戻る | 前のページへ | 次のページへ

資料紹介(図書)
27

Mengozzi, Stefano. The Renaissance Reform of Medieval Music Theory: Guido of Arezzo between Myth and History. Cambridge: Cambridge University Press, 2010. [C200/M544]

   11世紀のベネディクト会修道士であるグイード・ダレッツォ(995頃~1050)は、特に「ド・レ・ミ…」の前身である「Ut・Re・Mi・Fa・Sol・La」の階名、いわゆる「ヘクサコルド」を初めて音楽教育に取り入れた業績で知られ、以後長い時代に渡って実践的音楽理論の権威としてその理論が受容されていた。本書は、こうしたグイード理論の受容史をおそらく初めて主題に据えた待望の著作である。
   著者 Mengozziが特に注目しているのは、ルネサンス期の理論家たちが、従来視唱のための補助的一手段にすぎなかったグイードの階名を、古代ギリシャの「テトラコルド」(音階の基礎素材としての4音列)に倣って「ヘクサコルド」(6音列)とし、ダイアトニック音階の基礎と見なしてしまった点、また、その結果として現代の研究者も、あたかも「ヘクサコルド」が古い時代の音楽における音階的基礎であるかのように「誤解」してしまっているという点である。
   一次資料についての充実した一覧表(グイードへの言及を含む史料、「グイードの手」の挿絵を含む史料など)は、音楽理論史研究の際に大いに参照できる。また、著者が扱う上記の問題は、今日においてもしばしば問題となる階名/音名の問題に、ソルフェージュ的な観点から関心を持つ読者にとっても刺激的であろう。

 (大島)

戻る | 前のページへ | 次のページへ