サポート活動

Ⅱ.成果発信

1.『博士学位記録』の刊行 ―作品・演奏・研究成果の発信

吉川 文

音楽研究科リサーチセンターの活動において、博士課程の現状の調査研究と関連し、博士学位に関わる研究成果や演奏実践等の様々な記録を残すこと、さらにそれを広く発信していくことは重要な課題のひとつである。ここでは、博士学位に関わる記録を残し、さらにそれを対外的に発信していくにあたってリサーチセンターが行った具体的な取り組みのひとつとして、『博士学位記録』冊子の発行に関わる活動についてまとめる。

§1.博士学位審査演奏会の録音・録画

博士学位の審査については、学位申請者の提出した研究論文と学位審査演奏会(作曲を専攻する場合には提出作品)の両方を併せた形で行われる。審査対象となる演奏会は公開されているが、その記録を残しておくことも学位授与の観点から重要であろう。しかし、これまで演奏時の録音・録画等の記録に関しては申請者の側に委ねられるきらいがあり、そのための手順が確立されていなかった。音楽研究科リサーチセンターでは設立時からこの問題に取り組んできた。演奏会の記録としては、その録音・録画が必須であるが、技術的な問題からもリサーチセンター内でそのすべてを担当することは不可能であるため、学内組織である音楽研究センター音響研究室と連携し、音響研究室のスタッフを中心に実際の録音・録画作業が行われている。リサーチセンターでは、この作業を円滑に進めるための事前準備・事後処理を担当する。

具体的な事前準備としては、演奏会実施に関わる情報収集が必須であり、演奏会の日時・場所・共演者の有無・演奏会プログラム・当日のタイムスケジュールについて演奏者に詳細を確認し、録音・録画に必要な楽譜の授受に携わる。リサーチセンター設置後、博士学位審査演奏会そのものの対外的公開性をより高めようとの意図もあって、学内にある奏楽堂施設を学位審査演奏会のために使用できる期間が設けられるようになった。このため、演奏会はある一定期間にまとまって行われる傾向にあるが、必ずしもすべての学位申請者が同じ時期に演奏会を開催するわけではなく、それぞれが審査委員、共演者の日程、演奏形態などの様々な状況に応じて準備を行っている。このため、録音・録画全体の作業準備のためには、すべての演奏会の情報について一元化して扱う部署が必要となり、リサーチセンターがその任に携わる形となる。

事後処理として、音響研究室から録音・録画データを預かり、リサーチセンター内に保管している。録音データについてはリサーチセンター内で編集を行うためのリソースを持たないため、音響研究室において編集済みの資料を保管するが、録画データについてはリサーチセンターで編集作業を行い、演奏者、演奏曲目などの情報を含めた形で資料化して保管する。また、学位申請者に対して録音・録画データの授受などの対応にもあたっている。なお、データの保管や録音・録画データの授受の対応については、学内に新たに設置された総合芸術アーカイブセンターに作業を移管しつつある。

総合芸術アーカイブセンター作成のウェブサイト
 藝大ミュージックアーカイブ

§2.『博士学位記録』冊子の発行

芸術系博士学位に関する対外発信の必要性から新たな取り組みとしてはじめられたのが『博士学位記録』冊子の発行である。冊子には、センター設置後の2008年度以降、その年度の学位取得者の研究論文要旨をまとめて掲載するとともに、研究論文と併せて審査された学位審査演奏会のプログラムを掲載し、さらに実際の録画データからその一部を抜粋して演奏記録の形にまとめたDVDを編集・作成、添付した。なお、作曲専攻の学位取得者の場合、学位審査は提出された作品(楽譜)によって行われ、学内での審査演奏会という形をとらないため、可能な場合は当該作品の録音記録の提供を学位取得者に依頼し、その一部を抜粋してDVDに含めるようにした。

冊子作成のための作業全般にあたったのがリサーチセンターで、研究論文要旨については、大学に提出された要旨を元に各執筆者に内容確認を行った。演奏会プログラムについては、演奏会開催時に収集した情報に基づいてリサーチセンターでまとめる。また、DVD作成にあたっては、演奏者全員の著作隣接権が発生するため、学位申請者それぞれを通じて全演奏者に許諾を求めた。なお、作曲専攻の学位取得者の作品演奏会に関しては、リサーチセンターから演奏者や演奏会主催者等に同様の許諾依頼を行った。さらに、リサーチセンターで保管する録画データから、演奏会抜粋DVDを編集・作成する。また、収録楽曲の著作権状況を確認し、著作権処理が必要な場合には日本音楽著作権協会に対する著作権処理申請を行った。

『博士学位記録』冊子は、学位取得者の成果発信のひとつの形態として、そして博士学位授与に関わる記録の公開性に資するものとして、一定の役割を担ったと考えられる。今後は博士データベース等を通じて、こうした成果発信、記録公開が担保されていくことになるであろう。また、演奏会の録音・録画の事後処理に関しては、総合芸術アーカイブセンターへの移管が進みつつあるが、事前処理についてもいずれかのあり方での継続が必要とされる。

2008年度 2009年度 2010年度 2011年度
2008年度 2009年度 2010年度 2011年度