東京藝術大学 東京藝術大学入試情報サイト SDGs 共創の場 藝大アートプラザ 東京藝大クラウドファンディング 藝大レーベル / GEIDAI LABEL supported by Warner Music Japan グローバル 藝大フレンズ 早期教育 東京藝術大学ジュニア・アカデミ
藝大リレーコラム - 第九十六回 藤井光「キャンセルされた展覧会」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第九十六回 藤井光「キャンセルされた展覧会」

3月は大学の授業がないため日本を離れ、イギリス、アメリカ、中国での展示を予定しています。しかし、昨年末から続く日中間の政治的緊張を理由に、中国で予定されていた展覧会はキャンセルとなりました。美術館側の説明によれば、「日本人アーティストであること」がその理由だということです。

このような国家間の分断が深まる状況において、私があらためて強調したいのは、芸術を通じて築いてきたネットワークは政治の力によって断ち切られるどころか、むしろこれまで以上に個々の信頼関係を深めていくという、ある種の逆説的な事実です。

その思いは、昨年から教員として関わるようになったグローバルアートプラクティス(GAP)専攻の教育現場でも強く実感しています。海外の芸術大学や文化機関とGAPが協働で開発する《ユニットプログラム》では、本年度、イギリス、インドネシア、韓国・済州島、そして沖縄を訪れました(学科を超えて誰でも参加可能・定員あり)。東アジアから中東、ヨーロッパに至るまで多様な背景をもつ学生たちが、それぞれの土地や歴史に根ざしたテーマを共に探究します。そこで築かれた関係は、在学期間を超えて持続的なものになっていくはずです。

写真は、沖縄の佐喜眞美術館を訪れた際のものです。美術館の屋上から目の前に広がる米軍基地を見つめながら、その現実の受け止め方は一人ひとり異なります。基地に反対する立場の学生もいれば、戦争当事国の出身で異なる見解をもつ学生もいます。それでもなお、彼らは同じ場で議論を続けることができます。そこで私が目にしたのは、今日の国民国家が声高に語る分断と排斥の言葉ではなく、お互いの信頼を築き、それぞれの世界を少しずつ広げていく越境的な言語です。

ところで、アメリカでは入国審査が厳しく運用され、移民に対する強硬な対応が報じられています。果たして私は無事に入国できるのでしょうか……(昨年すでに二度訪れているとはいえ)、それはしだいに現実的な脅威へと姿を変えつつあります。


【プロフィール】

藤井光
東京藝術大学 大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻准教授 アーティスト。インスタレーション、映像、ワークショップなど多様なメディアを用いて、芸術、歴史、社会の間で展開する作品を制作する。その実践は、特定の歴史的瞬間や社会問題を出発点とし、リサーチやフィールドワークに基づいている。作品を通じて、現代および歴史上の危機や構造的暴力を考察し、それらが社会に与える影響や意味を探求する。主な展覧会歴には、東京国立近代美術館、東京都現代美術館、M+、韓国国立現代美術館(MMCA)、ポンピドゥ・センター(メッス)、Kadist(パリ)、HKW(ベルリン)などの他に、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2021)、アルル国際写真フェスティバル(2024)などの国際芸術祭に多数参加する。Tokyo Contemporary Art Award 2020–2022を受賞。