『仮名手本忠臣蔵[かなでほんちゅうしんぐら]』三段目[さんだんめ] 裏門[うらもん]の段[だん]

ある日[ひ]、勘平[かんぺい]がお軽[かる]と秘密[ひみつ]のデートをしていたとき、お屋敷[やしき]ではたいへんな事件[じけん]がおきていたんだ。勘平[かんぺい]は、そこにいなかったことを悔[く]やんで、切腹[せっぷく]しようとした。でも、お軽[かる]はそれを止[と]めて、自分[じぶん]の実家[じっか]で暮[く]らそうと勘平[かんぺい]に言[い]ったよ。

登場人物[とうじょうじんぶつ]

    早野勘平[はやのかんぺい]
    塩冶判官[えんやはんがん]の家来[けらい]。お軽[かる]の恋人[こいびと]
    お軽[かる]
    塩冶家[えんやけ]の腰元[こしもと]。勘平[かんぺい]の恋人[こいびと]
    鷺坂伴内[さぎざかばんない]
    高師直[こうのもろのう]の家来[けらい]。前[まえ]からお軽[かる]が大好[だいす]き。

    このビデオに登場[とうじょう]するその他[た]の人物[じんぶつ]
    塩冶判官高貞[えんやはんがんたかさだ]:勘平[かんぺい]とお軽[かる]の主人[しゅじん]
    大星由良之助[おおぼしゆらのすけ]:塩冶判官高貞[えんやはんがんたかさだ]の家来[けらい]
    高師直[こうのもろのう]:鷺坂伴内[さぎざかばんない]の主人[しゅじん]

大夫[たゆう]が語[かた]ることば

    説明[せつめい]腰元[こしもと]お軽[かる]は道[みち]にてはぐれ
    お軽[かる]ヤア勘平[かんぺい]どの、様子[ようす]は残[のこ]らず聞[き]きました。
    説明[せつめい]こりゃ何[なん]とせ[しょ]う、どふ[う][しょ]うと取付[とりつ]き、嘆[なげ]くを
    [と]って突[つ]き退[の]
    勘平[かんぺい]エヽめろめろと吠[ほ]え面[づら]、コリャ勘平[かんぺい]が武士[ぶし]は廃[すた]ったわやい。もふ[う]これまで
    説明[せつめい]と刀[かたな]の柄[つか]
    お軽[かる]アヽコレ待[ま]って下[くだ]され。こりや狼狽[うろた][え]てか勘平[かんぺい]どの
    勘平[かんぺい]ヲヽ狼狽[うろた][え]た。これが狼狽[うろた][え]ずにゐ[い]られふ[りょう]か。主人[しゅじん]一生懸命[いっしょうけんめい]の場[ば]にも在[あ]り合[あ][わ]さず、あまつさへ、囚人[めしゅうど]同然[どうぜん]の網乗物[あみのりもの]お屋敷[やしき]は閉門[へいもん]、その家来[けらい]は色[いろ]に耽[ふけ]り御供[おんとも]に外[はず]れしと人中[ひとなか]へ、両腰[りょうごし][さ]して出[で]られふ[りょう]か。こゝを放[はな]
    お軽[かる]マアマア待[ま]って下[くだ]さんせ
    勘平[かんぺい]イヤサ放[はな]
    お軽[かる]マアマア待[ま]って下[くだ]さんせいな。尤[もっと]もじゃ道理[どうり]じゃが、その狼狽[うろたえ]武士[ぶし]には誰[た]れがした。皆[みんな]わしが心[こころ]から、死[し]ぬる道[みち]ならお前[まえ]より私[わたし]が先[さき]へ死[し]なねばならぬ。今[いま]お前[まえ]が死[し]んだらば、誰[た]が侍[さむらい]じゃと褒[ほ]めまする。こゝをとっくりと聞[き]き分[わ]けて、私[わたし]が親里[おやさと]へひと先[ま][ず][き]て下[くだ]さんせ。とゝさんもかゝさんも在所[ざいしょ]でこそあれ頼[たの]もしい人[ひと]、もふ[う][こ]うなった因果[いんが]じゃと、思[おも][う]て女房[にょうぼ]の云[い][う][こと]も、聞[き]いて下[くだ]され勘平[かんぺい]どの
    説明[せつめい]とわっとばかりに、泣[な]き沈[しず]
    勘平[かんぺい]ヲヽそふ[う]じゃ尤[もっと]も。そちは新参[しんざん]なれば委細[いさい]の事[こと]は得[え][し]るまい。お家[いえ]の執権[しっけん]大星由良之助殿[おおぼしゆらのすけどの]、いまだ本国[ほんごく]より帰[かえ]られず。帰国[きこく]を待[ま]ってお詫[わ]びせん。サアいっ時[とき]なりとも急[いそ]がん
    説明[せつめい]と身拵[みごしら][え]するそのところへ
    鷺坂伴内[さぎさかばんない]、家来[けらい]引連[ひきつ]れ駆[か]け出[い]
    伴内[ばんない]ヤアヤア勘平[かんぺい]。汝[うぬ]が主人[しゅじん]の塩冶判官[えんやはんがん]、おらが旦那[だんな]の師直様[もろのうさま]と、何[なに]か知[し]らぬが殿中[でんちゅう]に於[おい]て、あっちゃの方[ほう]でぼっちゃくちゃ、こっちゃの方[ほう]でべっちゃくちゃ、ちゃっちゃむちゃくちゃ話[はなし]のうち、小[ちい]さ刀[がたな]をちょっと抜[ぬ]いてちょっと斬[き]った科[とが]によって、屋敷[やしき]は閉門[へいもん]網乗物[あみのりもの]にてエッサッサエッサッサ、エッサ、エッサ、エッサッサとぼっ帰[かえ]した。追[お]っ付[つ]け首[くび]がころりと飛[と]ぶは知[し]れたこと。サア腕[うで][まわ]せ。連[つ]れ帰[かえ]ってなぶり斬[ぎ]り、覚悟[かくご]ひろげ
    説明[せつめい]とひしめけば

    *大夫[たゆう]が語[かた]ることばは昔[むかし]のかなづかいで書[か]くんだ。ひらがなに[ふりがな]をつけた所[ところ]だよ。