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資料紹介(CD)

4.

皆川達夫監修『CDで聴くキリスト教音楽の歴史―初代教会からJ.S.バッハまで』、東京:日本キリスト教団出版局、HCM-1〜50(CD)、2001年発売。 [請求番号 CD3235(1/51)〜(50/51)]

 キリスト生誕2000年の昨年は、J.S.バッハの没後250年でもあった。この節目の年の特別企画として、初代教会からJ.S.バッハまでの1500年に及ぶキリスト教音楽の歴史を音で辿るCD集が刊行された。
 300余曲を収録する全50枚のCDの概要は次の通りである。
  I.初代教会からグレゴリオ聖歌前夜まで(HCM-1〜2):ユダヤ教、初代教会、東方教会の音楽
  II.グレゴリオ聖歌(HCM-3〜4)
  III.中世のキリスト教音楽(HCM-5〜9):典礼劇、スペインの巡礼歌とカンティガ、ノートル・ダム楽派の音楽、アルス・アンティクワとアルス・ノヴァの音楽、マショーとダンスタブルの作品
  IV.ルネサンスのキリスト教音楽(HCM-10〜22):フランドル楽派、ローマ、ヴェネツィア、スペイン、イギリスの作曲家の作品
  V.宗教改革時代のキリスト教音楽(HCM-23〜27):ルター派とカルヴァン派の音楽
  VI.バロックのキリスト教音楽(HCM-28〜50):イタリア(モンテヴェルディ、フレスコバルディ、カリッシミ他)、フランス(リュリ、シャルパンティエ、クープラン他)、イギリス(パーセル)、ドイツ(シュッツ、ブクステフーデ、ヘンデル、J.S.バッハ他)の音楽
 収録されている演奏は、国内外の様々なレーベルより監修者が厳選した既刊の録音が大半を占める。そのため50枚のCDには、録音年はもとより、録音場所、目的、演奏姿勢など、多様な録音が含まれている。例えば、様々な時代、作曲家の作品が収録されているミサ曲の場合、ミサ通常文に作曲をした通作ミサ曲のみ(ジョスカン・デ・プレHCM-12、パレストリーナHCM-14、他)、通作ミサ曲に固有文のグレゴリオ聖歌を挿入したもの(デュファイHCM-10、他)、音楽以外の要素も含む本来のミサ典礼の中にミサ曲を組み込んだもの(マショー HCM-8、アンドレア&ジョバンニ・ガブリエーリHCM-22、他)の3通りの形での演奏を聴くことができる。多彩な演奏を聴いていると、本来はキリスト教典礼の中で用いられていた音楽が、今日まで様々な形で演奏し続けられてきたことを改めて意識させられる。
 珍しい録音としては、初代教会の音楽(HCM-1)が挙げられる。初期キリスト教会は地方によって用いる言語も礼拝の仕方も様々だったが、中近東、北アフリカ、スラブ諸国には今日なおそれぞれの伝統を守り続けている教会がある。ここに収録されている聖歌はそれらの教会の礼拝でのライヴ録音(1967年)である。コプト教会やエチオピア教会のように打楽器の伴奏付きで歌われる聖歌もあり、グレゴリオ聖歌以降のキリスト教音楽に親しんでいる耳には別の宗教の音楽であるかのように聴こえるかもしれない。
 J.S.バッハの《クラヴィーア練習曲集第3部》から抜粋したいわゆる「ドイツ・オルガン・ミサ」(HCM-47)と《マタイ受難曲》(HCM-48〜50)はいずれも、歴史的考証を踏まえた古楽演奏を続けている鈴木雅明氏とバッハ・コレギウム・ジャパンによる最近の録音である。特に前者は2000年3〜4月に本学奏楽堂で奏楽堂オルガンを使用して録音されたものである。
 付録(2分冊)の『各曲解説・歌詞対訳』では、収録作品や作曲家の紹介、さらにはその社会的・宗教的背景が、新しい研究成果も織り込みながら、詳しく述べられている。第2巻巻末には「キリスト教音楽関連用語解説」と「キリスト教音楽関連地図」が簡潔にまとめられており、作品理解の一助となろう。さらにこのCD集と合わせて発売された金澤正剛氏の著書『キリスト教音楽の歴史―初代教会からJ.S.バッハまで』は、バッハの時代までながら、辻荘一著『キリスト教音楽の歴史』(日本基督教団出版局、1979年)以来の日本語による本格的なキリスト教音楽通史である。著者自身もあとがきで記しているように、「近代に至るキリスト教音楽のさまざまな曲種の可能性を最初に示した功労者」デュファイと「教会音楽にとって重要な対位法の完成者」ジョスカンについては、特に詳述されている。
 なお当センターは、限定期間配本の特別CD、アルベルト・シュヴァイツァーのオルガン演奏(1936年録音)による「J.S.バッハ:コラール前奏曲集」[HCM-60、請求番号 CD3235(51/51)]も所蔵している。(小倉洋子)

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