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資料紹介(CD)

7.

Messiaen, Olivier. Olivier Messiaen. Marie-Claire Alain, Yvonne Loriod, Olivier Messiaen, Pieere Boulez, Orchestre Philharmonique de l'O. R. T. F. Erato: WPCS 11284/ 300 (CD). Recorded 1963-1988, released 2002.  請求番号:CD3570
 
 フランスの20世紀音楽の巨匠オリヴィエ・メシアン(1908~1992)が他界して10年にあたる2002年、メシアンの代表的な作品をおさめた17枚組みのCDが刊行された。これは、かつてメシアンの生誕80周年を記念して刊行された選集の再版であり、作品のCD16枚の他に、メシアンが自作について語ったインタヴューを収録したCD1枚が付いた計17枚組で構成されている。
 この58分に及ぶインタヴューは、1988年パリで行われたもので、聞き手は音楽評論家クロード・サミュエル Claude Samuel。彼はメシアンとの対談を1967年、1986年の2度に渡って行なっている人物である(※両文献とも当センター所蔵、書誌情報は下記参照)。インタヴューの内容は、個々の作品に対する解説ではなく、メシアンの「鳥の声」に対する関心や、作曲上のシステムに関する「色彩」の問題、あるいは宗教音楽についての考え方というように、彼の基本的な創作態度に迫ろうとするものである。またインタヴュー後半では、日本に対する思い入れについても語られている。メシアンが自作について淡々と語る声は一聴に値するだろう。
CDに収められている各楽曲について、メシアン自身によるものを含む詳細な記述が載せられた付録の解説書が付く。ここでは楽曲に込められた宗教的な内容の物語的な意味合いや、「鳥」についての鳥類学的な記述、作曲技法としての旋法や音列、リズムや数などのシステム的な方法論についても詳しく論じられている。
さて、CD16枚には、1920年代後半のパリ音楽院時代から、1985年までの作品が収められているが、中心となるのは30年代から40年代に作曲された比較的早い時期の作品である。とはいえ、メシアンの創作における重要な柱となるカトリック信仰や愛についての思想、「色彩」や「鳥の声」への関心、そして1944年の理論書『わが音楽語法 Technique de mon langage musical』で体系化されたリズムや旋法に対する探求の方向性は、すでにこの時期の作品に存分に示されている。例えば、ごく初期の作品であるオルガン曲《天上の宴 Le banquet celeste》(多くの研究では1928年の作曲とみなされているが、メシアン自身はこのCDの解説で1926年作曲と記している)ではすでに「移調の限られた旋法 Les Modes à transpositions limitées」の第2番が使用されており、また20歳のころの作品であるピアノ曲《8つの前奏曲 Preludes》では、各曲にオレンジ色、薄紫色といった具体的な色彩が記されている。
メシアンの作風は、この時期に形成された独自の音楽的支点から大きく逸れることがなかっただけに、30から40年代の作品を中心に聴くことはメシアン研究の基本となるだろう。この時期の集大成といえる作品《トゥランガリラ交響曲 Turangalîla-symphonie》はこの選集に収められていないが、リズム語法を追求した傑作《世の終りのための四重奏曲 Quatuor pour la fin du temps》、カトリック信仰を題材にした作品ではこの時期の頂点に位置する《幼子イエスに注ぐ20のまなざし Vingt regards sur l'Enfant-Jésus》、シュルレアリスムの傾向を示した歌曲《ハラウィ Harawi》など、代表的な作品が収められている。また50年代以降の作品では、メシアンが極めて抽象的・数学的な作曲方法に乗り出し、ブーレーズやシュトックハウゼンらを全面的セリー主義へと導くことになったピアノ作品〈音価と強度のモード Mode de valeurs et d'intensités〉を含む《4つのリズムの練習曲 Quatre études de rythme》、鳥の歌を採譜して文字どおり音楽的にカタログ化してみせた長大なピアノ作品《鳥のカタログ Catalogue d'oiseaux》、日本を訪れたときの印象を音楽にしたオリエンタリズムの小オーケストラ作品《七つの俳諧 Sept haïkaï》、カトリシズムと鳥たち、そして自然美を称えた壮大な管弦楽曲《峡谷から星たちへ・・・Des canyons aux étoiles...》など、いずれもメシアンの創作の節目となる重要な作品が集められている。なお、収録曲はピアノ曲、オルガン曲、歌曲、合唱曲、複数の独奏楽器を含むオーケストラ曲など、オペラを除いてメシアンが取り組んだジャンルを、ほぼ網羅している。以下、収録順に作品をあげておこう。
《幼子イエスに注ぐ20のまなざし》(1944)、《峡谷から星たちへ・・・》(1971-1974)、《七つの俳諧》(1962)、《天国の色彩 Couleurs de la Cité Céleste》(1963)、《われ死者の復活を待ち望む Et exspecto resurrectionem mortuorum》(1964)、《キリストの昇天 L'Ascension》(1933)、《アーメンの幻視 Visions de l'Amen》(1943)、《忘れられた捧げもの−交響楽的瞑想 Les offrandes oubliées, méditation symphonique》(1930)、《聖体への讃歌 Hymne au Saint-Sacrement》(1932)、《鳥のスケッチ Petites esquisses d'oiseaux》(1985)、《8つの前奏曲》(1928-1929)、《4つのリズムの練習曲》(1949-1950)、《鳥のカタログ》(1956-1957-1958)、《ピアノのためのニワムシクイ La fauvette des jardins》(1970)、《神の現存の3つの小典礼歌 Trois petites liturgies de la Présence Divine》(1943-1944)、《聖なる三位一体の神秘への瞑想 Méditation sur le mystère de la Sainte Trinité》(1969)、《世の終りのための四重奏曲》(1941)、《5つのルシャン Cinq rechants》(1949)、《ハラウィ》(1945)、《ミのための詩 Poèmes pour Mi》(1936)、《大地と空の歌 Chants de terre et de ciel》(1938)、《主の降誕 La Nativité du Seigneur》(1935)、《天上の宴》(1926)、《永遠の教会の出現 Apparition de l'eglise éternelle》(1932)。
以上24曲は、1963年から1988年に録音され、マリー=クレール・アランやメシアン自身によるオルガン、イヴォンヌ・ロリオのピアノ、ピエール・ブーレーズやマリウス・コンスタンの指揮、アルス・ノヴァ合奏団、フランス国立放送フィルハーモニー他が演奏している。メシアンと親交の深い同時代の演奏者による録音は、メシアン作品の演奏実践としてはスタンダードであるばかりでなく、今後はむしろ歴史的な意味でも演奏や研究にとっての重要な参考資料となるであろう。

※参考文献
Samuel, Claude. Entretiens avec Olivier Messiaen. Paris: Editions Pierre Belfond, 1967.
[請求記号:C120 / M585、(F. Aprahamianによる英訳ありC120 / M585 / 3) ]
1986年の対談は、邦訳書のみあり。
オリヴィエ・メシアン、クロード・サミュエル『オリヴィエ・メシアン その音楽的宇宙 −クロード・サミュエルとの新たな対話』(Olivier Messiaen. Musique et Couleur; Nouveaux Entretiens avec Claude Samuel. Paris, 1986) 戸田邦雄訳、東京:音楽之友社、1993年。[請求記号:C2 / M585] (飯田 有抄)

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