第4回目は、本学卒業生であり、現代美術を扱うギャラリスト、コレクターとして広く知られる小山登美夫さんにご担当いただきました。小山さんは芸術学科で美術史を専攻しながらも、主に油画の学生と過ごしていたと言います。在学中から西村画廊で働き、同時代を生きる作家たちの制作現場を肌で感じながら、ギャラリストとしての経験を積んでいかれたそうです。白石コンテンポラリーアートに移ると、銭湯の建物をギャラリーに作り替えたスカイザバスハウスで、村上隆らの展示を開催。1996年にご自身のギャラリーを設立すると、バブル崩壊後ということもあり、海外に日本の現代作家を紹介していくことに力を注ぎます。小山さんのお話は、日本の現代美術のギャラリーの歴史として、非常に貴重で刺激に満ちたものでした。藝大生を含む今の若い作家にたいして、売れることを優先せず、自分が良いと思うものを大切にしてほしいと語りかける姿も印象的でした。
第3回目のパンドラトークは、本学で油彩画を中心とする保存修復研究に携わってこられた木島先生が担当くださいました。「古くて傷んだ油絵はパンドラの箱!――修復でよみがえる油絵――」と題された木島先生のトークでは、油絵の劣化・損傷が生じる原因に注目し、経年変化による劣化、そして人為的な破壊行為による損傷が生じてきた歴史が、明治期の油彩画や17世紀オランダのレンブラントの絵画などの多くの実例とともに紹介されました。そして、油彩画を保護する画材としての「ワニス」(Varnish)が果たしてきた役割を論じながら、芸大美術館所蔵作品の修復が実際にどのようになされてきたのかもご紹介くださいました。現在展示されている小磯良平《彼の休息》、原撫松《裸婦》、そして多くの油彩画作品が木島先生の保存修復油画研究室で修復されており、今回のトークは、保存修復の重要性を改めて認識させてくれるものでした。
今回のイベントでは、本学卒業生で、各所での個展の開催等、多方面でご活躍の美術家・山口晃さんをお招きしました。
第2回目のパンドラトークは、本展でも自画像が展示されている本学絵画科教授のOJUN先生がご担当されました。OJUN先生のトークは、ご自身の自画像が卒業制作提出直前の15分で描いた(!)エピソードから始まりました。そして、ほかの作家方の自画像のなかで、特に福田美蘭さんの自画像の、自らの姿をフレームから外れそうな位置に配した表現に関心を持たれたこと、ご自身の自画像制作は、18、19歳以降になるとあまり描かなくなり、それ以降は、他者の姿に関心を持っていたが、現在開催中の棚田康司さんとの二人展のなかで、再び自らの姿をモティーフに描いていることなど、OJUN先生が自画像にどのように対峙しているのかをご紹介いただきました。
第1回目のパンドラトークは、本学彫刻科教授の北郷先生にお願いしました。北郷先生は本学のラグーザをはじめとする石膏コレクションを長年にわたり調査されており、その成果は、2010年の当館での展覧会「明治の彫塑 ラグーザと荻原碌山」でも紹介されています。このトークで北郷先生は、ラグーザの生地であるパレルモでの調査をふくめた長年にわたる研究の概要を、様々なスライドとともにご説明くださいました。パレルモの現地調査で発見されたラグーザの来歴にかかわる情報や、展示されている石膏像とブロンズとの比較、そして、彫刻をより正確に研究するための3Dデータ計測など、これまでの先生の研究が多面的に紹介されました。
「藝大コレクションと美術教育」と題されたこのシンポジウムは、藝大コレクションのこれまでの歴史をたどりながら、藝大美術館のコレクションの役割と、制作者のための発表の場所としての美術館展示室の可能性を討議する機会となりました。
展覧会最終日前日に開催されたパンドラトークは、日本近代美術史を専門とされる芸術学科教授の佐藤道信先生にお願いしました。このレクチャーで佐藤先生は、東京美術学校創立から現在に到るまでの130年を、様々な資料とともに紹介されました。東京美術学校の様々な活動が「西洋系/日本東洋系の並置」「クラシック・現代系」「作家養成・教員養成」に明確に特徴付けられることを挙げつつ、後半の東京藝術大学美術学部の活動については、社会的要請に対応しつつ「新たな芸術表現に対応した組織改革」「国際化からグローバル化へ」「地域連携・産学連携」というキーワードから検証できることを紹介されました。日本近代美術史の枠組みを再定義するご研究で知られる佐藤先生ならではの興味深いレクチャーとなりました。
展覧会最終日に開催されたパンドラトークは、本学大学院映像研究科教授の桂英史先生にお願いしました。2005年に学部をもたない独立研究科として本学に設置された映像研究科は、従来の芸術諸分野を横断・統合し、映像に関する創造の現場という観点から新しいテーマに取り組んでいます。今回のパンドラ展では映像研究科修了制作は出展されませんでしたが、2007年度以降藝大コレクションとして収蔵されていることから、藝大コレクションの将来像を考える機会として、映像作品の状況をお話しいただきました。桂先生はまず、映像研究科の活動と研究・教育指針にふれたあと、映像研究科出身者の作品をご紹介されました。彼らの作品の意義をレクチャーされました。当館ではレクチャー会場となった展示室全体をつかって映像作品をプロジェクションする機会はほとんどなかったことから、今回のレクチャーは、今後の展示室の活用方法を再考する機会にもなりました。