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藝大リレーコラム - 第四十回 田中一成「未来の映画撮影現場は?」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第四十回 田中一成「未来の映画撮影現場は?」

映画の撮影は、想像以上に密の環境で行われていることを考えさせられた年だった。嘗てフィルムでの撮影が主だった頃、撮影者の私の横にはフォーカスを送る助手と頬が触れ合わんばかりの距離であったし、監督と照明技師はカメラ位置からお芝居やライティングを見るため、毎カットお互いの場所を奪い合うような攻防があった。他にも記録さんや録音部のマイクマン、カチンコを打つ助監督もカメラ近くにいて、例えば6畳の部屋でも10数名の演技者・スタッフが居ることが当たり前だった。尚且つ各パートがそれぞれの助手に無秩序に指示を出すものだから、現場には怒号が飛びかい、過密と喧騒の中に座していたものだ。その中でフレームの中にマイクやライト、誰かの身体が入っていないかを確認するのが本番前のカメラマンの仕事で、時々映ってはいけないものがフレームの片隅にあることも時々あった。優雅に見える小津安二郎の映画も喧騒と密の状況で撮影されていたことは間違いない。それがトランシーバーの普及で現場から怒号が消え、撮影素材がフィルムからデジタルに成ると現場ではモニターが使われ、カメラ側から演出・照明・記録が離れ、機材が進歩するにつれて映画の熱も消えていったように感じる。

新型コロナウイルスの猛威が深刻化した4月7日に緊急事態宣言が発令。この日から殆どの撮影現場は中断、今迄に経験のない自粛生活と3密という言葉が行き交う中、多くの人がマスクを求めて薬局に殺到、目に見えない恐怖に街から人の姿が消え、いつ収束するのか不安な日々を送ることになった。

そんな中、私が所属する大学院映像研究科でも新入生とオンラインで授業を始めた。パソコンの向こうにいる、入試の面接でしか会ったことがない学生達に毎週撮影の課題を出し、作品をオンラインで講評する授業だったが、外出自粛のため自宅や人のいない場所で撮影できる課題を選択しなければならず、私も学生達も題材に苦慮した。劇映画の基本は人間を撮ることだから、学生達もそれが出来ないことへのフラストレーションがあったと想像する。

学生が入学までに習得してきたそれぞれの技術を見ると、学生一人一人に異なった指導が必要で、動画の構図、微妙なフォーカス送り、ライトバランスや陰影の作り方など実際のカメラやライトがなければ理解が難しく、オンラインで芝居や人物がいない状況では指導ができない。私にとって、今回はこのコミュニケーションツールをどうすれば創作活動に活かせるのか。通常、監督や他のスタッフと必要な情報の交換だけではなく、むしろそれを取り巻く有機的なコミュニケーションで映画は創作される。たわいもない雑談や食事や飲食を共にすることでアイデアが生まれ、演出や脚本を掘り下げそれを映像に昇華させる、そういったプロセスをオンラインでどうすれば得られるのか大きなチャレンジだった。

6月になってから、感染症予防の対策を講じた上での対面授業が大学から許可され、私もマスクとフェイスシールドで、実際のカメラやライトを使って講義が出来るようになったが、未だに撮影現場で密の状態から脱しての映画作りの方法は見出していない。一つだけ前に進めたことは、遠隔操作でのフォーカス送りを導入し、条件によってはカメラの側にはオペレーターだけにすることができた。

ワクチンが我々に接種できるまで、結局3密を避け徹底した健康管理の上で、今までと同じ撮影方法でしかないのかも知れない。これが撮影現場の現実だと思う。これからの社会はコロナを機に急速に変化していくだろうし、未来の撮影現場ではA Iが導入され演者だけがいる現場になっているかも知れないが、映画の熱だけは持っていて欲しいと思う。

馬車道校舎 大視聴覚室 修了制作撮影実習の撮影風景

 

写真(上):中華街校舎 地下室 修了制作撮影実習の撮影風景

※このコラムは緊急事態宣言再発令される前(2020年12月23日)に執筆されたものです。

  

 


【プロフィール】

田中一成
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻 教授 鳥取県出身。横浜放送映画専門学院(現日本映画大学)卒業後、フリーの撮影助手として映画、テレビの撮影に携わる。1994年度文化庁芸術家在外研修員として米国、オーストラリアで研修を積む。主な担当作品は『探偵はBARにいる』シリーズ、三池崇史監督『極道恐怖大劇場 牛頭GOZU』『ゼブラーマン』『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』、宮藤官九郎監督『少年メリケンサック』『中学生円山』、松本人志監督『R100』、若松孝二監督『スクラップストーリー、ある愛の物語』『キスより簡単 2 漂流編』 テレビドラマではNHK木曜時代劇『鼠、江戸を疾る1,2』、TBS火曜ドラマ『東京スカーレット』、TV朝日『スカイハイー2』、他Vシネマ多数。 日本映画テレビ技術協会 MPTE AWARDS 2020 第73回 映像技術賞『ザ・ファブル』 著書「デジタル撮影技術完全ブック」藝大出版 日本映画撮影監督協会 専務理事