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資料紹介(CD)

3.

Hotteterre, Jacques(-Martin). Pièces pour la flûte traversière avec la basse 1715.
Barthold Kuijken; Wieland Kuijken; Robert Kohnen. Accent: ACC 20138/139 D (CD)
Recorded 2000.
請求番号: CD 3163

 フランスのオトテール一家は、17世紀から18世紀にかけて、数多くの木管楽器製作者、宮廷音楽家、作曲家を輩出した一族で、この中で演奏家、楽器製作者としてもっとも傑出していたのが、ジャック(-マルタン)(1674-1763)であった。
 彼の経歴については不明な点が多いが、「ル・ロマン(ローマの)」の通称でもしばしば知られるジャックは、おそらく若い頃にローマなどのイタリア各地を旅して周ったためにこの呼び名を得たという説が一般的で、その後パリに戻って、早ければ1692年、もしくは1707年までの間にルイ14世の王室楽団のフルート奏者、王室大厩舎楽団のファゴット奏者として入団したと考えられている。他にもヴィオラ・ダ・ガンバ、ミュゼット、リコーダーなどの演奏にもすぐれ、自ら演奏する木管楽器のための曲を作曲し、教師としても人気が高かった。
 これらジャックの業績の中でとくに重要なのがフルートに関するもので、彼が1707年に出版した《フラウト・トラヴェルソの原理Principes de la flûte traversière》は、史上初めてのフルートの奏法に関する重要な教則本として知られている。当時フルートは、すでにジャックの伯父たち(オトテール一族)によって改良が施され、楽器としての性能が飛躍的に向上し、アマチュアの愛好家も増え、オーケストラの中でもリコーダーにとって代わる地位を確立しつつあった。このようにフルートが人気と需要を拡大させていた時期だったことも手伝って、彼の教則本は英語、オランダ語、ドイツ語にも翻訳され、版を重ねて、当時のフルートの流行に大きな役割を果たした。
 その前書きの中で彼自身が出版を予告していた作品集が、このCDで取り上げている《フラウト・トラヴェルソと通奏低音のための組曲集》で、1708年に第1巻、1715年に第1巻の改訂版と第2巻が出版された。ここではそのうち、1715年の第1巻(作品2)から5曲、第2巻(作品5)から4曲が収録されている。作曲者自身、曲集の序文の中で「趣味良く、正しい演奏のために、大切と思われるところには可能な限り、装飾音を記しておいた…」と述べているように、装飾音に関してかなり細かい記入がみられ、当時のフランス・バロック音楽の装飾法に関する資料としても重要である。
(当センターではArchivum musicumのファクシミリ版シリーズで楽譜も所蔵。請求番号は、 MF/A673-3/4)
(饗庭 裕子)

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