『絵本太功記[えほんたいこうき]』十段目[じゅうだんめ] 尼ヶ崎[あまがさき]の段[だん]



登場人物[とうじょうじんぶつ]

    武智光秀[たけちみつひで]
    小田春永[おだはるなが]の家来[けらい]。明智光秀[あけちみつひで]がモデル。
    自分[じぶん]の主人[しゅじん]を本能寺[ほんのうじ]で討[う]つ。
    春永[はるなが]の家来[けらい]たちから追[お]われる。
    皐月[さつき]
    光秀[みつひで]のお母[かあ]さん。
    息子[むすこ]に誤[あやま]って刺[さ]されてしまう。

    このビデオに登場[とうじょう]するその他[た]の人物[じんぶつ]
    真柴久吉[ましばひさよし]:小田春永[おだはるなが]の家来[けらい]。羽柴秀吉[はしばひでよし](後[のち]の豊臣秀吉[とよとみひでよし])がモデル。
    小田春永[おだはるなが]:戦国時代[せんごくじだい]の武将[ぶしょう]。織田信長[おだのぶなが]がモデル。

大夫[たゆう]が語[かた]ることば

    説明[せつめい]月漏[つきも]る片庇[かたひさし]、こゝに刈[か]り取[と]る真柴垣[ましばがき]、夕顔棚[ゆうがおだな]のこなたより、現[あらわ]れ出[い]でたる武智光秀[たけちみつひで]
    「必定[ひつじょう]、久吉[ひさよし]この内[うち]に、忍[しの]びゐ[い]るこそ究竟一[くっきょういち]。只[ただ]ひと討[う]ち」と気[き]は張[は]り弓[ゆみ]、心[こころ]は矢竹[やたけ]藪垣[やぶがき]の、見越[みこ]しの竹[たけ]をひっそぎ槍[やり]。小田[おだ]の蛙[かわず]の鳴[な]く音[ね]をばとどめて「敵[てき]に悟[さと]られじ」と、差[さ]し足[あし][ぬ]き足[あし][うかが][い][よ]り、聞[き]こゆる物音[ものおと]「心得[こころえ]たり」と、突[つ]っ込[こ]む手練[しゅれん]の槍[やり][さき]に、
    [はは]わっ
    説明[せつめい]と玉[たま]ぎる女[おんな]の泣[な]き声[ごえ]
    「合点[がてん][ゆ]かず」と引[ひ][だ]す手負[てお][い]真柴[ましば]にあらで真実[しんじつ]の、母[はは]のさつきが七転八倒[しってんばっとう]
    光秀[みつひで]ヤア、ヤゝゝゝゝこは母人[ははびと]か。しなしたり。残念[ざんねん]至極[しごく]
    説明[せつめい]とばかりにて、さすがの武智[たけち]も仰天[ぎょうてん]し、たゞ呆然[ぼうぜん]たるばかりなり。

    *大夫[たゆう]が語[かた]ることばは昔[むかし]のかなづかいで書[か]くんだ。ひらがなに[ふりがな]をつけた所[ところ]だよ。