開催主旨

 1978年にパリの装飾美術館、翌年にはニューヨークのクーパー・ヒューイット美術館で開催され、その後ヒューストン・シカゴ・ストックホルム・ヘルシンキと巡回して好評を博した"MA; Space-Time in Japan"展が20年ぶりに里帰りします。
 「間」という言葉が、日本の芸術・文化において最も重要な概念であることは言うまでもありません。目に見えない「間」を感じ、表現することは、芸術の核心であるばかりでなく、生活上の基準でもあり続けてきました。建築・庭園・美術・音楽・演劇がすべて「間」の芸術と呼ばれるように、文化のすべての領域において、それは認識の基本となっています。
 我々は絵画における余白、音楽における休止、舞踊における停止などを「間」と呼びます。こうした例から解るように、それは空間の概念とも、時間の概念ともいえます。時間と空間が渾然一体として感じられることが「間」というものの特色なのです。このことは両者を別の系列として分断し、分析の対象としてきた西洋近代の文化と著しい対照をなしています。このような特殊な時空間の認識方法が、我々の文化と芸術を規定してきたのです。
 さらに現代日本のアーチストたちにも、そのような伝統的な規範・美意識と共通する感性を認めることができるのではないでしょうか。そのことを「間」にまつわる4つのキーワードで浮かび上がらせようとするのが本展のねらいです。
 本展は、当館の客員教授である磯崎新によって組織されたものです。日本の伝統的な美意識の継承が困難に感じられる今日こそ、このような自覚的・意識的な方法で自国の文化を読み解こうとする試みが重要な意味を持つのではないでしょうか。