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藝大リレーコラム - 第六十七回  大石みちこ「夏に巡り合う」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第六十七回 大石みちこ「夏に巡り合う」

 横浜みなとみらい近くの横浜校地から上野へ図書館の本を返しに行った。7月の上野キャンパスは授業や実習が徐々に夏季休暇に入っているのだろう、人影も少なく蝉の声がかまびすしい。遠くにサンバが聞こえる。今年の夏の「お題」が頭をかすめる。

 大学院映像研究科映画専攻脚本領域の1年生は今「異星人と巡り合う1シーン」のシナリオを書いている。アニメーション専攻1年生が描く「異星人」が登場するコラボレーション企画である。異星人を登場させるのには、想像を巡らせて遠い世界と今、此処とをつなぐシナリオレッスンのねらいがある。

 杜を歩きながら考える。遠い世界は未来にもあり、過去にもある。

 昨年の夏、この杜から巣立った声楽家・三浦環(1884-1946)の伝記ノンフィクションを書いた。環は東京音楽学校在学中の明治36年(1903)7月23日、奏楽堂で歌劇研究会が上演した歌劇《オルフォイス》で百合姫(エウリディーチェ)役を演じた。今から120年前の夏のことである。「奏楽堂」は上野公園へ移築された旧奏楽堂であり、東京音楽学校の校舎でもあった。

 取材した先で幸運なことに環の手紙に巡り合った。筆で書かれたくずし字である。眠ったままになるところを環のご遺族の元木房子さんと豊田浩子さんが静岡県袋井市へ託し、既に114通は解読され書簡集にまとめられていた。こんな一文がある。 

「東京はいよいよ 博覧会もはじまり候事にて、此上野辺はことに にぎにぎしく、忍ばずの池のけしきなど御国のみなみな様に お目にかけ度くそんぜられ候」 

「博覧会」とは、明治40年(1907)、東京府が上野公園と周辺で催した東京勧業博覧会である。研究科へ進み、学ぶと同時に教員に就いていた環の住所は「東京下谷区谷中清水町」。現在の正門から根津へ向かう途中、すべり台がある谷中清水町公園には「旧町名由来・旧谷中清水町」の看板がある。環はその付近に暮らし、博覧会のにぎわいを見ていた。

 海外へ渡り幾多のオペラ座で《蝶々夫人》のタイトルロールを演じ、大正11年(1922)一時帰国した環は平和記念東京博覧会で〈ある晴れた日に〉を歌った。それまで新聞で伝えられてきた遠い世界の声を初めて聴いた博覧会の客たちの驚きはどれほどのことだったか。

 

 アニメーション専攻と脚本領域のコラボレーションは昨年度、岡本美津子先生、桝井省志先生はじめ多くの方々にご理解とご協力をいただき第一回目の発表会が実現した(演出・後閑広、朗読・生津徹)。おかげさまで今年度も9月にワークショップを経て、学内発表会を行う。遠い世界から、どんな異星人が現れるか? 今から楽しみである。

 

 

上2つの写真は、『映像研究科映画専攻脚本領域・アニメーション専攻コラボレーション企画 
学内発表会「YOKOHAMAP ある奇妙な旅(2023.3.24) より」


【プロフィール】

大石みちこ
東京藝術大学大学院 映像研究科 映画専攻教授 東京都出身。脚本家。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻卒業後、2008年映画「東南角部屋二階の女」(池田千尋監督)で脚本家デビュー。 主な作品に映画「ゲゲゲの女房」「楽隊のうさぎ」「ドライブイン蒲生」、アニメーション「ヒバクシャからの手紙―貴女へ―」、伝記ノンフィクション「奇跡のプリマ・ドンナ―声楽家・三浦環の「声」を求めて―」(KADOKAWAより2022年10月出版)がある。