リサーチ活動

Ⅲ.国内実技系大学院に対する調査

2.国内実技系大学院に対するヒヤリング調査2

平成20年度にパイロット調査として実施した、国内の博士後期課程を有する実技系大学院3校への訪問調査を継続し、平成21年度は愛知県立芸術大学(リサーチセンターにてヒヤリング実施、調査担当:越川倫明教授、安藤美奈)京都造形芸術大学、京都市立芸術大学(2回目)(平成21年5月訪問、調査担当:越川倫明教授)、広島市立大学、倉敷芸術科学大学(平成21年9月訪問、調査担当:足立元、粟田大輔)の各大学院を訪問し、事前に依頼した調査票をもとに、博士学位授与に関する聞き取り調査を行った。

本稿では博士学位審査対象、審査体制、博士論文指導を中心に調査結果の概要を報告する。

審査対象

各校ともに「作品」と「論文」を審査対象としているが、「論文」重視の方針を打ち出している大学院もあり、その場合は論文の分量を100枚(4万語)程度を標準としている。また、「作品」と「論文」のウェイトは定めないとしながらも、7:3のウェイトとするケースが多くみられた。「作品」については、審査対象作品を博士課程在籍中の制作物とし、「ひとつの個展ができる」ボリュームを求めるケースや、制作のプロセスも重視し3年間を通して評価する方針をとるケースもあった。

審査体制

主査、副査を中心とした3~4名の審査員で審査を行うという体制が主流であるが、審査対象として「論文」を重視する場合は、学科系の教員が中心となり、論文審査を行うケースがある。審査員の構成に関して、外部審査員を義務化している場合や、客観性という視点から外部審査委員を入れることが望ましいと考えている大学院が多いが、予算などの問題から、現状での外部審査員の義務化は困難とする意見も見られた。

審査方式

今回の調査対象校では3~4名の審査員全員が所見を書き、素点は付けずに、総合的に合否のみで判定するケースが多くあった。

博士論文指導

各校とも学科系の教員を中心に、論文作成の授業や個別指導による対応を行っている。また、修士課程修了時に8,000字程度の制作報告書を提出するケースや、研究ノートを課して、論文執筆に慣れさせるといった、修士課程から論文執筆に関する指導を始めているところもあった。指導上の問題としては、学術論文としてのレベルの在り方などあいまいさが問題になっている場合や、学生の専攻分野により一部の教員に集中してしまうケースなど、多くの実技系大学院が抱える問題が現れている。

また、提出される論文の形として、影響を受けた作家や思想について調べて論じたり、自己の制作への影響を含めて論じるなどの、実技系論文の一つの傾向が明らかとなっている。

この調査結果からは、各校ともに実績を着実に積み重ねながら、実技系博士学位授与というシステムの構築に向けて、学内の体制を整えつつあることが感じられた。今後も引き続き国内実技系大学院の調査を続け、こうした国内の動向に注目していく事が必要であろう。

(平成21年度活動報告書)