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藝大生の親に生まれて - 第五回 百瀬幸一さん(美術学部絵画科油画専攻3年百瀬真菜さんのお父様)

連続コラム:藝大生の親に生まれて

連続コラム:藝大生の親に生まれて

第五回 百瀬幸一さん(美術学部絵画科油画専攻3年百瀬真菜さんのお父様)

「藝大生の親に生まれて」は、芸術家の卵を子に持つ親御さんにご登場いただき、苦労や不安、喜怒哀楽、小さい頃の思い出やこれからのことなど、様々な思いについてお話をうかがい、人が芸術を志す過程や、生活の有り様について飾らずに伝えます。

──真菜さんは、小さい頃から絵を描いていたのですか?

(父) 当時、私は造形教室を開いておりまして、画材などが身の回りにあったので、クレヨンや鉛筆を使わせたりという感じでした。今は中学校の美術教諭をしております。

──中学校ではどのような授業をされているのでしょう?

(父) 美術の授業では、基本を大事にしていくということです。芸術活動というかどちらかというと教育的な側面が強いですね。美術部の顧問もしているので、そこではスケッチなどのほかに、体育祭や文化祭などの学校行事に合わせて、段ボールでオブジェを作ったりといったこともしています。

──お父さんがそういうお仕事をされているということで、真菜さんも自然と美術に慣れ親しんでいたという感じですね。

(父) これは真菜が4歳のときに初めてキャンバスに描いた絵です。

──4歳でキャンバスですか! 画材はなんですか?

(父) アクリル絵の具です。過去の巨匠などは、2歳からスケッチを始めたとか、3歳から絵を描いたという逸話があるので、うちもできるだけ早くキャンバスに向かわせようと思って、お遊びで何でもいいよということで描かせたものです。

──これを描いたときのことは覚えていますか?

(真菜) 覚えていないですね(笑)。これ以降に描いた絵はもう少し意思があったように思うんですけど、このときはそんなに強い意志がなかったんだと思います。でも、キャンバスの後ろに「かあちゃん誕生日おめでとう」って書いてあるんです。多分、お母さんの誕生日のために描こうねという感じだったんじゃないかと思うんですけど。

(父) 画用紙とかはあったんですけど、キャンバスはこのときが初めてですね。たまたま僕のアトリエにあって、娘が遊びに来たときに自由に描かせました。

──お父さんとしては、小さい頃から美術の道に進んでほしいなという気持ちはありましたか?

(父) それが、まったくなかったんですよ。私は美術が好きで、娘と一緒に美術館に行くのが好きだったんです。娘が2歳か3歳の、まだよちよち歩きの頃から行っていたのが、今につながっているんじゃないかなと思うんですけど。

──弟さんもいらっしゃるということですが、美術をやってらっしゃるんですか?

(真菜) 小さい頃は絵をいっぱい描いていたけど、今は興味ないようですね。

(父) 美術館とか大嫌いだよね(笑)。

小さい頃の百瀬姉弟

 

──真菜さんは、高校時代は美術的な活動はしていたんですか?

(真菜) 中学生のときに美術をがんばろうかなと思って、力を入れて勉強していました。高校進学のときは、美術系の高校に行くかすごく悩んだんですよ。両親に相談したら「美術の高校に行って、美術をやりたくなくなったときに、その先の道が狭くなってしまう」という結論になって、普通科に進学しました。あとは美術予備校に通っていました。高校の文化祭ではTシャツのデザインをしたり、校門のアーチを作ったり、卒業文集の絵を描いたりといったことはしていましたね。

──高校時代に藝大受験を意識したと思うのですが、普通科の高校に通う中で、美術系大学を目指す友だちはいましたか?

(真菜) 選択授業で美術を取っていて、その授業に出ている友だちのなかには美大に行きたいとか、絵がとても上手な子もいたんですけど、それほど具体的な話はしていませんでしたね。藝大って結構難しいというイメージですし、入れるとは思っていないので。私も受験生になったときに、目指すなら藝大かなという感じでした。結局一年浪人をして油画に入学しました。

──現在3年生ということで、将来のことを考える時期になってきているかなと思います。

(真菜) 今のところは就職を考えて、いろいろな会社にインターンに行ったりしています。仕事は仕事でやって、美術的な活動は少しずつ生活の中でやっていけたらいいかなと、今のところは考えています。

──お父さんから見て、最近の娘さんはどう映っていますか?

(父) 僕は長野県の出身で、自然の中で遊んでばかりいたんですけど、娘は僕よりも遊び人なんですよ。高校のときも遊んでばかりで。その時も美術の道に進むとは聞いていませんでした(笑)。

「遊び」の話で言うと、娘はジャニーズが大好きで、ずっとコンサートとかを追いかけている、いわゆるジャニオタなんです(笑)。浪人しているときもずっと遊んでいて。二次試験が終わったときに話したら、娘は「多分受かっていると思う」って言うんですよ。もうびっくりして(笑)。そのとき心の中では「こんなに遊んでいて受かるわけないだろう」と思っていたんですけど、ちゃんと受かってるんですよね。私も藝大に行きたかったんですが、二次試験で落ちてしまって、すごく悔しい思いをしたんですよ。そのリベンジじゃないですけど、彼女が果たしてくれたという感じで。合格したときは、二代かかったなという感じがしました。

──真菜さんは、学業以外で活動していることはありますか?

(真菜) 学校以外だったら、アルバイトかコンサートに行ってるかですかね(笑)。アルバイトもいろいろしてるんですが、美術予備校でもやっていて。何かしらアイデアが湧いたり、創作活動にもつながっています。受験生のときもコンサートに行っていたんですが、ステージの照明を作品に活かしたりとか、そういうことはほんとにありますね。結局ものを作ることは、生活そのものが全部関わってくると思うので、普段見たものとかを取り入れられると気付いてからは、遊んでてもいいやって思っています(笑)。

(父) 娘が藝大に受かりましたっていろいろな方にお知らせしたとき、英才教育をなさったんですねと言われるんです。小さい頃からピアノやバイオリンを習わせるという感じではないんですけど、美術館に行ったりとか、いろいろなものに触れさせる。そういうことを全部ひっくるめて英才教育だったのかなとは感じていますね。

(真菜) お父さんがよく遊ぶ人なので、遊び方を学んでいたのかなと思っています。遊んでいて怒る両親ではなかったので、それはすごくよかったかなと。

──藝大の絵画科油画専攻というのは、かなり狭き門ですが、目指している人も多いと思います。そのような人たちへメッセージはありますか?

(真菜) 遊びの中からアイデアを拾ってくることと、自分がどういう人間か気付くことを大事にしてほしいなと思っています。

(父) 僕と同じことを言っている(笑)。

──お父さんと同じ教師という道もありますね。

(真菜) 一応、教職課程も取っています。

──美術の世界を目指している子を持つ親御さんに向けてアドバイスなどがあればいただきたいのですが。

(父) 先ほど娘が、遊ぶことと学ぶことは同じだというようなことを言っていましたが、僕がずっと言い続けていたことなんですよ。僕は、娘がやりたいことを規制したことがないんです。やりたいと思っていたら何でもやらせてあげたいというのが僕の考えで。お金のかかることは別ですけど(笑)。やれることは、何でもやりなさいという、ある種ほったらかしというか。そうすると、勝手に吸収してきてひとつの才能が生まれてくるので。縛ってはいけない、自由にしてあげるというのが一番大事だと思います。

──せっかくの機会ですし、真菜さんからお父さんに一言あればお願いします。

(真菜) いつもありがとうという感じですね(笑)。思い返すと、こういうことを言われていたなとか、自分と向き合っていくときによくわかるんです。やっとわかってきたというか。藝大に受かる直前くらいから、こういう意味だったのかというのが分かったので、そういう教育をしてくれて、好きにさせてくれてありがとうと。

──お二人ともすごく仲がよいですが、最近どこかに行かれたりしましたか?

(父) 娘と一緒にジャニーズのコンサートにも行きましたね(笑)。

──えっ!どうでしたか?

(父) 会場が名古屋だったんですけど、僕らが乗った車両が全部ジャニーズのファンだったんですよ。男は僕だけ。レストランでご飯を食べても男は僕だけなんですよ(笑)。みんなおめかししているのに、僕だけジャンパーで。

(真菜) コンサート当日がクリスマスだったんですよ。だからみんな「彼氏とデートしてる場合じゃねえ」っていう感じで(笑)。

(父) すごく楽しかったですね。やはり非日常的な空間というか。みなさんも一度行かれるといいと思いますよ(笑)。

 


文・撮影:三浦一紀

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