Ⅲ.博士学位授与プロセスのガイドライン

本ガイドラインは、博士課程入学から学位授与に至るまでのプロセスを明文化したものである。ここではとくに、運用面から、芸術実践と個別テーマに基づく研究の一体化がはかられるよう、また、評価の妥当性が成果公開と審査形式によって担保されるよう配慮されている。

2.音楽研究科

2.1. 研究の定義

音楽文化学専攻以外の博士課程において、「研究」とは、相互に密接に結びついた3つの構成要素、すなわち「実践研究」、「学術研究」、「カリキュラム外活動研究」から成る。「実践研究」とは、作曲や演奏等の技能や表現力の向上を目的とする実践的な研究(レッスンやコンサートとそれに向けての練習)であり、「学術研究」とは、芸術実践に基づく、あるいはそれを高めるための学術的な研究を指す。また、「カリキュラム外活動研究」とは、留学やコンサート活動など、学内外におけるカリキュラム外の音楽活動を指す。とくに「学術研究」のテーマに関連した音楽活動、及び海外での公的なコンサートへの参加やコンクールでの入賞など外部評価を受けたものについては、博士課程における研究の一部として申請することができる。

2.2. 博士研究記録ファイル

博士研究の進捗状況は、博士研究記録ファイル(以下「博士ファイル」と略)によって管理する。博士ファイルは、従来の研究計画書と進捗状況報告書を一体化させ、博士研究のプロセスが一覧できるようにしたものである。博士リサイタルのプログラムや指導教員会議で話し合われた内容の記録など、博士研究に関連する記録はすべて、この博士ファイルで一元的に管理する。
 当面は、書式一式(Word 形式)を学内ウェブ上に公開し、それを適宜ダウンロードして記入・ファイリングする。ファイルの管理は教務係がおこなう。閲覧は、原則として本人と担当指導教員(指導教員会議のメンバー)とする。将来的には、ウェブ上でのファイル管理を目指す。

2.3. 指導教員会議

指導教員会議は、主任指導教員と副指導教員(2名)から構成される。副指導教員は、学生の研究テーマや意向にもとづき主任指導教員が任命する。必要に応じて、副指導教員(学外の専門家を含む)を増員することも可能である。指導教員会議には、当該学生の専攻以外の教員(他の実技専攻の教員や学科系教員)が含まれるのが望ましい。指導教員会議の構成員は、各年度の初めに博士ファイルに記載され、教務係に報告される。
 指導教員会議は、年に二回開催しなくてはならない。ただし、初年度と修了年度以外は、年度初めにおこなわれる会議を、当該学生と主任指導教員のみで(必要に応じて任意の副指導教員も交えて)おこなうこともできる(この形態を以下「縮小指導教員会議」と呼ぶ)。
 主任指導教員は、学生が入学後すみやかに指導教員会議を組織し、当該年度の履修登録終了までに第1回会議を招集する。この会議では、博士課程在籍中の長期研究計画を主な議題とする。当該学生は、指導教員会議の一週間前までに、博士ファイルを教務係で受け取り、研究計画の下案を書いた別紙を添えて、指導教員全員に事前に提出しなければならない。2年次以降についても、当該年度の履修登録終了までに指導教員会議(もしくは縮小指導教員会議)を開き、その年次の研究計画について話し合う。博士ファイルの扱いは初年度に準じる。
 各年次2回目の指導教員会議は、博士リサイタル終了後年度末までに(作曲専攻は年度末に)開かなくてはならない。博士リサイタルで示された演奏等の成果(作曲専攻は提出作品や公開演奏に示された作品の成果)、芸術実践に基づく(あるいは実践を高める)研究の中間成果、カリキュラム外での活動研究成果、及び当該年次の研究計画を主な審議事項とする。
 学生は、各指導教員会議後すぐに会議の内容を記録し、博士ファイルを教務係へ提出する。

2.4. 博士リサイタル

演奏・舞踊等専攻の学生は、博士特別研究の単位として博士リサイタルをおこなうものとする。博士リサイタルは公開とし、演奏・舞踊等に加えて、当該時点での学術研究の進捗状況やカリキュラム外での研究活動についても、プログラムでの記述やプレゼンテーションなどによって周知をはかり、評価をあおぐ。博士リサイタルには、当該学生の指導教員会議メンバーとなっている教員も出席し、終了後、指導教員会議を開催する。演奏時期、曲目等については、主任指導教員の指導を受け、その実施計画を事前に教務係に申告しなければならない。
 作曲専攻の学生は、上記の演奏・舞踊等専攻の学生と同様に、博士特別研究の単位として博士リサイタルをおこなうか、もしくは、研究テーマに関連した学内外での公開演奏会の記録(プログラム、録音、批評等)を主任指導教員に提出し、指導教員会議を開催する。

2.5. 年次手続き

2.5.1. 1年次

博士後期課程の学生は、入学後すみやかに教務係で博士ファイルを受け取り、主任指導教員と相談の上、3年間の研究計画及び1年次の研究計画を立案。履修登録終了までに指導教員会議を開催する。指導教員会議は、主任指導教員が招集する。指導教員会議後すぐに会議の内容を受けて修正した研究計画書を博士ファイルに綴じ、教務係へ提出する。
 博士リサイタルを開催する際には、教務係で博士ファイルを受け取り、リサイタル終了後の指導教員会議へ提出する。終了後、指導教員会議の内容を記入し、博士リサイタルのプログラム等の記録も添付して博士ファイルを教務係に再提出する。
 作曲専攻で博士リサイタルを開催しない場合は、指導教員会議を開く前に、研究テーマに関連した学内外での公開演奏会等の記録(プログラム、録音・録画、批評等)を主任指導教員に提出し、指導教員会議の開催を要請する。指導教員会議は主任指導教員が招集する。指導教員会議終了後、指導教員会議の内容を記入し、公開演奏会等の記録も添付して博士ファイルを教務係に再提出する。
 1月には、教務係で博士ファイルを受け取り、研究進捗状況報告書に必要事項を記入。指導教員は指導内容を記入し、1月末までに博士ファイルを教務係へ提出する。これをもって博士特別研究の単位認定手続きに入ることとする。

2.5.2. 2年次(~修了前年次)

2年次以上の学生は、年度が始まったらすみやかに教務係から博士ファイルを受け取る。前年度の進捗状況報告書を参考にしながら、主任指導教員の指導のもと、当該年度の研究企画を立案し、すみやかに縮小指導教員会議の開催を要請する。縮小指導教員会議後すぐに会議の内容を受けて研究計画書を修正し、博士ファイルを教務係に再提出する。
 博士リサイタルを開催する際には、教務係で博士ファイルを受け取り、リサイタル終了後の指導教員会議へ提出する。終了後、指導教員会議の内容を記入し、博士リサイタルのプログラム等の記録も添付して博士ファイルを教務係に再提出する。
 作曲専攻で博士リサイタルを開催しない場合は、指導教員会議を開く前に、研究テーマに関連した学内外での公開演奏会等の記録(プログラム、録音・録画、批評等)を主任指導教員に提出し、指導教員会議の開催を要請する。指導教員会議は主任指導教員が招集する。指導教員会議終了後、指導教員会議の内容を記入し、公開演奏会等の記録も添付して博士ファイルを教務係に再提出する。
 1月には、教務係で博士ファイルを受け取り、研究進捗状況報告書に必要事項を記入。指導教員は指導内容を記入し、1月末までに博士ファイルを教務係へ提出する。これをもって博士特別研究の単位認定手続きに入ることとする。次年度に学位審査を受ける場合は、研究進捗状況報告書にその旨を記載するとともに、すみやかに予備申請の準備を開始する。

2.5.3. 3年次(もしくは修了予定年次)

学位審査を受けようとする者は、年度が始まったらすみやかに教務係から博士ファイルを受け取る。論文の概要(タイトル、2000字程度の要旨、目次)と進捗状況表(当該時点での進捗状況と提出までの進捗計画)を準備し、「指導教員会議」の開催を要請する。指導教員会議は主任指導教員が招集する。指導教員会議で予備申請が承認された場合は、4月末日までに予備申請に必要な書類を教務係(を通して学位委員会)へ提出しなければならない。
 予備申請に必要な書類は、①学位審査事前承認願書、②論文の概要(タイトル、2000字程度の要旨、目次)、③進捗状況表(当該時点での進捗状況と提出までの進捗計画)、④博士ファイル(当該年度までの記載のある研究計画書、進捗状況報告書、博士リサイタル等の関連資料、指導教員会議の記録)である。学位委員会は、予備申請書類を審査し、その結果を学生に通知する。
 なお、予備申請後に学位審査を辞退する場合には、辞退願を学位委員会に提出しなければならない。

2.6. 最終審査

2.6.1. 学位審査委員会

学位請求論文が提出され、本申請が行われた後に、主任指導教員は、学位審査規則に従い、審査委員会を組織する。

2.6.2. 審査の対象

「博士(音楽)」の学位審査では、実践研究(学位審査演奏会、もしくは学位審査作品)、学術研究(学位論文)、カリキュラム外での研究活動(記録資料)を総合的に評価する。

2.6.3. 学位論文

実践研究の成果は、学位論文にまとめ、10月の指定日時までに教務係に提出する。〆切日時を過ぎたものは、提出を認めることはできない。

2.6.4. 学位審査演奏会・学位審査作品

演奏・舞踊等を専攻では、実践研究の最終成果を、公開の学位審査演奏会で発表する。学位審査演奏会には、学術研究やカリキュラム外研究の成果についても、プログラムでの記述やプレゼンテーションなどによって公表し、評価をあおがなければならない。
 作曲を専攻とする学生は、研究作品を指定日時までに提出しなければならない。また、研究テーマに関連した作品の公開演奏の記録(録音・録画、プログラム、批評等)も博士ファイルにファイリングし、指導教員会議に提出する。
 学位審査演奏会の模様は、音楽研究科が録画・録音をおこない、データベース化する。そのため、学生は学位審査演奏会の予定が決まり次第、すみやかに本番の日時、リハーサルの日時、プログラム、出演者、本番当日のタイムスケジュール等を教務係に届け出る。また、学位審査演奏会出演者(学生本人を含む)は、博士研究公開のため、音楽研究科が定める著作権・著作隣接権に関する書類に承諾の旨を記し、学位審査演奏会後すみやかに教務係へ提出する。
 作曲専攻の研究テーマに関連した作品、学位審査作品については、著作権・著作隣接権に関する承諾が得られたものについて、音楽研究科が定める承諾書とともに教務係へ提出する。

2.6.5. 最終試験(口述試問)

学位論文提出、学位審査演奏会(もしくは学位審査作品提出)終了後に、学位委員会のメンバーによる最終試験となる口述試問をおこなう。事前に教務係で博士ファイルを受け取り、指導教員会議に提出する。

2.7. 研究成果の公開

博士課程における研究成果は、公開しなければならない。学位審査演奏会等実践研究の成果、及びカリキュラム外活動研究の成果は東京芸術大学データベースに登録し、附属図書館及び総合芸術アーカイブセンターのウェブサイト上で公開する。学位論文については、学位取得後3ヶ月以内に誤字脱字等の修正の必要があれば訂正し(内容に関する加筆や修正は認められない)、3部を製本の上、教務係に提出する。これをもって学位取得要件をすべて満たすものとする。製本については、本学の定める製本仕様を参照する。

[付記]入学前の博士プログラムに関する周知

博士課程への入学を希望する者には、本プログラムを読み、内容について確認した上で、受験することが望まれる。また、周知をはかるために、募集要項の次の2点を改める。

  • 1)博士研究についての定義(「1.研究の定義」)を記載する。
  • 2)研究計画に関する小論文及び口述試問に関する記載において、入試の小論文においては、以下のことを明瞭に記述するよう指示する。
  1. 博士研究のテーマ、目的、意義(当該テーマに関する現在の研究状況や社会的意義)
  2. 自分自身のこれまでの研究概要(芸術実践面での取り組みも含む)
  3. 博士研究の実施方法(実践と研究をどのように組み合わせるか、具体的な研究計画)
  4. 期待される研究成果と社会的効果