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Ⅰ.Dコンサート1~3 ―開催報告とアンケート結果

森田 都紀

2.第2回Dコンサート:「演奏家と共に探る音楽の新しい聴き方」

第2回Dコンサートポスター:表  第2回Dコンサートポスター:裏

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第2回Dコンサート「演奏家と共に探る音楽の新しい聴き方」は、前年度博士号を取得した4名を迎えて、2012年7月1日(日)14:30~17:30に行われた。出演者は、博士課程での研究成果を実演を交えて発表した。当日の来場者は前回の第1回Dコンサートを上回る130余名、インターネットでのライブ中継の視聴者数は累計70(常時視聴者数は12前後)であった。発表後には会場から熱心な質問をいただき、配布したアンケートにも3割以上の方が回答くださった。当日のプログラムは下記のとおりである。

◎研究成果発表と演奏
  1. 佐藤淳一(サクソフォン)
    L.べリオ《セクエンツァⅦb》より
    「ルチアーノ・ベリオ論:注釈技法の研究とその起源を巡って」
    サクソフォン:佐藤淳一、大石俊太郎、本堂誠、上野耕平、藤本唯
  2. 澤江衣里(声楽)
    R.クイルター《7つのエリザベス朝の歌》より
    「詩と音楽から捉える発展的な歌唱旋律の探求:R. クイルターの歌曲集《7つのエリザベス朝の歌》Op.12を通して」
     ソプラノ:澤江衣里 ピアノ:村田千佳
  3. 東音 河合佐季子[河合佐希子](長唄三味線)
    能《船弁慶》と長唄《船弁慶》
    「吾妻能狂言の研究:その芸態と後世への影響」
     観世流シテ方:青木健一 長唄:東音 村尾俊和 長唄三味線:東音 河合佐季子 東音 渡辺麻子
  4. 山本美樹子(ヴァイオリン)
    R.シューマン《ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番》WoO2より
    「R. シューマン《ヴァイオリンソナタ第3番イ短調》WoO2 作品論」
     ヴァイオリン:山本美樹子 ピアノ:村田千佳

出演者は、博士研究に基づく研究成果の一部を実演しながらわかりやすく発表し、関連する曲目を演奏した。

佐藤淳一

佐藤淳一

山本美樹子

山本美樹子

◎出演者によるクロス・トーク (司会:中村美亜)
◎オリジナル・コラボレーション

《浜辺の歌》
成田為三/ 作曲 林古渓/ 作詞 編曲:簑田弘大
ソプラノ:澤江衣里、サクソフォン:佐藤淳一、長唄三味線:東音 河合佐季子
ヴァイオリン:山本美樹子、ピアノ:村田千佳

「出演者によるクロス・トーク」では、出演者全員でトークを行なった。「音楽家にとって研究をするということはどういうことなのか」という中村の問いかけに対して、各出演者の回答は次のようなものであった。

佐藤:
今回のDコンサートは発表の新しい形として企画されているが、こうした形は当たり前のものとして今後も求められていくものだと思う。演奏することは分析することであり、分析することは演奏することにつながる。常日頃からこうした意識をもってやっていきたい。
河合:
邦楽では研究という分野はあまり進んでいない。実演する人は研究するべきでなく演奏に徹するべきであるという風潮がある。しかし、これまでのような口伝による伝承に頼っていると残っていかないものもあると思われるので、文字として研究成果として残していくことが大切である。また、いわゆる研究者は実際に演奏することはできないので、私たち中間にいる者が具現化し、パフォーマンスとして表していくことが大切だと思う。その両方を行き来できる立場として、これからも研究を続けていきたい。
山本:
音楽は、絵を鑑賞するのとは違って、間に私たち演奏者が介入する。私たちが感じ表現したいものに聴衆が共感してくれるかどうかにかかっている。だからこそ、私たちがそこに何を感じているかを深く理解しようとし、かつそれを表現しようというはっきりとした意志を持たなければ人に伝わらないと思う。音楽は言葉にできないといわれるが、言葉にできなくても自分に問いかけることが重要だと思う。
澤井:
自分にとって研究するとは、楽譜を見たときにその作曲家がどういう思いでこれを書いたのかということを汲み取るというところにある。その先に、何か表現するものが自分の中にあり、それを皆さんに伝えていくことができたらよいと感じている。

最後には、全員で《浜辺の歌》を演奏した。午後2時30分から約3時間にわたる会となったが、終演後にはアンケートにも熱心に回答していただいた。その回答の一部は次の通りである。

◎アンケート結果
*「研究成果発表と演奏」では、どういう点が興味深かったですか。
  • 「芸大はたんなる演奏技術向上センターでないことが、このDコンサートでよくわかりました。大変な学識とその伝達と表現においても抜群、さすが芸大です、久々の実のある講義、襟を正して拝聴いたしました。芸大あっての充実した老後、心から感謝しております。」
  • 「説明と演奏をその場で対比しながら聞けてより理解が深まりました。また多種多様な音楽を一度に聞けて興味深かったです」
  • 「音楽は聴くことのみの素人的鑑賞で楽しんでいましたが、各々が研究テーマをみつけ、深く掘り下げて極めておられる姿勢に感心しました。とても感動し、新たな鑑賞の仕方に気づかされました。」
*「出演者によるクロス・トーク」では、どういう点を楽しんでいただけましたか。
  • 「演奏家と研究とのテーマ、自由でおもしろかった。」
  • 「なぜ研究するのか、というそれぞれのモチベーションが興味深かったです。」
  • 「東京芸術大学に学んだ意義を皆さん理解し、演奏のあるいは曲の本質を研究し続けていくという皆さんの意気込みは素晴らしい!」
  • 「分析すること、作曲すること、演奏することの関係について聞くことができてよかったです。」
*「オリジナル・コラボレーション」を聴いていただきましたが、いかがでしたか。
  • 「芸大ならばのオリジナル・コラボ。何と愉快で楽しくて素晴らしいのでしょう。かなしみの中にいる人々にこそ、聴かせてあげたいです。不思議な感動で泪が出てきました。」
  • 「演奏者の感性、人間性の深さ、高さを感じました!ステキなアンサンブル!!でした!」
  • 「異色中の異色のようなコラボは最高な感激でした。こんなことができるのもレベルの高さの証です。間近に聞かせていただきありがとうございました。息づかいまで感じました。今後に大きな期待をしております。」
  • 「とても良かった。邦楽をどのパートを弾くかによって、浜辺の歌の印象も異なった。これからももっと三味線、能楽、西洋音楽などの混成でいろいろと試してもらいたいと思った。」
*21世紀の芸術活動を担う若いアーティストたちに何を期待しますか。どういう役割を社会で演じてほしいですか。
  • 「音楽が社会を豊かにしていくことは間違いないと思うので、音楽と自分と向き合うだけでなく、聴く人と社会に大きく目を向けて、社会から必要とされる人材になってこそ音楽のすばらしさもより広がると感じます。」
  • 「芸大ならではの裏付けを求める音楽演奏の姿勢を西洋と東洋のコラボを通じて面白さを伝えていってほしいと思います。」
  • 「アジアの中の日本の特性を織り込んで西洋音楽の表現の領域をひろげてほしい。芸術は感謝を捧げる分野の面もあるように思える。演奏家の役割は大きいので頑張ってください。」