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藝大最前線 - 藝大とエルメス

連続コラム:藝大最前線

連続コラム:藝大最前線

藝大とエルメス

〈藝大ツアー篇〉

まずは美術学部校舎、中央棟の地下にある保存修復彫刻研究室へ。部屋の前には大小さまざまな鉈や鋸が。

保存修復彫刻研究室では、文化財の研究の過程で『模刻』という、当時の仏像を同一の材料・方法でそっくりにつくるという手段をとっているのだそう。解説は岡田靖准教授。
(左から)オリヴィエ・フルニエ氏、ローラン・ペジョー氏、熊倉研究科長、ユーグ・ジャケ氏、ジュリー・アルノー氏、説田礼子氏、麻生理事。

周囲を見回すと、至る所に仏像が。これらは研究室に在籍している修士・博士課程の学生による模刻作品。

「日本の文化財に最も多く使われる材料は木材なんです」と岡田准教授。

研究内容を紹介する小島久典助教。自らの手を動かしながら、制作を以て遥かな歴史を往来する保存修復の世界。
その興味深い解説に聞き入っていると、あっという間に時間が過ぎていきます。

木々の間を抜けるようにキャンパスの奥へと進みます。

金工棟を2階へ上がり、彫金研究室へ。廊下の壁にかけられた古い写真は明治35年、藝大美術学部の前身である東京美術学校の彫金科教室の様子。

彫金研究室の前田宏智教授の研究室。畳敷きの部屋の壁は、天井まで工具類でいっぱい。

所狭しと作業机が並べられた学生のアトリエは、薬品の混ざった不思議な匂いが漂っています。制作をする学生の手つきを静かに見守ります。

作業台に並べられた細かな金属片。制作中の作品の一部でしょうか。金槌で素材を叩く音が規則正しく響き渡っていました。

細長い廊下を総合工房棟側へ進むと、陶芸研究室の明かりが見えてきます。ここは共同制作部屋と呼ばれるアトリエ。陶芸専攻の学生たちは普段ここで作業をしています。

制作のためのろくろは一人一つずつ与えられ、中には手びねりといって道具を使わずに成形する学生もいるのだそう。
焼成のための窯は全部で12個。ガスや灯油、電気で動くものなどがあります。

案内は陶芸研究室の椎名勇准教授。このスペースでは登り窯実習の作品が展示されていました。

アトリエには個人制作スペースが用意され、電動のろくろを中心に取り囲むように木製の作業台が組まれています。
ビニール袋に包まれた巨大な粘土の塊のほか、濡れぞうきんや刷毛、霧吹きなどが置かれていました。

総合工房棟を4階に上がり、染織研究室のアトリエへ。中央は山田菜々子准教授。

作業途中の台上には、着色途中の布地がありました。卓上には色作りの際のレシピもあります。制作に使う糊や色を用意するのにも細かな工程があるようです。

山田准教授が指差す先には、ステンシルのように絵柄が写された布が横たわっていました。細長く鮮やかな臙脂色の紋様に、思わず見入ってしまいます。

「こちらは型染めという技法で、これから着物になる布です。バリ出身の学生が制作しています」と山田准教授。

織り機が所狭しと並ぶ織の実習室。染めること、織ること。ここには、伝統ある技術と知見を受け継ぎながら、日々新たな探求を重ねる学生の姿があります。

美術学部の最後は、漆芸研究室へ。机に並べられた艶やかな作品の数々を前に、小椋範彦教授の解説に耳を傾けます。

吸い込まれるような深みのある円形の腕。漆は塩酸、硫酸、硝酸のような薬品に対しても負けない素材なのだといいます。

「漆は天然の木の樹液から採取したものです。それが空気中の湿度と酸素と化学反応を起こして固まります」と小椋教授。

漆の表現が取り入れられた作品たちを手に取りながら鑑賞します。色や形、佇まいも多種多様です。

道路を挟んだ音楽学部側の校舎へ。木々に挟まれた小道を進み、奏楽堂へ向かいます。

奏楽堂ホワイエにて、写真撮影。

コンサートホールの中へ。
空間全体が一つの優れた楽器として、調和のとれた響を生むよう設計された内部構造は、客席の天井全体を可動式にして音響空間を変化させる方法を採用しているのだそう。

舞台の上方に設置されているのは、古典から現代作品までを演奏出来るフランスのガルニエ製オルガン。今はちょうど、オルガンの授業の最中のようです。

明治23年より音楽教育の練習、発表の場として永く使用されてきた旧東京音楽学校奏楽堂の解体に伴い、新たにコンサートホールとして建設された現在の奏楽堂。
迫昭嘉理事・副学長の案内で見学します。

ホールを出た後は、テーブルを囲んでコーヒーブレイク。ホワイエに大きく取られたガラス窓からキャンパスが広く見渡せます。穏やかな時間が流れていきます。

藝大のあちこちを垣間見る、ツアーのような学内視察はこれにて終了。微かに漂うオルガンの余韻が、雨音に混じって上野の空気を震わせているのでした。


構成・文:野本修平 撮影:縣健司