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藝大リレーコラム - 第二十八回 橋本圭也「コロナニモマケズ」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第二十八回 橋本圭也「コロナニモマケズ」

私が教員として勤めている東京藝術大学美術学部工芸科染織分野の令和2年度前期の授業は、オンラインで制作前準備を4・5月に行い6月の初めから8月21日まで、感染症予防の対策を講じた上で対面授業を大学に許可していただき、お盆休みも土曜日も祝日も工房を開け、いつ中断してもおかしくない状況で授業をしてきました。全ては藝大に入学した学生のために、安全に配慮しながらも出来る限りの工房や環境の提供と、研究・作品制作の質を落とさないよう検討し研究室を運営してきました。

そして今年度、私は卒業・修了作品展運営委員会の委員長という大役を担っており、コロナ禍での卒展については、今までにない運営や対策が必要になっています。美術学部教務係の担当者と卒業・修了作品展運営委員会の皆さんと各科担当助手さんと協力し、これまでの卒展と達成感や満足度において遜色のない最大限の開催を目指して奮闘中です。

外出自粛中に私の小学生の娘の宿題で「雨ニモマケズ」宮澤賢治の音読練習をしており、何度も聞く機会がありました。コロナ禍の現状に重ねて考えることや思うことが多く、誰でも小学校の頃に教科書で一度は目にしたことがある、この詩を今一度思い出し静かで穏やかな気持ちで過ごしていきたいと思い、あえてここに詩の引用を載せさせていただきました。

 

雨ニモマケズ  宮澤賢治

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

引用:「【新】校本宮澤賢治全集 第十三巻(上)覚書・手帳 本文篇」筑摩書房 1997

 

新型コロナウイルスの影響で以前と同じ様な生活リズムが作れなく、不安が重なることでウイルスからストレスに変異した問題に対して、感染症だったり組織だったり誰かだったり何かのせいにして解決するのではなく「コロナニモマケズ」静かに優しく前向きに進んでいければ幸いと思います。感染症流行の環境下で感情が乱れることにより、人類が新たに生まれる社会的な多様な問題に対応できるかを試されているような気がします。


2019年前期 新型コロナ流行前の染織実習室 

写真(上):2020年前期 学生登校禁止期間の染織実習室

 


【プロフィール】

橋本圭也
東京藝術大学美術学部工芸科染織分野准教授 1973年 福島県に生まれる 1998年 東京藝術大学美術学部工芸科・染織卒業 2001年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻(染織)修了 2001年 東京藝術大学美術学部工芸科非常勤助手(‘06〜 同非常勤講師)(‘18〜 同准教授) 2007年~ 他大学非常勤講師 東京藝術大学に入学してから途切れることなく在籍し現在に至り、「染める」「織る」の染織研究室にて、繊維造形という広い視点から研究制作を行なっている。