蛸芝居[たこしばい] (2)表[おもて]の掃除[そうじ]の場面[ばめん]

台本[だいほん]

    定吉[さだきち]「何[なん]か掃除[そうじ]しながらするような芝居[しばい]おまへんかいな。」
    亀吉[かめきち]「有[あ]りまっせー。あの、幕開[まくあ]きの塀外[へいそと]。水[みず]まき奴[やっこ]が表[おもて]、掃除[そうじ]しているとこ。あそこやりまひょか。」
    定吉[さだきち]「よろしいな。やりまひょやりまひょ。」
    亀吉[かめきち]「ああいう芝居[しばい]にはね、なんとか内[ない]と名前[なまえ]が付[つ]きまっしゃろ。で、わたい亀吉[かめきち]ですさかい亀内[かめない]になりますわ、あんた定吉[さだきち]ですさかい定内[さだない]になんなはれ。よろしぃな、いきまっせ……やっとまかせの なあ、丁稚奉公[でっちぼうこう]が何[なに]になろぉ」
    定吉[さだきち]「夏[なつ]は布[ぬの]こ」
    亀吉[かめきち]「冬[ふゆ]はドテラの一貫[いちかん]で」
    定吉[さだきち]「寒[さむ]さをしのぐ茶碗酒[ちゃわんざけ]」」
    亀吉[かめきち]「雪[ゆき]と暮[くら]らすも一興[いっきょ~]か」
    定吉[さだきち]「さらば、掃除[そうじ]に……」
    亀吉[かめきち]「ヤ、掛[か]かろぉ~かい~っ」♪
    定吉[さだきち]「ヤットマカセのな、掃[は]けどもはけども落[お]ちくる木[こ]の葉[は]、何[なん]とウタトイこっちゃあるまいか」
    亀吉[かめきち]「それはそうと掃除[そうじ]が済[す]んだらこっちの付[つ]け目[め]。」
    定吉[さだきち]「いつものように台所[だいどころ]にてお清[きよ]どんの目[め]を盗[ぬす]み。」
    亀吉[かめきち]「つまみ食[ぐ]いと出[で]かけよか。」
    定吉[さだきち]「そんなら亀内[かめない]。」
    亀吉[かめきち]「そんなら定内[さだない]。」
    定吉[さだきち]「俺[おれ]に付[つ]いて、こう来[こ]いやい……」♪ 「二人[ふたり][つ]れたち…」
    [だん]さん「あーこれ、これこれっ!二人[ふたり]とも露路[ろじ][はい]って行[い]って何[なに]てんねん。」
    亀吉[かめきち]「旦[だん]さん、ちょっと、露路[ろじ]を花道[はなみち]に…」
    [だん]さん「何[なに]が花道[なに]やねん。二人[ふたり][よ]ったら芝居[しばい]をする。どうもならんな。え。もうな、定吉[さだきち]はお仏壇[ぶったん]の掃除[そうじ]をしなはれ。それからな、亀吉[かめきち]は庭[にわ]の掃除[そうじ]をしときなはれや。」
    定吉[さだきち]「へーーい。」