東京芸術大学 大学院 音楽研究科
音楽文化学専攻 音楽音響創造研究分野
質疑内容

Q. 音楽音響創造での研究テーマの具体例は? また、研究テーマはどのようにして決定しますか?

A. 音楽音響創造では大きく音楽製作と音響の2つのゼミに分かれます。
音楽制作関連では、過去に以下のような研究テーマによる論文が提出されました。
・ライブ・エレクトロニクス・ミュージックにおける創作技法の変遷
・日本電子音楽の創世記〜東京藝術大学音響研究室の活動〜
・西洋音楽の受容が和楽器に与えた影響
・児童を対象とする音楽を用いたパフォーマンスの可能性
また音響関連では以下のような研究を行っています。
・スタジオ内でのマイクの位置と録音された音の印象について
・高さ方向のサラウンド再生について
・奏楽堂の天井の高さの違いによるマイクの位置の違いについて
・演奏者が好む練習環境の響きについて
研究テーマは学生と教員が時間をかけて検討し決定します。どちらのゼミも研究と実践の双方に重きを置いています。

Q. 音響心理学は具体的にどのような研究を行っていますか?

A. 音や音楽を扱う心理学としては音楽心理学と音響心理学という二つの分野に分かれます。音響心理学では、メロディ等の音楽的な要素をできるだけ扱わないで、音そのものに対する生理・感覚・印象の関係を研究します。それに対して音楽心理学は音楽を聴いたときの心理的変化の研究をします。音楽音響創造で扱っているのは音響心理学がメインになります。
 現在教員が行っている研究には、ヘッドフォンを使って音像の定位を自由に操る研究や、エフェクト・プロセッサによる楽音の音色の変化などが挙げられます。また、商業空間で流すBGMに関しての研究もあります。

Q. 録音技術を勉強することはできますか?

A. 本格的な録音の勉強ができる環境にあると自負しています。
 ここでの一番大きなメリットは、上野校地の音楽学部の優秀な学生達の演奏を録音できることです。
 録音について教えている他の大学や専門学校では、演奏者を確保することは難しいようですが、ここでは演奏者と密にコミュニケーションが取れるということが、最大のアドバンテージと考えています。
 どちらかというとクラシックの録音が多くはなりますが、中にはドラムの音の録音を研究している学生もいます。

Q. 録音の勉強をするにあたって音楽大学では理数系の知識が不足しがちだと思われますが、その点についてどのように考えていますか?

A. 海外の大学での録音専攻は理数系と音楽の勉強を合わせてするのが一般的です。
 それに対して日本は早くから文系理系に分かれてしまって、音楽を志す人が高校までに数学などの勉強をしてくるというのは少ないのが現状です。もちろん両方知っておく必要はあります。
 ただ音楽を勉強してきた人が録音に必要な理数系の知識を習得するのと、理数系の勉強をしてきた人が必要な音楽的な素養を習得するのでは前者のほうが圧倒的にスムーズです。
 例えば録音するにあたってdB(デシベル/音の強さの単位)に関することなどは必須なのですが、音楽音響創造では実際に音を聴かせて「これは何dB」というように理屈よりも先に感覚として覚えてもらいます。その上できちんと理論的なことを理解してもらうようにしています。
 理数系の知識の習得には時間はかかるかもしれませんが、ある程度教科書を読めば分かる部分でもあるので、個人のレベルに対応して指導しています。
 昔は技術のバックグラウンドがないと録音機材を扱えませんでしたが、逆に今は誰もが使えるような機材が増えてきました。そういう意味では理数系の人間以外にも録音技術者としてのハードルはどんどん低くなっています。それよりも音楽に対する理解や演奏者とコミュニケーションがとれることの方がはるかに重要になってきています。

Q. 上野校地から演奏者を招いてレコーディングをおこなうということですが、それは定期的に行われているのでしょうか?

A. 学部のほうではプロジェクトという授業で時々演奏者を呼んで録音を行っていますが、それ以外にも自分たちの研究に合わせて各自が依頼して随時録音をおこなっています。

Q. 録音や作品制作のための演奏者は芸大の学生に限定されているのですか?

A. コミュニケーションを取りやすいということで芸大の学生に依頼することが多いですが、必要に応じてプロの方を呼ぶこともありますし、ギターや民族楽器などの場合は該当する学科が無いので学外からも来てもらうこともあります。

Q .Max/MSPなど、プログラミングを用いた作品制作を勉強したいのですが、どこの研究分野に属しますか? また、このようなプログラミング技術を学んでいる学生は学部生も含めてどのくらいいるのですか?

A. 音楽音響創造で学ぶ事ができます。
 Max/MSPなどのプログラミングは、作品制作を目的とするゼミで勉強していますが、それ以外でも音楽環境創造科の授業で学ぶ機会があります。また、大学全体の施設である芸術情報センターでも、Max/MSPなどを扱った講義が開講されており、音楽だけでなく美術の学生も学んでいます。

Q. 作曲のレッスンのようなものは行われますか?

A. 基本的には上野で行われているような定期的な個人レッスンという形はとっていません。
 設定されている少人数のゼミでは全員で創作の研究を行いますが、必要に応じて個人レッスンも行っています。

Q. 映像作家とのコラボレーションなど音と映像に関して研究したいのですが、横浜の映像研究科と音楽音響創造ではどちらのほうが適していますか?

A. 映像研究科の音と映像に関する研究分野については、横浜の映像研究科にお問い合わせ下さい。音楽音響創造では、映像のための音楽制作や研究を行っており、これまで映像研究科や美術学部デザイン科、絵画科(油画専攻)との共同制作を続けています。

Q. 児童や幼児と音楽の関連について勉強したいのですが、実際に幼児を学校に連れてきて研究をおこなうことはできるのでしょうか?

A. 研究内容によります。児童心理学などは専門的に確立されている分野であり、そこを避けて児童・幼児の心理にアプローチするのは容易ではありません。すでに児童心理学を学び、なおかつ音響心理学の研究方法論を十分に習得したうえで児童心理学の要素を加えた研究を行いたいのであれば、この科で勉強することは可能です。

Q. 自分たちが制作した作品を一般に公開する機会はありますか?

A. 様々な機会があります。
 大学の公式な公開の場として一番大きなものでは修士の修了作品展があります。また修士1年生は12月に開催される“アートパス”というイベントに参加して作品を発表することができます。
 その他には自主企画のコンサートや外部のコンペティションに参加するなど、各自が様々な機会を利用して発表の場を持っています。事前に申請して認められれば、キャンパス内で作品発表することも可能です。
 受託研究として学外と連携し、作品を発表している例もあります。

Q. 学部の授業の単位は大学院でも認められますか?

A. 学部の授業で単位として認められる枠があります。上野校地の授業を履修することも可能です。

Q. 声楽やピアノの授業は北千住で開講されていますか?

A. 学部の開設科目ですが声楽実技演習や副科ピアノなどがあります。
 声楽実技演習は複数によるレッスン形式で、単に歌唱指導を受けるだけではなくそれを通して声による表現を学びます。
 副科ピアノは上野と北千住両方で行われ希望によりレッスンの場所を選択することができます。これらは残念ながら大学院生を対象にしているものではないのですが、副科実技の中にはグループレッスンで大学院生が参加できるものもあります。

Q. 今の学校のシステムでは産学共同のようなものを持ちかけることは可能ですか?

A. 可能ですが研究テーマを担当の教員と話し合った上で行う必要があります。例えば関連する学会やアートパスなどの発表の場を通して企業にアピールすることで、産学協同につながることも期待できると思います。


Last modified: 2010-08-10 16:12:25