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藝大リレーコラム - 第四十七回 大竹利絵子「大学という場について思うこと」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第四十七回 大竹利絵子「大学という場について思うこと」

最初の緊急事態宣言から1年が過ぎた頃、リレーコラムの依頼をいただきました。1年前と同じように満開に咲く桜に前向きな気持ちをもらい、コロナ収束への祈りと共に迎えた新年度の4月でしたが、つい数日前に3回目の緊急事態宣言が発令されました。昨年の初めての緊急事態宣言発令時は数カ月もの間、各々が自宅待機の中で1人での制作に向き合った時間でしたが、今年は彫刻棟の大規模改修工事が半ばに差し掛かる中での授業開始となりました。

私が担当している彫刻科の木彫室では、学生と教員が同じ空間で作品を制作しています。数100キロの丸太をクレーンで動かしたり電動工具を使う作業上、安全が保てる間隔にそれぞれの場所が割り振られ、チェーンソーや電気カンナによる木の粉塵を吸い込まないように防塵マスクの装着は欠かせません。そのような環境に身を置いているのでマスクは以前から欠かすことができないものではありましたが、会話をする時にも常にマスクの顔と向き合うという現状に慣れるにはまだ時間がかかりそうです。

この1年間、人と接する時間を控えて過ごしたことで、大切な機会が失われたり延期になり残念な思いを経験することが多々あったかと思います。その一方で、制限されることで本当に必要なものを見極める判断力が以前より備わりつつあるようにも感じています。マスク着用が日常のようになり、うっかりすると口元がだらしなく緩んでいるという日々ですが、鼻と口が覆われることで、以前より目で見ることや目で観察し判断する感覚が鋭敏になったのではないでしょうか。

「つくり手は孤独であるべきだ」とは常々思っています。しかし、最初から1として世界と向き合うより、大学のような場で多数の中の1を経験することは個の自覚をより高める上で貴重な時間であると感じています。私も、学生時代を藝大木彫室で過ごした内の1人です。当時を振り返ってみても、「作品をつくる」という未知の領域に踏み込んだばかりの頃は、数年上の先輩が木を前にして一体何と対峙しているのか、そんなことを考えながら過ごした記憶が蘇ります。言葉は交わさなくても、日々同じ空間で過ごし自然と目に入ってくる変化によって、他者が何と向き合っているのか近づこうとしていたように思います。作品は正直だとはよく言われますが、そのように実感することは度々あります。他人の意識に寄り添おうとすることは、私たちの視野を拡げてくれる方法の1つです。コロナ禍にあり世界が同じ事態と向き合っている今、小さな個である1人1人の取捨選択が未来をつくるのでしょう。

自分の作品の向こうに何かと向き合っている人がいるというこの場でしか経験できないことの貴重さを改めて実感している今日このごろです。ネットでも気軽に多くの情報を目にすることはできます。しかし、時間や空間を共有することでしか感じられないことを受け止める力は失くさないようにしたいものです。

(2021年4月木彫室)(2021年4月 木彫室の様子)

写真(上):材木屋から届いた樟の丸太

 

 


【プロフィール】

大竹利絵子
東京藝術大学美術学部彫刻科准教授 1978年神奈川県生まれ。 2002年東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。2004年同大学院美術研究科彫刻専攻修了後、2007年同博士課程を修了。 主な個展に「Way in, or Out」(8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery、東京、2015年)、「たぶん、ミミ」(小山登美夫ギャラリー、東京、2012年)など。主なグループ展として、「アートのなぞなぞー高橋コレクション展 共振するか反発するか?」(静岡県立美術館、静岡、2017年)、「片山正通的百科全書Lifeishard…Let’sgoshopping.」(東京オペラシティアートギャラリー、東京、2017年)、「アトリエの末裔あるいは未来 #EXTRA」(旧平櫛田中邸、東京、2018年)、「刻まれた時間-もの語る存在」(東京藝術大学大学美術館陳列館、東京、2018年)「現代・木彫・根付 (海外巡回展)」(ベトナム日本文化交流センター、ハノイ、2018年)など。