本展覧会は、アムステルダム歴史博物館(Amsterdams Historisch Museum)が所蔵する素描コレクションの主要作品から、
ルネサンス以降の西洋の素描芸術の展開と、コレクションとしての素描芸術について辿るものです。
素描:諸芸術の基礎
西洋美術における「素描」は、イタリア・ルネサンスの美術理論家であるヴァザーリ(Giorgio Vasari)が
「三つの芸術(絵画、彫刻、建築)の父」と語るように、あらゆる造形芸術の基礎をなすものとみなされてきました。
すなわち素描は、芸術家が自然を写し取る技術であり、同時に、芸術家の創意の発露であり、芸術作品を作り上げるための基礎的な構想力を示すものと考えられていたのです。
そしてルネサンス以降の素描には、完成作のための下描きという補助的な位置づけを超え、それ自体に芸術としての価値が付与されるようになったのです。
下描きからコレクターズアイテムへ:オランダでの素描コレクション
芸術としての素描は、時代が下ると、さらなる多様性に満ちた発展を遂げます。17世紀のネーデルラントでは、描かれる対象は、
人物像や構図スケッチのみならず、屋外風景や静物も含まれるようになり、さらにそれらは、完成作のための「下描き」としてのみならず、
芸術家のアトリエにおいて、種々のモティーフを描いた「型見本」として制作時に活用されるとともに、弟子たちの訓練のための「教育手本」として利用されました。
そしてこの種の素描作品は、芸術家やアトリエでの使用にとどまらず、
愛好家達によって絵画と同様にコレクションの対象となりました。素描の収集は当初は、創造力の刺激を求める芸術家によって行われましたが、
やがて教養の高いコレクターたちが素描に関心を持ち始め、さまざまな地域、時代の素描作品を、絵画などと同様の芸術作品としてコレクションしました。
彼らにとって巨匠たちによる素描は、芸術的創造の痕跡であり、同時に美術史的な価値を持つ、知的な「コレクターズアイテム」となったのです。
本展覧会では、アムステルダム歴史博物館の所蔵する素描コレクションから、ルーベンス、レンブラントらをはじめ、
17世紀のオランダ・フランドルの芸術家たちの素描群を中心にご紹介します。
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