《藤田嗣治資料》の概要と公開にあたって
　
　本資料は、藤田嗣治夫人であるFOUJITA Kimiyo氏のもとに残された遺品で、2010年に本学に一括寄贈されたものである。
　5,808件に及ぶ資料には、1930年から1968年までの日記（1941-1946年を除く）や手稿・書簡、藤田が撮影した写真や映像、また彼が制作の助けとしたであろう19世紀から20世紀までの画家たちのドローイングなどが含まれており、藤田の生涯と創作活動を明らかにするための貴重な一次資料となっている。
　東京藝術大学大学美術館では、本資料の整理をすすめ、この度資料一覧を公開する運びとなり、あわせて所蔵品データベースにおいて検索することが可能となった。
　
　なお、本資料の一覧及びデータベースは、文部科学省科学研究費補助金（2012年度〜2015年度）「遺品調査による藤田嗣治研究ー君代夫人旧蔵資料のアーカイヴ化と公開ー」（基盤研究（Ｂ））の成果の一部として公開するものである。



《藤田嗣治資料》の総数と特徴

総数：5,808件

特徴：本資料は藤田嗣治の幼年期から最晩年までの長期にわたる資料によって成立しているが、なかでも1930年代及び、1950年代以降の資料が多くを占める。また写真資料の占める割合が大きい。



《藤田嗣治資料》の分類・整理について

1. 本資料は、資料の内容及び形体によってA1〜A7（単独的なもの、例えば日記帳など）とB1〜B3（複数あるもの、例えば印刷物など）のカテゴリーに分類されている。そのなかで、さらに細かい系列に分けられ、各資料は系列の中で年代順に整理されている。
2. 書簡(A1)は、単体で手紙としてかたちを成す封書（A1_1）・葉書(A1_2)のほか、もとは封筒に入っていたと思われる便箋(A1_3)、もとは便箋などを伴っていたと思われる封筒(A1_4)、そして電報(A1_5)に分類、整理した。
3. ドキュメント(A2)は、日記やメモなどを指し、それぞれ冊子状のもの(A2_1)とシート状のもの(A2_2)に分類した。シート状のものとは、メモ用紙や身分証など元々一枚のシートのかたちで存在したもののほか、冊子から切り取られた紙も含み、冊子状の資料と元は一具であったと推測されるものもある。
4. クリッピング(A3)とは主に藤田の手によって切り抜かれた印刷物(A3_1)や写真(A3_2)を指す。
5. 写真（A4）は現像済みのフィルム(A4_1)と紙焼き写真(A4_2)に分類し、これをさらに内容によって分類した。ケース入りフィルム（A4_1_1）は1コマずつマウント加工され、スライドケースに収められたものをさす。スライドケースには藤田によってタイトルがつけられたものも多く、このA4_1_1のみ、藤田による分類を優先して整理した。また、紙や金属製のマウントの劣化によるフィルム本体の損傷を防ぐため、各フィルムを古いマウントから外し清掃、新規のプラスティックマウントに収めた。旧マウントは藤田による書き込みが多数残るため、適宜参照できるよう別置保管とした。ケースなしフィルム（A4_1_2）は、スリーブ状のフィルムや、マウント加工されているがスライドケースに収められていないものを指す。このケースなしフィルム（A4_1_2）と、紙焼き写真（A4_2）は、それぞれイベント写真、藤田作品の写真、藤田の作品以外の作品写真、その他の4カテゴリーに分類、整理した。このうちイベント写真(A4_1_2_1、A4_2_1)には藤田の幼少期の写真や家族写真、アトリエでの様子、日々の生活が多く映し出される。これは可能な限り日付を基準として出来事ごとに分類した。
6. 音響・映像資料（A5）は、再生可能なものについてはデジタル変換した。再生が難しい短いフィルムについてはデジタルスキャンのみ行った。
7. 雑資料（A6）には、資料が入っていた封筒等（A6_1）のほか、藤田が制作した作品（A6_3）、また保有していた作品（A6_4）が含まれる。
8. 特殊印刷物（B1）とは、複数作成されたが、現存する数が少ないと思われる資料を指す。フジタが画廊で開いた個展の招待状などが含まれる。
9. すべての資料は、撮影またはスキャンによってデジタル化した。

凡例

1. URNは資料に付された通し番号である。URNの順番は資料の内容や形体、年代に関わらない。
   
2. 名称は可能な限り資料から採取したものとした。藤田による書き込みを名称とした場合には、名称にカギ括弧「」をつけ、その後ろに［フジタ］と記載した。
   
3. 資料の年代は、可能な限り資料から採取し、西暦年・月・日の順で記載した。整理の過程で類推された年代については、c.(シルカ記号)を付したものもある。年代の判明しない、また類推不可能な資料については、各リストの最後に置いた。

藤田嗣治　略歴

藤田嗣治（1886-1968）は、東京生まれの画家。熊本で幼少時代を過ごす。東京美術学校西洋画科を卒業後渡仏し、モンパルナスにアトリエを構える。パリでは、乳白色の地と繊細な線描による作品が高く評価され、名声を得た。1929年に帰国、翌年パリに戻った後、北米南米を旅し、1933年に再度帰国。海軍省嘱託となり、従軍画家として中国大陸に赴く。1939年に再渡仏するも、翌年帰国。以後、帝国芸術院会員となり、陸軍省の依頼により各地の戦線に派遣され、大画面の戦争記録画を多数描いた。戦後は再び渡仏、1955年に日本国籍を抹消してフランス国籍を取得、1959年にはランスの大聖堂で洗礼を受け、レオナール・フジタと改名した。1961年にはパリ郊外のヴィリエ=ル=バクルの農家を購入、改造してアトリエ兼住居とした。1966年、ランスに礼拝堂を建設、ランス市へ寄贈。1968年、スイスのチューリッヒ州立病院で死去。