第5章：「黄金の世紀」への憧憬−−18・19世紀のオランダ素描と素描コレクション

Chapter 5: Looking back to the Golden Age: 18-19th century Dutch drawings and the drawing collections

　「黄金の世紀」の繁栄が終焉したオランダにとって、18-19世紀の美術の課題は、いかに17世紀と 向き合うかが問題となっていた。18世紀においては、前世紀から引き続いて、古典主義的な繊細な表現が 好まれた結果、トロースト（cat.no.63）のような、色彩豊かで優雅な、装飾的な水彩画が好まれた。 それとともに18世紀の後半から、17世紀の芸術をほうふつとさせる表現が見られるようになった。 ストレイのように、過去の偉人の作品を模したものもあれば、マドーのように、17世紀の芸術家たち そのものを主題とする画家も現れた。
　さらに19世紀に入ると、同時代のロマン主義の影響を受けつつも、スヘルフハウトやスホーテルらの 風景画家は、17世紀の巨匠たちの画風と相似する様式の作品を生み出すようになった。 この章で展示されている作品群は、アムステルダム歴史博物館の素描コレクションの基礎を作った、 C.J.フォードル旧蔵作品である。制作過程としての素描の意義は、19世紀においても失われなかったとはいえ、 より完成度の高い素描・水彩画が多く制作され、収集されたのは、このコレクターの趣味であるとともに、 19世紀の同時代芸術の雰囲気ゆえであるともいえるだろう。