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連続コラム:ゲ!偉大!

第三回 佐藤晴真


藝高(音楽学部附属音楽高等学校)を卒業し、藝大音楽学部に入学後ドイツへ渡り、現在ベルリン芸術大学に留学中の佐藤晴真さん。2019年9月に、難関で知られるミュンヘン国際コンクール チェロ部門において日本人として初となる優勝の快挙を果たし、その後も国内外で活躍を続けている。
昨今の状況やこれからの音楽活動について、澤学長とオンラインにて対談を行った。


 

新型コロナウイルスが流行してからはドイツには戻っていないんですよね?

佐藤

戻れてないですね。この騒ぎになる少し前に仕事で日本に帰ってきたままです。

そしたらベルリン芸術大学のレッスンはオンラインで受けている感じですか?

佐藤

実技のレッスンはできてなく、学科の授業のみオンラインで受けている状態です。

基本的には藝大もオンラインで授業を行ってます。
ご自身の演奏活動はどうですか?

佐藤

コンサートなどはほとんど中止や延期になりましたが最近は少しずつ始まっていて、7月あたりからは代役の仕事なども入って、割と忙しくなる気がしています。こういう時は急な依頼が多く、コンディションを整えるのが難しいです。

海外のソリストが来日できないですからね。
じゃあやっぱり無観客とか、ものすごく客数を絞ってとか?

佐藤

そうですね。

新型コロナウイルスのパンデミックを経験して、以前と同じ生活に戻ることは難しいと思います。その中で音楽や芸術は何ができると思いますか?

佐藤

ちょうど先週、サントリーホールで行われた「チェンバーミュージック・ガーデン2020」という企画に参加しました。もともと大きなフェスティバルなんですけど、それを無観客で有料制にしてライブ配信をしました。僕にとってはそれが外出自粛要請が出されて以降、初めて演奏する舞台だったんですけど、その時に室内楽を弾いて自分自身の心が洗われたというか、本当に音楽は心を癒やしたり、楽しい気持ちにさせたり、勇気づけたりするのだと。改めて音楽は衰退させてはいけないなと思いました。
昨今、ミュージックビデオなどをスマホで撮影してあまり良くない画質・音質でSNSなどに流している人も多くなってきましたが、それだと音楽の本質が変わってきてしまうのではと、個人的に少し心配だなと思っています。たとえばリモート室内楽。これはそもそものゴールが違うわけで、タイミングが合えば成功みたいな。でも音楽ってそういう次元の満足度ではないと思っています。どれだけ音楽自体の美しさを伝えられるのかが大事だと。

なるほどね。私もオンライン上でアンサンブルをやったり、いろいろと試してみたけど、難しいですよね。だから別々に撮影・録音して後で編集した方が出来上がりとしてはいい。こういう時代だからこそいろいろ試せるというのは良いことですが、まだまだ道のりは長いですね…。
ただそこは、AIが発達して人間のいろんな職業がなくなっていくという中で、芸術は最後まで残ると言われているのに近いかもしれないですね。最終的には、「やはり生の演奏会に行かなければダメだ」ということに気付いてもらう良いきっかけになってくれればいいですよね。

佐藤

確かに、そうですね。

昨年は、ミュンヘン国際コンクールで優勝されましたがいかがでしたか?

佐藤

課題曲が多かったのが一番大変でした。受賞した喜びというより、走り切った達成感が大きく、達成感があってこその結果につながったというのは嬉しかったんですけど、やはりコンクールという決められた期間の中でどれだけ自分と闘い、どれだけ突き詰めて挑めるかを考えてやったので、正直終わってホッとしました。

コンディションを整えるのも大変でしょう。

佐藤

そうですね。チャイコフスキー国際コンクールとかは結構参加者が多くて、ラウンドごとに時間が空いているんですけど、ミュンヘン国際コンクールはファイナルの前は中一日でした。それはそれで気が抜けずに本番を迎えられたので良かったです。

私も1983年にヴァイオリンとピアノのデュオ部門でミュンヘン国際コンクールを受け、3位をいただいたのですが、宿舎は小さなお城みたいなところに泊まったんですけど…。

佐藤

あ…!なんか寮みたいなところですかね?

はい。

佐藤

同じかもしれないですね。僕らもセミファイナルに通過した後、ホテルとまではいかないですが、寮というか部屋がズラーっと並んだところに泊まりました。

そうですか。私たちの時は予選の時からそこを与えられました。幸いファイナルまで残ったし、そのあと受賞者演奏会までがかなり長かったんですけど、その間もずっと泊めてもらえましたね。ただ予選で落ちた人たちは「翌日すぐ出ろ!」という感じでドアに貼り紙がされていました。

佐藤

僕の時も1次の前までは自分でホテルを取って、1次からは寮に移動しました。受賞者演奏会も1週間後で、その期間のコンディションを保つほうが大変でしたね(笑)。

受賞者演奏会はどこでやりましたか?

佐藤

ヘラクレスザールです。

会場が広くて、とても響くところですよね。ヘラクレスザールは初めてでしたか?

佐藤

大変いいとは聞いていましたが、初めて建物をみました。

コンクール自体はミュンヘン音楽大学の中で?

佐藤

ミュンヘン音楽大学は練習室として使わせてもらっていました。

そうでしたか。
佐藤さんがそもそもチェロを始めたきっかけは何だったのですか?

佐藤

きっかけは、まず兄が兄の友達の影響を受けてヴァイオリンを始めていたんですけど、日頃からヴァイオリンの音を耳にしていたので音楽は身近にありました。ある時兄のヴァイオリンの発表会があり、そこで後に師事することになる中木健二先生が植村太郎さんとのデュオでヘンデル=ハルヴォルセン作曲の「パッサカリア」を弾きにゲストとしていらしていて、そこでチェロを初めて聞き「これ、やりたい!」と思ったのがきっかけです。ただ兄弟同時にやりたいと言い始めてしまい…。

 (チェロを始める前の、ヴァイオリン発表会にて。前列左から3番目が佐藤晴真さん)

ヴァイオリンをやっていたお兄さんもチェロに(笑)!?

佐藤

はい(笑)。親は最初からチェロを弾くことに抵抗があったようで、兄はもともとヴァイオリンをやっていたので優先的に兄からチェロを習い始め、僕はヴァイオリンを持たされました。

それは何歳頃?

佐藤

4歳半ぐらいですね。そのあと1年ぐらい経過すると兄のチェロが上達してきて、単旋律から和音を弾き始めて、その和音を「ズジャーン!」と弾いた時がかっこよくて、家族みんなが「チェロいいな」という雰囲気になりました。それを横目で睨みながら「僕はいつチェロを持たせてくれるのか」と…。結果的にヴァイオリンを始めて1年ぐらいを経てチェロを持つことになりました。
(チェロを始めて一年目の練習風景)
(小学5年生の頃、当時飼っていたセキセイインコのマロンと)

ヴァイオリンも和音を弾けるんだけどね(笑)。

佐藤

そこまで僕はいかなかったですね(笑)。

藝大は入学してすぐにドイツへ留学したと思うのであまり思い出はないかと思いますが、藝高時代の思い出は何かありますか?

佐藤

藝高は3年間ずっと同じ40人でクラス替えも無いですから、今思えば特殊な環境だったなと思います。でもそれがすごく濃くて、クラスメイト自体も濃いので、いろんな意味で濃い3年間だったなと思います。みんなも音楽をやっているから、将来必ずどこかで会うと思うので、3年間で親交を深められたのはとても良かったですね。

定期演奏会のメイン曲は覚えていますか?

佐藤

高1はベートーヴェンの2番。高2の時はドヴォルザークの9番。高3の時はブラームスの2番でしたね。指揮はドミニク・ウィーラー先生でした。

そうでしたか。
ところでベルリンでの生活はどうですか?

佐藤

もう4年になりますね。ベルリン以外の外国の話も耳にしていますが、話を聞いている限りベルリンはかなり学生にやさしい街だなと感じています。一番ありがたいのは半年ごとにゼメスターチケットというものを買わされまして、そのチケットがあれば地下鉄や路面電車、バスなどは決められた範囲乗り放題。もちろんコンサートホールなどもかなり多い街だと思うのですが、そういうのも学生券が10ユーロ程度でいい公演を聴けるのでとてもよかったです。

(ベルリンの環状鉄道線の駅)

オペラとかも?

佐藤

たしか13ユーロぐらいでした。少し上のほうですがしっかりとした席で観ることができ、とてもいい経験ができました。

ベルリンはドイツの首都なのに家賃とか物価は結構安いですよね。

佐藤

そうですね。最近は徐々に上がってきているみたいですけど、ミュンヘンやハンブルクと比べるとかなり安いと思います。

これからの目標について教えてください。

佐藤

今は勉強の身なので、お仕事としてはいただいたものを1つ1つしっかりやっていきます。勉強に関しては個人的にバロックとか古楽に興味があるので始めていきたいと思っています。室内楽も好きなので、引き続き勉強していきたいです。

ベルリン芸術大学でも友人たちと室内楽はやりましたか?

佐藤

結構やりました。入学してすぐお声がけをいただいて、弦楽四重奏曲やピアノトリオなどもやりました。ドイツ語の勉強にもなりましたね。ドイツ語学校で学ぶドイツ語と、合わせの時に使うドイツ語が全く違ったので、入学してすぐに経験できたのはとても勉強になりました。

ちなみに、一緒に演奏した人たちはドイツ人ばかりでしたか?

佐藤

ドイツ人は少なくて、チェロのクラスだとドイツ人は1人。エストニアや韓国、カナダなどいろんなところから来ていて、本当にインターナショナルな学校です。

(ベルリンチェリスト達とのニューイヤーパーティー)

4、5年前にジュネーブ音楽院と藝大の合同オーケストラをやった時に、ジュネーブから25名来たけど、スイス人は2人くらいしかいなかった。同じですね。
ミュンヘン国際コンクールで優勝ということは、コンクールは卒業ですか?

佐藤

卒業ですかね…。まだ自分の中でも決めていませんが、ベルリンにいるチェロの友人やピアノ伴奏をお願いしている方は、「次はチャイコン(チャイコフスキー国際コンクール)だね!」と当たり前に仰るのですが、ミュンヘン国際コンクールの歴代の優勝者をみているとチャイコンで入賞している方が多いのでどうかな?って…。

チャイコンは特別な存在ですからね。最近はエリザベート(エリザベート王妃国際音楽コンクール)もチェロ部門ができましたよね?

佐藤

エリザベートだけは期間が長いので避けています(笑)。その閉じられた空間が果たして今後の音楽人生に有益なのかと考えると少し悩みますね。
(※エリザベートコンクールでは、本選出場が決まると、新作の課題曲が与えられ、約10日間、お城の中で外部との接触を絶って、誰からの指導やアドバイスも無しに曲を仕上げるというユニークなルールで実力が競われます。)

でもまだ22歳ですよね? ヴァイオリンに比べるとチェロはむしろ遅咲きの方が多いからまだまだ伸びるでしょうし、本当にこれからが楽しみです!
チェロをやっている学生にメッセージなどあればお願いします。

佐藤

やっぱり国際的にみて、日本人はリズム感が平坦というか、つまらなくなってしまいがちだと言われます。でもそれは摺り足や能など、もともとのそういう文化があるのでしょうがないところでもあります。だからこそ僕らはヨーロッパ人が生まれながらに持っているリズム感、フレーズ感を意識し、作曲家が望むように再現しなければいけないと思っています。そのためにはどれだけ細かいことを気にし続けられるかが大事だと思っています。それが少しでも頭から離れそうになったら、一度立ち止まって思い出して欲しいですね。

©Tomoko Hidaki

 

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【プロフィール】

佐藤 晴真
1998 年名古屋市出身。第 11 回泉の森ジュニア チェロ・コンクール中学生部門金賞、第 67 回全日本学生音楽コンクール チェロ部門高校の部第 1 位および日本放送協会賞、第 83 回日本音楽コンクール チェロ部門第 1 位および徳永賞・黒柳賞、第 13 回ドメニコ・ガブリエリ・チェロコンクール第 1 位、第 1 回アリオン桐朋音楽賞など、多数の受賞歴を誇る。 すでに、東京フィル、名古屋フィル、セントラル愛知などからソリストに招かれ、ピアノの清水和音氏や伊藤恵氏とも共演して好評を博している。また、NHK テレビ「さらさらサラダ」、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」にも出演している。 2018 年 8 月には、ワルシャワにて「ショパンと彼のヨーロッパ国際音 楽祭」に出演し好評を博す。 2019 年 12 月は、本格的デビューリサイタルを東京、名古屋、浜松で予定している。これまでに、林良一、山崎伸子、中木健二の各氏に師事。現在は、ベルリン芸術大学にて J=P.マインツ氏に師事している。 2013年度 東京都北区民文化奨励賞。 2016年度東京藝術大学宗次特待奨学生。2018 年度ロームミュージックファンデーション奨学生。ベルリン在住。使用楽器は宗次コレクションより貸与された E.ロッカ 1903 年。 2019年9月、難関で知られるミュンヘン国際コンクール チェロ部門において、日本人として初優勝の快挙は果たす。 2019年度第18回齋藤秀雄メモリアル基金賞のチェロ部門において受賞。 2020年4月、第30回出光音楽賞を受賞。