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藝大人たち - 第五回 山口つばさ

連続コラム:藝大人たち

連続コラム:藝大人たち

第五回 山口つばさ

藝大出身の著名人に現役の学生が質問をぶつけ、その対話の中から芸術と教育の接続点について探る。本連載、「藝大人たち」は、そんな目的を持った対談インタビューだ。第五回は、現在、「月刊アフタヌーン」にて連載中の漫画『ブルーピリオド』の作者である山口つばささんに、美術学部油画専攻修士1年の杖谷美彩さんと学部3年の田口裕理阿さんがインタビューを行った。 ※山口さんは顔出しNGのためカエルのマスクを被っています。

杖谷

はじめまして。私は油画の修士1年で、美術予備校でアルバイトをしているんですけど、「『ブルーピリオド』を読んで、アトリエとかの雰囲気が本当に漫画のままで感動しました!」っていう講習会生が結構いたんです。みんな『ブルーピリオド』読んでるんだなって思って。私もこれを機に大人買いしました。

山口

ありがとうございます!
地方の受験生は読んでくれている方が結構多いらしいです。

杖谷

予備校で教える時って言葉の選び方に迷うこともあるんですけど、『ブルーピリオド』で描かれていることってすごく的を射ているから、「この一言、参考になるな」って読ませていただきました。

あと、親御さんも含めて、美大や美大受験についての説明もするんですけど、私が口で説明するよりこの漫画を読んだ方が全然分かりやすいなと思ってこれからはこの漫画をお薦めしようと思いました(笑)。

山口

たしかに、全体感は掴めるかもしれないですね。
作中に出てくる技法的な部分は、自分の曖昧な知識だけに頼るのは怖いので、何冊か本を読んで、共通して言っていることだけを抽出して描いたりしています。

杖谷

実際に漫画の中で出てくる絵が藝大の日本画の友達とか、油画の先輩とかの絵だったりするので、そういう部分も楽しみに読んでいます。漫画の中では美大受験について詳しく描かれていますが、山口さんも美術予備校に通われたりアルバイトをされてたんですか?

山口

予備校でアルバイトはしていなかったですね。高校生の時に、ずっと通っていたお絵かき教室で子どもたちに教えたりはしていましたけど。なので、自分が受験生の頃に予備校に通っていた経験をもとに描いているんですけど、もう結構前のことなので、人から話を聞いて参考にしたりして情報をできるだけ新しくするようにはしています。

田口

私はいま学部の3年なんですが、受験のことを思い出してすごく親近感が湧きました。あと、主人公の矢口八虎の絵をたぶん私の同級生が描いていて。

山口

あー! 油画の3年生だから、そうですよね。藝大の学生さんには本当に助けてもらってます。

田口

いつ頃から漫画を描き始めたんですか? 私も漫画を描くことに少し興味があって。藝大の先生方から、数年前に山口さんが在学中に漫画を描いていたっていう話を聞いて。そういう人もいるんだなと思っていたんです。

山口

ちゃんと描き始めたのは大学に入ってからですね。1年生の頃は一応ちゃんと油画を描いていたんですけど、2年生からは漫画で課題を提出していました。

絵や展示の仕方については講評していただきましたけど、話の内容については特に言われませんでしたね。卒業制作では、短編みたいな読み切りをたくさん描いて、それを一冊にして展示しました。200冊くらい作って、半分は人にあげて、半分は販売して。

田口

卒業制作で漫画を出して、同級生や先生の反応はどうでしたか?

山口

好きにすれば?って感じでした(笑)。
藝大の油画の卒業制作って割と自由じゃないですか。映像作品を作ったり、インスタレーションやパフォーマンスしたりする人もいるし。同級生に漫画を描いている人もいたので、割とやりやすかったのかもしれません。

杖谷

もともと絵を描き始めたのは幼い頃からなんですか?

山口

お絵かき教室には通っていました。ちゃんとした絵の勉強とかではなく、小学生の習い事みたいな感じで楽しく描いてましたね。

杖谷

漫画の中では、美術についてまったく知識がない主人公が少しずつ、絵を学んでいくじゃないですか。その過程で、絵を描く上での考え方や、絵の見方、技法についても説明されているので、一般の方にとってもアートが身近に感じられると思うのですが、その点も意識されてますか?

山口

そうですね。もともとはスポ根を描こうと思っていて、アートのスポ根がなかったのでやってみようと思ったんです。アートについて描かれている漫画の主人公って「なんにもできないけど、芸術だけできる」みたいな天才肌タイプの主人公が多いと思うんですね。だから逆に、なんでもできる奴ができないことに挑戦する漫画にしようと思い、一般的な美術のイメージとは遠い理詰めタイプの人を主人公に置くことにしました。

美術ってやっぱりこう、感覚の世界というか、そういう風に見られがちなんですけど、そんなことないよという片鱗を織り交ぜつつ描きたいと思っています。なぜこれがすごいのかっていうことをできるだけちゃんと説明するようにしています。とはいえ、言語化しづらい良さとかもあるので、漫画の文脈にのっとって表現していければいいなと思っています。

杖谷

藝大に通っていることから「あっ、『ブルーピリオド』読んだよ」って言われることも多いですし、美大受験を未知の世界だと思っている家族とか友達に、この漫画をとりあえず読ませたいです(笑)。

田口

この漫画が広まってくれると、美大という進路をなんとなく考えている人とかは特に、救われる人もたくさんいると思います。私はすごく共感しました。

山口

ありがとうございます。少しでもそういう方がいると嬉しいです。

田口

山口さんは漫画家になりたいと考え始めたきっかけは何だったのですか?

山口

大学1年生の時に同人誌を描いていて、でも油画を描くのが、学問としては正当な流れじゃないですか。その時に先生に相談したら「やりたいことをやった方がいいよ」と言ってもらえて、漫画をやろうと思いました。あと、自分の場合は、『追体験』できるものを描きたいと思っていて。絵画よりも、もっと身近に表現できる漫画というフォーマットが自分の描きたいものに合っていたのだと思います。

杖谷

単行本だと受験編が終わって、これから藝大編に入っていくと思うのですが、今後の展開について言える範囲でいいので少しだけ教えていただけませんか?

山口

少しだけお話すると、美大生にとってあるあるだと思うんですけど、入学して何を描けばいいのか分からくなって…みたいな話に繋がっていきます。

杖谷

過去のインタビュー記事の中で、美術の敷居を高くなくしたいというお話がありました。今後、漫画のなかでそういう部分も出てくるのかなと楽しみにしております。

山口

すごくおこがましいんですけど(笑)。
単純に人気がなくなったら終わっちゃうので、どこまで描けるか分からないんですけど、やれるところまでやってみたいと思います。

 

――藝大とのコラボだと、「藝大アーツイン丸の内2018」でコラボしていただきました。メインビジュアルとして『ブルーピリオド』のワンシーンが使用されたり、「MANGAストリート」という企画では、丸の内界隈のストリートにも貼り出されましたね。

MANGAストリート(藝大アーツイン丸の内2018)
撮影:社会連携センター

山口

ありがとうございました。ライブペインティングとか藝大生の作品のオークションとかもやってましたよね。

田口

SNSの運用についてはなにか意識されてますか?

山口

そうですね、ツイートに単行本の情報を載せたりとか。でも、最近の漫画家で意識していない人は少ないと思います。

杖谷

最近はTwitterに画像を4枚づつ載せて拡散されているのもよく見かけますね。

山口

最初の4ページの引きが強いものは載せた方がいいけど、のんびりしてて最後まで読まないと良さが分からないみたいな作品は発信の仕方を工夫したりとか。情報発信にもいろいろな考え方があると思います。

 

――息抜きや趣味はありますか?

山口

趣味…ないんですよね。ゲームとかはよくしますけど、それくらいかなぁ。人に薦められたものは基本的にやってみることにしてるんですけどね。いま無趣味なんです。ちょっと前だとアイドルにハマってて、リリースイベントとかで毎週ショッピングモールに行ったりしてましたけど(笑)。

田口

スケジュールはどうですか? 漫画家さんってすごく忙しいイメージがありますけど。

山口

週刊で連載している漫画家さんはすごく忙しいと思います。月刊って大体月に30ページくらいなんですけど、週刊は毎週16~20ページくらい。それを4週って考えると大体月に80ページ弱ですよね。絶対大変だと思います。しかも毎週締切に追われるというプレッシャーもあるし。

自分の場合は月刊なので、1ヶ月のスケジュールで言うと、前半でネームを描いて、後半で作画するっていう感じです。話を考えるのに7~10日くらいかけますけど、早い人だと1日の人もいるし、逆に話を考えるのにすごく時間を取って、作画の時間が短い人もいますし。結構、人によってまちまちですね。

田口

漫画家になるにはどうすればいいんでしょうか? 出版社に持ち込みとかされたんですか?

山口

自分の場合は卒業制作でたくさん描いていた読み切りを、卒業した段階でいろんな出版社に送りました。それで唯一引っかかったのがアフタヌーンだったんです。漫画家のなり方で言うと、投稿して、なんかの漫画賞みたいなものを取って、担当編集さんがついたら、まずは読み切りでデビューしよう。次は連載考えてみよう。っていうのが順当な流れなのかなと思います。まぁ、いろんなルートがあるので。自分で描いた同人誌をイベントに出して…とかもあるし。作品によるところもあると思いますし。学部の3年生だとそろそろ進路を考えるタイミングですよね。

 

――藝大生に対してなにか一言あればいただきたいのですが。

山口

『ブルーピリオド』では藝大生も含め、多くの方の作品をお借りして使わせていただいております。本当にいつもご協力いただきありがとうございます。

これから物語が進んで藝大編に入っていくんですけど、やっぱり一番ネックになってくるのが作品の著作権なんですよね。許可を得ているものか、著作権が切れているものしか出せない。なので、これまで以上に、皆様のご協力を頂ければ大変助かります。これからもよろしくお願い致します!

 

 

>>過去の「藝大人たち」


【プロフィール】

山口 つばさ
東京都出身。東京藝術大学絵画科油画専攻卒業後、アフタヌーン四季賞2014年夏のコンテストで佳作受賞。2016年に新海誠監督の作品『彼女と彼女の猫』のコミカライズでデビュー。2017年6月から「月刊アフタヌーン」で『ブルーピリオド』を連載中。 [ブルーピリオド] 「この漫画がすごい2019オトコ編」で4位、また「マンガ大賞2019」に引き続き、「マンガ大賞2020」にも2年連続でノミネートと、現在話題沸騰中。美大を目指す高校生のリアルな青春ストーリーが魅力の美大受験漫画。 ■あらすじ 成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。 その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。 美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポコン受験物語、八虎と仲間たちの戦いが始まる! ■公式ホームページ https://afternoon.kodansha.co.jp/c/blueperiod.html


【インタビュアー】 杖谷 美彩 (大学院美術研究科絵画専攻油画 修士1年) 田口 裕理阿 (美術学部絵画科油画専攻 3年) 撮影:新津保建秀