第3章　黒田清輝と西洋画コレクション

　明治29年[1896]7月、東京美術学校に西洋画科が設置され、東京美術学校の絵画コレクションに初めて本格的な油彩画が加わることになる。
　西洋画科の指導者となった黒田清輝と久米桂一郎による初期収集は、ヨーロッパ絵画の模写と、画家の滞欧作品に始まった。久米によるルーヴル美術館収蔵品の模写、山本芳翠らの滞欧作がこれに当たる。後には、フランス・アカデミーの留学制度であった「ローマ賞」に倣い、岡田三郎助や和田英作ら卒業生を留学させ、名画の模写を美術学校に送らせた。
　これらと並行して浅井忠の《収穫》、高橋由一の《鮭》など旧派の作品、黒田自身の滞欧作《厨房（婦人像）》、《菊圃》をはじめとする白馬会出品作が漸次収蔵され、西洋画科開設後１年のうちに、40点程の油彩画がバランスよく収集された。また、明治30年[1897]には最初の「卒業制作」として和田英作の《渡頭の夕暮》が収蔵され、以降、卒業制作、続いて自画像の収集が始まり、中断時期もありつつ今日にまで至る。
　明治30年代後半になると、高橋由一や五姓田義松らの関連作品、工部美術学校関連資料、司馬江漢の洋風画などが加わり、西洋画コレクションは、日本近代洋画史の形成を跡付ける性格をもつものとなった。
　本章では、最後に東京美術学校の関係者が多数参加、見学した1900年のパリ万博にちなんだコレクションとして、アールヌーヴォー・ポスターやアガトン・レオナール原作の陶磁製人形を紹介する。また、カンディンスキー作《白樺》は、1910年代にベルリンで展開した前衛美術運動と東京美術学校とを結ぶ数少ないコレクションの１つである。