月[つき]の巻[まき]

歌詞[かし]

    野路[のじ]の玉川[たまがわ][はぎ][こ]えて 色[いろ]なる波[なみ]と読[よ]み人[びと]の 俊頼卿[としよりきょう]に引[ひ]きかえて
    いざよう月[つき]のしなものに 冴[さ]えた仕丁[じちょう]の出立[いでた]ち栄[ば]
    [みず]の鏡[かがみ]に影[かげ]宿[やど]る 姿[すがた]をここに狩衣[かりぎぬ]
    [ぬし]やゆかしと振袖[ふりそで]に 包[つつ]む思[おも]いの解[と]けしなく
    [むす]ぶの神[かみ]の願事[ねぎごと]を 掛[か]け奉[たてまつ]る白張[しらはり]
    鳥帽子[えぼし]も気軽[きがる][き]さく者[もの]
    今日[きょう]のお出[い]では紺屋[こんや]の使[つか]い とはどうでんす
    [いろ]のことじゃと取[と]っている オゝさてそんなら明後日[あさって]
    ハテそうであろ そうかいな 忍[しの]び詣[もう]での帰[かえ]り路[じ]
    [くま]なき夜半[よわ]に雁金[かりがね]の 薄墨[うすずみ]に書[か]く玉章[たまずさ]
    [た]が夕紅葉[ゆうもみじ][お]り映[は]えて 秋野[あきの]の錦[にしき]いろいろの
    [いろ]を染[そ]めなす立田姫[たつたひめ] 姿[すがた]もさぞな朝顔[あさがお]
    [さ]す手[て][ひ]く手[て]に小車[おぐるま]の 花[はな]を巡[めぐ]らす舞扇[まいおうぎ]
    [かえ]す袂[たもと]をちょと男郎花[おとこめし] 何[なに]を紫苑[しおん]の仇心[あだごころ]
    [おぎ]の浮気[うわき]につい招[まね]かれて 薄[すすき]に露[つゆ]のこぼれ萩[はぎ] うらやまし

    千草結[ちぐさむす]びにこちゃよい殿[との]と 縁[えに]し定[さだ]めて二世掛[にせか]け香[こう]の嬉[うれ]しさに
    長柄[ながえ]の蝶[ちょう]の妹背事[いもせごと] いつかいつかとその蜩[ひぐらし]
    [ま]つに松虫[まつむし]やるせがのうて もしや夢[ゆめ]にも君[きみ]こおろぎと
    [なか]で蛍[ほたる]の焦[こ]がれていなご きりぎりす 寝[ね]もせで賤[しず]の遠砧[とおぎぬた]

    井出[いで]の山吹[やまぶき][かわず]がなぶる サッサそっこでどうじゃいな
    [まわ]る津[つ]の国[くに][う]の花[はな][かお]
    [つき]が鳴[な]いたか時鳥[ほととぎす] 武蔵[むさし]が調布[たっくり]野路[のじ]の萩[はぎ]
    野田[のだ]に千鳥[ちどり]よソレ高野[たかの]じゃ 飲[の]めぬ水[みず]

    鎌倉[かまくら][み]たか江戸[えど][み]たか 江戸[えど]は見[み]たれど 鎌倉名所[かまくらめいしょ]まだ見[み]ない
    派手[はで]な振袖[ふりそで]ソレそっこが花[はな]じゃもの エエそちらまで憎[にく]らしい
    テモさっても和御寮[わごりょう]は 誰[たれ]の神[かみ]の御胤[みたね]にて
    天冠[てんがん]かつらをしゃんと着[き]て 踊[おど]る振[ふ]りが見事[みごと]
    吉野[よしの]龍田[たつた]の花[はな]よりも 紅葉[もみじ]よりも 恋[こい]しき君[きみ]が殿造[とのづく]
    [はぎ]の枝折[しおり]をしるべにて いざやとあるを止[とど]むる袖[そで] ふりきり原[わら]の駒[こま]ならで
    [こころ]の手綱[たづな]一筋[ひとすじ]に 月[つき]の玉鉾[たまぼこ] あとにとほんとこりゃどうじゃ
    あいつ一人[ひとり]で取[と]り持[も]ちを 科土[しなど]の風[かぜ]に入船[いりふね]
    しかも常陸[ひたち]の鹿島浦[かしまうら] コレワイナ

    今年[ことし]ゃ世[よ]がよい豊年[ほうねん]で 米[こめ]が十分[じゅうぶん]色事[いろごと]
    ホウヤレホウ 穂[ほ]に穂[ほ]が咲[さ]くといな オヤモサ オヤモサ
    ヤア対[つい]の定紋[じょうもん]どうしたひょうりの瓢箪[ひょうたん]で ヨイヨイ
    [こい]を知[し]らざる 鐘[かね][つ]く野暮[やぼ]めは西[にし]の海[うみ] ヤレコレそこらでこれわいな
    可愛[かわい]がられた竹[たけ]の子[こ]も 今[いま]は抜[ぬ]かれて剥[む]かれて 桶[おけ]の箍[たが]に掛[か]けられて〆[しめ]られた
    [しめ]ろやれ ヤレコレそこらでこれわいな 面白[おもしろ]

    その戯[たわむ]れに興[きょう][ま]して また明日[あす]も来[こ]ん名所[などころ]の 眺[なが]めにあかぬ風情[ふぜい]かや