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音楽 東京芸術大学音楽学部1977年
芸大創立90周年記念「楽器展」

「東京芸術大学創立90周年記念 楽器展」(展示目録)

左:サーランギー
上:「ビルマの竪琴」サウンガウ
 東京音楽学校では、明治20年(1887)の創立以来、教材としてあるいは貴重な歴史資料として、楽器を購入している。その孜々たる努力によって、現在では質と量とともに充実したコレクションができ上がっている。

 こうした収集品の最初の展示会は、大正5年(1916)11月に行われ、期間中の11月16日には、「皇后行啓演奏会」が催された。当時、音楽学校の学友会が発行していた雑誌『音楽』によると、生徒たちが「君が代」を合唱するなか、皇后陛下は「玉座」に着かれ、第1部の幕が開いた。「早春賦」の作曲者として知られる中田章のオルガンの独奏に始まって、長坂好子はソプラノ独唱、のちに悲劇的運命をたどった久野ひさ子はピアノ独奏、信時潔はルービンスタインのチェロ・ソナタを演奏している。その第1部終了後、第2部が始まるまでの休憩時間に皇后陛下は、「湯原校長の御先導にて新館に玉歩を運ばせ給ひ」、別棟で催されていた楽器展をご覧になった。展示会の詳細は、記録が消失していて不明だが、このときの展示品は楽器だけはなかった。雅楽、能楽、声明などの古文書も含まれていた。

 それから61年を経た昭和52年(1977)、東京芸術大学音楽学部はその前身である東京音楽学校時代から数えて、創立90周年を迎えた。この記念の年の大きな行事の1つに、10月11日から30日まで開催された「楽器展 ―東洋の音・西洋の音―」があった。選ばれた楽器は、その頃の教授陣の専門分野を反映していて興味深い。バロック時代の楽器、ヴィオラ・ダ・モーレは、ヴィオラ専門の浅妻文樹教授の発案であった。トランペットの中山冨士雄教授は、ルネッサンスやバロック期の管楽器を担当された。傑出したフルーティストであった吉田雅夫教授は18世紀から20世紀までのフルートの歴史がわかるように、クヴァンツ・モデルの1鍵のものからベーム式のものまで体系的に示された。アジア・アフリカにフォーカスをあてたのは、民族音楽研究の代名詞ともなっていた小泉文夫教授である。

 インドネシアのジャワ島西部のチター属の楽器カチャッピ・インドゥンとカッチャビ・リンチや打弦楽器のチェレンプンが、和琴、楽筝、八雲琴、さらには中国のや朝鮮の弦楽器と共に、「東アジアの箏琴類」というカテゴリーのもとで展示された。イラクのジョーゼとルバーブは、明清楽の携琴や故琴、そして胡弓と共に、「アジアの弓奏楽器」として1つのグループにされた。また、いわゆる「ビルマの竪琴」サウンガウは、東アフリカとアフガニスタンのハープと比較できるように陳列された。北インドのシタールやサーランギーは、「共鳴弦を持つ弦楽器」として、ヴィオラ・ダ・モーレと同じコーナーに並べられた。

 このように、創立90周年を記念した楽器展では、西洋楽器とアジア・アフリカの楽器が、グローバルな視野で取り上げられたのである。それは、古典主義以降のヨーロッパ音楽を機軸とした音楽観が相対化され、さらにヨーロッパ音楽の絶対性が世界的に崩れはじめたプロセスのあらわれであったかもしれない。

(たきい・けいこ/演奏芸術センター助手)


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