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資料紹介(CD)

1.

Weber, Carl Maria von. Der Freischütz. French version and recitatives by Hector Berlioz. Fernand Bernadi; Cécile Perrin; Philharmonie de Chambre Hongroise; Jean-Paul Penin, conductor. L'empreinte digitale: ED 13100/101 (CD). Recorded 1998, released 1999.
請求番号: CD3168

 ヴェーバーのオペラ<魔弾の射手 Der Freischütz>(1821年ベルリン初演)は、ドイツの民話や田園生活に根差した物語とドイツ民謡に似た旋律を用いた新しいタイプのオペラとして、初演直後からドイツはもとよりヨーロッパ各地で人気を博した。1841年にはパリのオペラ座でも上演されたが、当時のオペラ座ではこの作品に含まれるような会話調の対話が禁じられていたので、その部分はレチタティーヴォに変更された。このCDで演奏されているのは、パリ・オペラ座初演用にベルリオーズが作曲したレチタティーヴォを含むフランス語訳による<魔弾の射手>である。
 パリでは既に1824年にカスティル-ブラーズCastil-Blazeがオデオン座でこのオペラを翻訳上演(<森の道化者Robin des bois >と改題)していたが、筋書きや音楽は大幅に変更されていた。ヴェーバーの原曲に多大な敬意を払っていたベルリオーズは、「支離滅裂で、下品で、苦しまぎれの、恥ずべき」ものだと、これを非難した(《回想録Mémoires de Hector Berlioz》)。彼自身がオペラ座監督ピレLéon Pilletからレチタティーヴォの作曲を依頼された際も、原曲に手を加えることを一旦は断った。しかし、自分ほどこの作品を理解している者はいないと自負していたベルリオーズは、他人の手によって作品が損なわれるぐらいならばと、台本(仏訳パチーニEmilien Pacini)にも音楽にも他には変更を加えないという条件を付けて引き受けたのである。
 ベルリオーズが《回想録》の中で「語りの部分すべてに音楽をつけたところ、あまりにも長くなってしまった」と語ったように、挿入されたレチタティーヴォは、原曲の簡潔なドイツ語対話に比べると、確かにやや冗長に感じる。それでも、フランス語詞に自然に合った音楽が前後のヴェーバーの音楽と違和感なく続いており、原曲の全体的な印象を守りたかったベルリオーズの苦心の跡は十分に窺える。(田辺洋子)

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