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Ⅰ.Dコンサート1~3 ―開催報告とアンケート結果
森田 都紀
音楽研究科リサーチセンターでは、2011年度(平成23年度)より、博士号取得者が研究成果を発信することを目的とした新しい音楽イベント「Dコンサート」を開催した。第1回「境界を越えて音楽する身体」を2012年1月21日(土)に、第2回「演奏家と共に探る音楽の新しい聴き方」を2012年7月1日(日)に、いずれも東京藝術大学音楽学部内第6ホールにて、第3回「交錯するアイデンティティと音楽する意志」を2012年11月16日(金) にカワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」にて行った。ここでは全3回のコンサートの概要と、開催後に行われたアンケート結果について報告する。
1.第1回Dコンサート:「境界を越えて音楽する身体」
第1回Dコンサート「境界を越えて音楽する身体」は2012年1月21日(土)14:30~17:30に4名の博士号取得者を迎えて行われた。全体は2部で構成されており、第1部がワークショップで第2部がコラボレーションであった。当日はあいにくの悪天候であったが、来場者は110名余であった。発表後に熱心な質問をいただいたほか、配布したアンケートには4割以上の方々が回答くださった。当日のプログラムは下記のとおりである。
◎第1部 ワークショップ
- 鈴村真貴子(ピアノ):「F. プーランクのピアノ作品演奏法」
- 佐藤容子(声楽):「詩の朗読が生み出す歌唱表現」
- 福富祥子(チェロ):「音楽とからだの調和を見つける」
- 花柳美輝風[金子祐木](日本舞踊):「日本舞踊独自の表現を探求する」
ワークショップ形式である第1部では、全体テーマである身体性を巡って、博士研究に基づく研究成果をもとに実演を交えた発表が行われた。発表後には、会場からの反応に応えて質疑応答がなされた。
第1部 ワークショップ
◎第2部 コラボレーション
- 5.佐藤容子(声楽)、鈴村真貴子(ピアノ)、花柳美輝風(日本舞踊):
瀧廉太郎《荒城の月》 - 6.福富祥子(チェロ)、福富彩子(ピアノ):
シューマン《幻想小曲集》 - 7.鈴村真貴子(ピアノ):
プーランク《3つの常動曲》 - 8.鈴村真貴子(ピアノ)、花柳美輝風(日本舞踊):
プーランク《即興曲第13番》《即興曲第15番》 - 9.佐藤容子(声楽)、鈴村真貴子(ピアノ)、福富祥子(チェロ)、花柳美輝風(日本舞踊):
中田章《早春賦》
演奏会形式である第2部では、出演者の専門領域を交錯したコラボレーションを演奏した。様々な組み合わせで行われた演奏からは新しい演奏の可能性が示唆されることとなった。第2部の途中には、出演者全員によるトークもあり、中村美亜(音楽研究科リサーチセンター助教)から「演奏家は演奏だけを行っていればいいのではないか、という意見も実際、あるのではないでしょうか。演奏家にとってなぜ研究論文が必要なのでしょう?」という問いかけがなされた。これに対して出演者からは、「論文執筆では普段、演奏で使っているのとは違う頭の使い方をするので、実際、とても大変ではあるのですが、論文にまとめたことが確実に演奏にフィードバックされていることを実感しています」「それでもやはり執筆作業ばかりしていると理屈っぽい演奏になってしまっていると感じることがあるので、そういう時は初心の『演奏』に立ち戻る必要があると思います」などの答えがあり、博士課程での研究の様子が窺えた。
第2部:コラボレーション
午後2時30分から約3時間にわたる長丁場の会となったが、終演後には熱心にアンケートに回答していただいた。下記に挙げるのはその一部である。
◎アンケート結果
*第1部の研究成果発表では、どういう点が興味深かったですか。
- 「音楽、芸能に学術的に取り組むというのは想像をするだけで大変だと思うが、皆さん演奏家であるだけに、色々な悩みや疑問点を出発点にして取り組む姿は素晴らしい。感心した。」
- 「普段の演奏会では機会のない、様々な研究発表を聴くことができ、大変興味深かったです。演奏時の体の使い方、姿勢など、大事なことだろうことは判っているつもりでしたが、具体的にお話いただけたのは大変良かったと思います。」
- 「ご自身のジャンルを掘り下げて研究され、まったく勉強もしたことがない私達にもわかる様な発表でした。」
- 「演奏家の方の、作品に対する想いをどのようにまとめあげてゆくのかのプロセスを知る手がかりになる、貴重なお話でした。」
- 「音楽の全くの素人である私でも、すごく楽しめた発表でした。例えば、文学や経済学、医学の博士課程修了の人が専門の話をレクチャーしてもこれほど興味をもたせる話はできないと思うので、芸大の高い教育レベルにおどろきました。」
- 「既成の学問ではなく、自らで学問を作り出す姿勢が素敵です。」
*アーティストによる研究発表に引き続き、第2部で実演を聴いて/観ていただきましたが、いかがでしたか。
- 「ひとつひとつ試みとしても面白いし、作品としてちゃんと成立していたように感じた。研究と実演は矛盾しないと感じた。」
- 「特に日本舞踊を含んだコラボなんて初めて見聴きした。さすが芸大ならではの芸術で、ビデオ・録音をとって配れたら素晴らしいのに。実技と理論の融合に先頭を切って頑張って欲しい。」
- 「4人のアーティストの方の発表が、それぞれ演奏を見たり聴いたりするときのポイントになりました。普段より目の前のパフォーマンスに深くかかわれたと思いました。」
- 「プレゼンテーションと演奏を続けて聴けたので、焦点がわかりやすく、新しい発見や感動がありました。」
- 「クラシック音楽と日本舞踊の組み合わせがとても面白かった。曲調によって踊りの表情も違い、ストーリー性が見えるようだった。」
- 「こんな愉快な楽しいコラボがあるなんて!若き一流の先生方が、今まで誰も創ったことのないことに挑戦する、その瑞々しい魂とクリエイティブさに感動しました。」
*21世紀の芸術活動を担う若いアーティストたちに何を期待しますか。どういう役割を社会で演じてほしいですか。
- 「社会が応援しなければと思うが、ぜひ国際貢献活動に活躍の場を拡げてください。」
- 「古い考えにとらわれない柔軟な世界を築いて行ってほしいと思います。」
- 「枠にはまらず、自分の考えや演奏やパフォーマンスを発信しつづけてほしいと思います。」
- 「沈みそうな日本を、浮き上がらせてくれるような音楽で一杯にして下さい。」
- 「アーティストと接する「場」が拡がっていくと良いと思う。」
- 「日本文化をどんどん外国に発信してほしいです。」
- 「動物的な感性の部分と、理性・学問の部分の『良き通訳』になって下さい。」
*その他(同じような試みをぜひ続けてほしいという声が多数寄せられました)。
- 「すごく面白かった。感謝します。つづけて下さい。」
- 「今日のコンサートは、例えば朝日カルチャーセンターなどでのとても受講料の高いものに劣らないと思う。ぜひこのような形で続けていっていただきたいです!」
- 「今回のような講演会がまた開催されれば、大変よいと思います。」
第2部:出演者全員によるトーク