東京藝術大学 東京藝術大学入試情報サイト SDGs 共創の場 ily 藝大アートプラザ 東京藝大クラウドファンディング 藝大レーベル / GEIDAI LABEL supported by Warner Music Japan グローバル 藝大フレンズ 早期教育 東京藝術大学ジュニア・アカデミ
藝大リレーコラム - 第七十ニ回 長島確「できごと系と協働のかたち」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第七十ニ回 長島確「できごと系と協働のかたち」

   昨年の4月に国際芸術創造研究科(GA)に着任しました。音楽環境創造科(音環)で長年授業をもってきたので千住キャンパスには通い慣れていますが、上野にも頻繁に通うようになり新鮮な気持ちです。清水坂(しみずざか)を通って池之端から湯島に抜けるルートに興味をもっています。

 最近考えていることは、できごと系のアートについて、どうしたら横断的なプラットフォームを作れるかということです。
 できごと系というのは、「もの」ではなく「こと」を作るアートの総称といった意味合いで、わたしがやや雑に使っているくくりです。そういう専門用語があるわけではありません。
 舞台芸術、とくに演劇におけるドラマツルギーがわたしの専門ですが、近年ますます近接のジャンルとの境界線が曖昧になっており、またその曖昧な領域で起こっていることが面白かったりします。
 演劇の近くにはダンス、音楽などの実演芸術があり(それぞれのなかにも伝統的なものから最近のものまで多様なサブジャンルがあります)、いっぽう美術の側からのパフォーマンスアートも盛んですし、アートプロジェクトもすっかり定着しています。
 また体験(できごと)を作るという意味では、展覧会や芸術祭の企画や実施も含まれてくると思っています(そう考えていくと、ものを作るアートとも切り離せません)。
 それぞれのジャンルの性質はかなり異なりますが、専門化が進むのとひきかえに縦割りが強くなりすぎていると思うので、それぞれの究める専門性に敬意を払いつつ、横にゆるく交流・連携できるようになるといいと思っています。

 もうひとつ、最近考えさせられたこととして、国際協働のかたちがあります。
 音環の卒業生の演出家・坂田ゆかりさんが加わっている活動を見に、1月にインドネシアに行ってきました。「TERASIA」という国際協働プロジェクトの最新版で、2018年に東京・豊島区のお寺で上演された演劇作品が起点となり、それがパンデミックを経て予想外の(?)発展を遂げているというので、見に行ったのです(初演をプロデュースしたフェスティバルのディレクターをわたしが務めていた責任と興味もあって)。
 長くなるので詳細はすべて省きますが、起点となった日本版と、パンデミック中にタイで作られたバージョン、そして今回の新作であるインドネシア版が、非常に面白い共存関係にありました。オリジナルとそのローカライズ(各国語版)のような主従関係ではなく、同じ種子から土地土地で変異を遂げた生命体のような、奇妙な親戚関係みたいになっていたのです。
 どれも骨格は似ているけれど大きく違う。とくにタイ版は独自の発達を遂げており、これはパンデミックでアーティストが移動できなかったことも一因だったようです。現地で現地なりに思い切って作るしかなかったことが、面白い方向に働きました。
 その結果、オーナーシップ(作品は誰のものか)とオーサーシップ(誰が作者か)が独占されず、どちらもみなに分散・共有されていたのです。
 通常、とくにパフォーミングアーツでは、こういう場合、それらの権利は源流に集中します。上流と下流が生まれ、そのあいだに権利と許可をともなう主従関係が生まれてきます(その関係を軽んじると深刻な事故が起こります)。
 今回見てきたプロジェクトは、「同じ作品」を作っているにもかかわらず、珍しいことに上位下達のシステムとは似て非なるかたちの、非常にフェアな協働が成立しているように感じました。
 どういう力学と人間関係でこういうかたちが成り立つのか。異文化間コラボレーションの幸福なモデルケースとしてお手本になるにちがいないので、よくよく分析し参照させてもらう必要があると思っています。

TERASIA(テラジア)の情報
https://terasia.net/
秋にはインドネシアの続編が計画されているそうです。

– – –
写真:清水坂(左:朝、上り/右:夜、下り)


【プロフィール】

長島確
東京藝術大学 大学院国際芸術創造研究科 アートプロデュース専攻准教授 専門はパフォーミングアーツにおけるドラマツルギー。 舞台字幕や上演台本の翻訳から劇場の仕事に関わり始め、やがて演出家や振付家の創作のパートナーであるドラマトゥルクとしてさまざまな舞台芸術の現場に参加。 劇場のアイデアやノウハウを劇場外に持ち出すことに興味をもち、アートプロジェクトにも積極的に取り組む。 2018-20年フェスティバル/トーキョーディレクター、その後23年まで東京芸術祭のディレクションに関わる。 プロジェクトの記録に『アトレウス家の建て方』、『つくりかた研究所の問題集』(共著)など。 訳書にベケット『いざ最悪の方へ』、『新訳ベケット戯曲全集』(監修・共訳)ほか。またサラ・ケインやヨン・フォッセの上演台本の翻訳を手がける。