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資料紹介(図書)
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東京藝術大学音楽学部音楽研究センター『サウンド・アーカイヴの構築に向けての研究』 東京:私家版、平成17年。分類番号 B2/T646-3。  

 本書は、平成14年度から16年度に東京藝術大学音楽学部音楽研究センターが科学研究費補助金を受けて行った「サウンド・アーカイヴの構築に向けての研究」の成果報告書である。本研究では、市販のCD・LP等ではなく、教育研究の現場で収録されてきたテープやヴィデオを対象に、「東京藝術大学が所蔵する音響資料を検索・試聴することのできるサウンド・アーカイヴの基盤を構築すること」を目的として、資料の調査、データベース構築、音声データのデジタル化等が試みられた。
 本報告書の実質的な中核は、資料編にある。1949年から2004年度末までに、東京藝術大学音楽学部、演奏芸術センターが開催した659件の演奏会(定期演奏会、メサイア、その他特別演奏会等)のデータが、約100ページにわたり以下の二様で提示される。
  1. 演奏会一覧
   年代順に演奏会の概要を俯瞰できる簡易版である。
   演奏会名、回数、年月日、特記事項、デジタル化状況、
   プログラム表紙の取り込み数、音響資料の有無が記されている。
  2. 演奏会総覧
   演奏会のカテゴリー毎に回数順に配列された詳細版である。
   演奏会名、回数、年月日・開演時刻、会場名、プログラム内容(基本的に和文)、
   音源の所蔵状況、表紙画像が記されている。
 報告書作成にあたり、欧文による記述など割愛された情報もある。また、限られたスペースに最大限の情報を盛り込んだため、小さな文字がぎっしりと並び、記載された内容を読むには大変骨が折れる。
 しかし、演奏会の概要とプログラム表紙がずらりと並ぶさまは、なかなか壮観である。ぱらぱらとページをめくりながら眺めてみるだけでも、「ヂュゼッペ ヴェルディー」「モオツァルト」「ドゥビュッスィ」のような今では使われることのない表記が目に飛び込んでくるし、プログラム表紙を見るだけでも楽しい。人名や曲名の表記、プログラムの表紙デザイン、使用会場、曲目、演奏者、録音・録画の媒体──これらから、時代の変遷を読みとることができる。
 コストの関係から致し方ないのであろうが、カラーでないことが惜しまれる。特に最近の演奏会プログラムは、凝ったデザインのものが多く、モノクロでしか見られないのは残念である。
 東京藝術大学が所蔵する音響資料は、諸事情により今ただちに公開、活用できる態勢にはなっていない。しかし、本報告書によって演奏会の情報と音響資料の所蔵状況とが一覧できるようになったことで、本学がその長い歴史の中で記録してきた貴重な音響資料の活用に向けて、大きな一歩を踏み出したといえよう。また、本報告書自体が、芸大の歴史の記録であり、既刊の『東京芸術大学百年史演奏会篇』(音楽之友社 1990〜1993年)と互いに補完しあうものといえる。 (富田信治)  

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