研究概要

丸井淳史

2019年12月1日

当研究室では「人間が音を聞いて何らかの印象を抱くしくみを理解し、音楽制作・音楽享受に応用できるようにする」という目標のもと、研究を行っています。そのために、

などの知識を身につけ、それらを道具として使いながら、音とそれに対する人間の印象との関係を調べています。

具体的な内容として、丸井は以下の3分野の研究を進めています。

  1. 聴能形成の効果的な方法
  2. 音楽のヘッドホン再生
  3. 楽器用エフェクタ

聴能形成訓練の効果的な方法 / Effective Method for Technical Ear Training

音楽録音に限らず音響に携わる人々にとって、音の小さな変化を識別することと音の判断基準を持つことの二点はとても重要な能力です。聴能形成とは、それらの能力を短期間で身につけ、音に対する鋭い感性を養うための訓練方法です。

音楽環境創造科では、九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)にルーツを持つ方法と、ポーランドのショパン音楽院にルーツを持つ方法とを融合させた独自の方法を用いています。音の強さ(レベル)の違いを聞き分ける訓練、音のスペクトルのどの周波数にどの程度のピークやディップがあるかを聞き分ける訓練を通して、1年間でほぼ全ての受講生が音の識別能力を持つことができます。

しかし、聴能形成はレッスン形式で進められることが多く、(1)学習者のレベルに合わせた難易度の設定、(2)学習に適した音源の選択、(3)学習効果の適切な測定と判断、などを教師が行うために、独習が難しいのが現状です。

当研究室では、独習可能かつ効果的・効率的な聴能形成訓練方法の開発を目標とした研究を進めています。また、聴能形成に携わる国内外の教育者・研究者・実務者と協力しながらの研究も行っています。

関連発表

音楽のヘッドホン再生 / Headphone Reproduction of Music

ポータブル・オーディオ機器によって音楽の携帯が可能になったことにより、若年層を中心にスピーカーによる音よりもヘッドホンの音を好む人が増えていると指摘する人々がいます。しかしこれまでの録音技術はスピーカー再生を前提に発達してきたので、ヘッドホン再生を好む人々の需要にあっていないと考えられます。

ヘッドホン再生のために録音やミキシングのやりかたを変えることも考えられますが、スピーカー再生の音場感を好む人も多く、音楽のジャンルや音楽を聴く場面によってヘッドホンとスピーカーを使い分ける人もいます。そのため録音技術やミキシングのターゲットを一律にヘッドホン再生にあわせることはできません。(スピーカー再生用とヘッドホン再生用の二つのミックスを作ることは時間的・経済的な負担になりますので、それも難しそうです。)

そこで、スピーカー用に準備された音楽をヘッドホン再生用に変換する技術のニーズがあるのか、ニーズがあるのであればどのような技術であればそれに応えることができるのか、音響心理および信号処理の視点から考えています。特に、音の広がり感と音色の自然さをスピーカー再生と同等にし、スピーカー再生以上に好まれる音にすることが、研究の目標です。

関連発表

楽器用エフェクタ / Audio Effects Processors for Musical Instruments

エフェクト・プロセッサ(エフェクタ)とは、楽器音などを加工してより音楽的に魅力の高い音にするために用いる機材のことです。カラオケで使われる歌声にかけられるエコーは、エフェクタの身近な一例です。

エフェクタで音を変化させると音の印象も変わりますが、エフェクタによっては得られる音の変化がとても複雑なため、どのようにエフェクタを操作するとどのような印象の音の変化になるのか直感的に理解することが難しいものもあります。こういったエフェクタの場合は、操作と音の印象との関係を理解・学習するまでに時間がかかります。音の印象と、それを得るための操作が一対一に対応していれば、より直感的なエフェクタができます。

これまで、ポップスのジャンルで使われているエフェクタのなかでも特に非線形歪みをともなうエフェクトを扱ってきました。具体的には、コンプレッサやディストーションといった、複雑な音の変化をともなうエフェクタです。ディストーション・エフェクタであれば、操作つまみを「音の激しさ」「音の明るさ」といった聴感印象を表す言葉のものに置き換え、その印象通りに音を変化させるにはどうすればいいか、ということを研究しています。

関連発表



MARUI Atsushi
2024-04-24