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藝大リレーコラム - 第三十一回 亀田まゆ子「『藝大体育』とは」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第三十一回 亀田まゆ子「『藝大体育』とは」

私が保健体育研究室の教員になったのは2年前です。それまでは非常勤講師として10年ほどお世話になっていました。その頃から東京藝大の学生は、それぞれの専門分野で優秀なのはもちろんでしょうが、一人の若者としても素晴らしいなと感じることが多々ありました。学生にしたら必要な単位だから、ストレス発散に運動したいからといったことで約8ヶ月体育館へ通い、大学生活の序盤を通り過ぎるだけなのかもしれませんが、私たち体育の教員は、皆が思う存分に学び、充実した大学生活を送ってほしいとずっと応援し、見守っています。

ところで、ここ保健体育研究室では、体育を敢えて「藝大体育」と言っています。“身体を育む”をコンセプトとし、自らのからだが運動やスポーツと向かい合う中で、自身の体力や健康について認識を深めること。また、自分自身の“身体と心”、自分と用具、そして自分と他者といった様々な“相手”と様々なコミュニケーションを実践し、実体験を基に理解することをねらいとしています。それは、アーティストとしての技術の習得や感性を高めていく過程と同じように、スポーツや身体運動の実践を捉えてほしいと考えているからです。

なかでも、学部や専攻を越え、学年も問わず(大学院生が入ることも)様々なバックグランドを持つ学生が場を共にすることから、実践的なコミュニケーションを学ぶには持ってこいと言えるかもしれません。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大により体育もオンラインでの授業となり「藝大体育」を続けていかれるかどうかの危機を迎えます。どんな運動をどういう手段で伝える?住んでいる環境も分からない。模索を続けながら、私自身もStay Homeを経験する間に、自分に起きた心身の変化(不調)を実感しました。運動不足は世界中の問題になり、運動不足解消のアイデアがSNS等で盛んに紹介されるようになった頃、保健管理センターから学内で発信できる運動動画についてご相談を受けました。とはいえ公的に紹介できる運動動画がすんなりあるわけでもなく、保健管理センターのミーティングに一度お招きただき、学内ALLメール「動きゆたかなオンライン生活のすすめ」を配信することになりました。

同時に、体育授業もゴールデンウィーク明けから始まったわけですが、前述の私自身のStay Home経験とAllメールで伝える内容を考えていくうちに、授業の方向性も見えてきました。その一つが『姿勢と呼吸』です。本来のあるべき姿勢を取り戻し、しっかり呼吸をする。楽な姿勢、深く息が吸える姿勢はどういう状態か。これは前期授業期間を通じて飽きるほど言い続けました。そしてもう一つが、語りかけることです。体育ノート(授業を振り返る簡易なレポート)内のコメントから、慣れないオンライン授業で疲労が蓄積している様子が窺えたので、6月途中からリアルタイム配信に切り替え、顔は見えなくとも名前を呼んで自分の声で応えてもらい、姿は見えなくとも一緒に汗をかきかき励ます声をPC画面に向かって掛けながら筋トレをしました。授業中は私から一方的にならざるを得ませんでしたが、体育ノートを通して学生の思いを受け取っていました。学生も居る場所は別々だけど、同じ時間に共に汗を流している仲間がいると思えることが心の支えになっていたようです。

学生同士のコミュニケーションとスポーツのダイナミックな運動実践という点では不十分ではありましたが、じっくりと自分の内側に意識を向けて、自分自身と向き合うという体験を時間をかけて取り組めたことは新たな実践でした。これは、逆に体育館での対面授業はできなかった(実践しにくい)ことでした。コロナ禍は、今も続く困難ではありますが、「藝大体育」とは何かを改めて考え、体育実践の在り方を拡げる好機となりました。それだけでなく、開放的な体育館自体がコロナ禍では最も望ましい空間になったのです。体育館は、美術・音楽両学部の敷地とは道を隔てたところにあります(住所も上野桜木)。学生はもちろん、教職員の皆さまにとっても、非日常を味わえる場所になり得るのではないでしょうか。「昼休みひとときストレッチ」もいずれ再開するつもりです。今こそ体育館の存在と保健体育研究室の人材を大いに活用してほしいと思います。いかがでしょう?

(2019年の3月下旬 体育館中庭の桜)

写真(上):2018年10月下旬 藝大体育授業風景

 

 


【プロフィール】

亀田まゆ子
東京藝術大学美術学部 保健体育研究室講師 健康運動指導士 筑波大学体育専門学群 卒業 同大学院体育研究科コーチ学専攻 修了