家が求めていた響きなどなど、その作品が生まれ出た歴史的環境を知らないままでは、私たちの環境との比較もできず、作品が求めている一番よい表現方法を求めることもできません。

 19世紀までは多くの場合、演奏家と作曲家は同一人物であり、自分が作曲したものを演奏することが、演奏家の主たる仕事だったと思われています。しかし、自分の作品を主に演奏していた演奏家たちも、常に過去の作品に対する大いなる興味を抱いていたばかりではなく、過去の音楽から、できるだけ多くのものを学び取ろうとしたのでした。だからこそ、J.S.バッハはパレストリーナの作品も演奏しましたし、またメンデルスゾーンはバッハのマタイ受難曲を演奏したのです。もちろん、彼らがパレストリーナにチェンバロを用い、マタイ受難曲にバセット・ホルンを用いたとしても、それはそれぞれの「現代」にふさわしい様式を採用した結果に過ぎません。
 また、ブラームスはF.クプランのクラヴサン曲集を出版したり、ヒンデミットがコラールの旋律を取り入れて自分の作品を書いたことは、自分がそれまでの長い音楽の歴史と一続きに繋がっている、ということの意識の表れに他なりません。

 今や私たちの時代には、現代音楽よりも過去の音楽を演奏することの方が遥かに多くなり、それぞれの作品が属している時代や風土を無視しては、どのような演奏も不可能になってしまいました。しかし、私たちに伝えられている過去の名曲の大半は、決してその作曲家から直接受け継いだものではありません。むしろ、レッスンを受けた先生からの影響や、現代の習慣的な方法を無意識に受け継いでいることがどれほど多いことでしょうか。
 そこで、各作曲家の属する時代の楽器や演奏様式について、可能な限り歴史的社会的要因について研究し、その情報に基づいて作曲家の意図をなるべく忠実に再現し、かつ私たちの現代に最もふさわしい演奏様式を見つけたいのです。

《On Period Instrument》
 現代のコンサートホールにおける通常の音楽活動で用いられているほとんどの楽器が、現代の形態にいたるまでの多くのプロセスを持っていますが、それらは単に「未発達な段階」や「未熟な楽器」なのではなく、その時代の作品演奏には不可欠な要素が含まれています。近年の研究は、それら各時代の建造様式を現代に再現することを可能とし、そのようにして再現されたものを、各時代に属する楽器として『On period Instrument』と呼んでいます。このことにより、多くの新しい作品像と作曲家像が確立され、さらに現代における新たな表現形式を生むきっかけとなったのです。
また声楽においても、当時の様々な文献や音楽資料から、18世紀以前のレパートリーには、今世紀の声楽界が求めてきた響きの理想とは異なった価値観があったことがわかり、その研究を通じて、現代における新たな表現方法が求められるようになりました。

[教育方法とカリキュラム]
 私たちの古楽科では、次の各分野の専攻を扱っています。

  • バロック声楽
  • バロックヴァイオリン
  • バロックチェロ
  • リコーダー
  • バロックオルガン
  • チェンバロ
  • フォルテピアノ

(ただし、学部においては、チェンバロ、リコーダー、バロックヴァイオリンのみの専攻が設けられています。)

 授業については、専攻の実技指導が中心となることは言うまでもありませんが、それを前提として、さらに下記の3つを柱として教育課程を形成しています。

1)アンサンブル演奏の重視と通奏低音(Basso Continuo)概念の確立
 古楽の各楽器分野は相互に深く関連しあっているため、アンサンブルの演奏教育をソロと同様の重要性をもって扱い、カリキュラムにもそれが反映されています。またその基礎となるのが通奏低音(BassoContinuo)です。これは単なる音楽理論ではなく、実際の演奏に直結した和声概念であり、鍵盤楽器だけでなく、バロック期のすべての分野の演奏技術の基礎を成す重要な要素です。



2)音楽の歴史と文献について研究

 古楽分野においては、各作曲家についてわれわれに残されている情報は何か、ということについて常に留意せざるを得ません。そのためには、できる限り原典に立ちかえり、それに必要な基礎的知識や経験を積むことは不可欠です。またそのことによって、必然的に新たな演奏解釈へのヒントやレパートリーを得ることにもなります。

3)楽器についての研究

 楽器についての知識と実際に楽器を調整・調律できる技術は、演奏技術の一部であり、このことなくして、古楽の演奏を充実させることは不可能ですから、可能な限り、そのための時間を設定しています

                           
  <古楽科のあゆみ>

 ●平成12年(2000)   「チェンバロ科」から「古楽科」になる

 ●平成15年(2003)   博士後期課程開設

 ●平成16年(2004)   別科(チェンバロ・バロック声楽)開設

 ●平成17年(2005)   別科(7つの専攻すべて)、外国人修士課程(同左)開設


 開設コース  古楽科で開設されている専攻について、また古楽科在籍人数について、紹介しています。
 授業カリキュラム  授業やレッスンについて、紹介しています。
 講師紹介  古楽科の常勤非常勤の先生方を紹介しています。
 論文リスト  過去の修士論文題目やEarly Study を、掲載しています。
 学生の声  古楽科の学生の日々を紹介しています。
 FAQ 古楽科についての疑問にお答えしています。 

入試過去問題

 古楽科の入学試験の過去問を掲載しています。

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