七度狐[ひちどぎつね]

台本[だいほん]

    説明[せつめい]いつのまにやら道[みち]が細[ほそ]うなってまいりまして、山[やま]の中[なか]に入[はい]っていくような具合[ぐあい]
    [かた]えは切[き]りたったような崖[がけ]。もう片一方[かたいっぽう]は、幾何重[いくなんじゅう]ともしれぬ深[ふか]い谷[たに]
    その中[なか]に細[ほそ]い道[みち]が一本[いっぽん][つづ]いております。
    いつのまにやら日[ひ]もとっぷりと暮[く]れました山道[やまみち]を二人[ふたり][なら]んでとぼーとぼ、と‥

    喜六[きろく]「せいやん、せいやーん」
    清八[せいはち]「なんちゅう声[こえ][だ]してんねん。なんや。」
    喜六[きろく]「えらい、淋[さび]しい所[ところ]に出[で]てきたな~ こんなとこ歩[ある]いてて、何[なに]も出[で]えへんか」
    清八[せいはち]「何[なに]も出[で]えへんがな。まあ、出[で]たところでカメぐらいやな。」
    喜六[きろく]「カメ? こんなところに亀[かめ]が出[で]るか?」
    清八[せいはち]「出[で]るで。頭[あたま]にオの付[つ]いたカメや。」
    喜六[きろく]「頭[あたま]にオの付[つ]いたカメ?こんなところに尾[お]が生[は]えてんの?」
    清八[せいはち]「違[ちが]うがな。オを言[い]うてカメを言[い]うのや。」
    喜六[きろく]「オ言[い]うてカメ? オカメ‥ オカメさんてべっぴんか?」
    清八[せいはち]「何[なに]を言[い]うてんねん。違[ちが]うがな‥ オを長[なご]う伸[の]ばしてカメ言[い]うのや。」
    喜六[きろく]「オを長[なご]う伸[の]ばすの? オーカメ? (ボーン) わい、オオカミ嫌[きら]いや‥」