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藝大人たち - 第六回 藍にいな

連続コラム:藝大人たち

連続コラム:藝大人たち

第六回 藍にいな

藝大出身の著名人に現役の学生が質問をぶつけ、その対話の中から芸術と教育の接続点について探る。本連載、「藝大人たち」は、そんな目的を持った対談インタビューだ。第六回は、現在、YOASOBIの『夜に駆ける』のMVなどを手がけるクリエイターの藍にいなさんに、美術学部デザイン科2年の坂田真紀さんと資延美葵さんがインタビューを行った。

資延まず最初に、にいなさんは小さいころ、どんな子どもでしたか?


小さいころは、友だちと遊ぶのも好きだったんですけど、結構マイペースだったので、疲れたら一人で遊ぶ感じでした(笑)。休み時間は一人で絵を描いていることが多くて、それを友だちにあげたりしていました。2歳上の姉がいるんですが、姉も絵を描くのが好きだったので、姉の絵を真似て描いていました

資延
なぜ藝大に入学したんですか?


そもそも美術の道を目指したのが、母親の勧めだったんです。小学生くらいまでは漫画家になりたいと思っていたんですけど、中学生くらいでその夢が途絶えてしまって、将来の夢がなかったときに、母親に「それだけ絵が好きなら美大の道もあるんじゃないか」と言われて。それから予備校に通い始めました。予備校の先生も藝大を推してきて、そこで自然と興味が湧いたという感じでしたね。あとは上野という場所が魅力的で(笑)。

資延
いい立地ですよね。美術館もたくさんありますし、動物園もあるし。


実は、2年間私立の美大に通っていたんです。現役のときは藝大に落ちてしまって。グラフィックデザイン科だったんですが、かなり専門的な内容になってきて、ちょっと違うなと思いはじめて。その頃藝大のデザイン科の入試の内容がちょっと変わって、今なら入れるんじゃないかと(笑)。

坂田
構成デッサンが入ったときですか?


そうです。平面構成もデザインっぽくなった時期でした。

坂田
学生時代はどんな風に過ごしていましたか?


藝大の学生時代は、SNSをベースにクリエイター活動をしていたので、そちらをやりつつ課題をやっていました。なので、仕事のほうでは藍にいなとしてやるべきこと、求められることをやって、課題では絵本やアニメーションを作ったり、自分のやりたいことをやるという感じでしたね。

坂田
SNSはTwitterですか?


最初はTwitterでした。

坂田
Twitterは、作家活動ができるからという理由で使い始めたんですか?


私立の美大に通っているときに始めました。周りでSNSを使ってイラストを発信している子が多かったんです。その影響もあって始めてみようという感じでした。最初はイラストを上げていたんですが、イラストではなかなか反応がなくメッセージが伝わりにくいなと感じて、次にマンガを上げて。そうしたらいろいろな人に見てもらえたという流れですね。

資延
アニメーションはどういういきさつで始められたのですか?


私立の美大の2年生のときにアニメーションの課題があって初めてやったんですけど、そのときにめっちゃ楽しいなってシンプルに思って。私は常に進み続けたい性格なんですけど、アニメーションはやってもやっても終わらない(笑)。自然と次にやることが出てくるので、性格に合っているなと感じて。

私は人物を描くのが好きなんですが、マンガやアニメーションのように連続性をもっていたほうがキャラクターの性格や裏側の部分が見えやすくなるので、自分の絵に合っているなと思ったのが、アニメーションを本気でやってみようと思ったきっかけですね。

坂田
藝大時代は学校では好きなものを作って、卒業制作でもアニメーションを作られたと思うんですが、その後はどのような流れで現在のようなお仕事に結びついていったんですか?


時系列的に言うと、4年生の時点で『夜に駆ける』のミュージックビデオ(MV)が人気になったこともあって、活動の幅はかなり広がっていて。その時点でクリエイターとしてやっていけるんじゃないかという手応えはありました。

坂田
作品を作る上で影響を受けた作家や作品はありますか?


ビジュアル面では、印象派の画家、クリムトやエゴン・シーレの作品が軸にあります。その時代の画家の色彩感覚を現代のイラストに落とし込みたいという気持ちがあって。あの頃の画家って、すごく精神と言葉が結びついている感じがして、絵を見るだけで画家の精神が伝わってくる感じがすごく好きなんです。

坂田
MVを作るときに大事にされていることはなんですか?


MVの場合は、完全に自分の作品とは言い切れない部分があります。あくまでも音楽がメインというのは忘れないようにしようというのはありますね。私の場合、クライアント側からの注文というのはほとんどなくて、「お任せします」という感じが多いんです。でも、自分を出すところと出さないところのバランスはすごく大事だなと思っています。

私はアートをやっているときも、常に商業を忘れずにいたい、ポップな存在でありたいというのが軸としてあって。自分が表現したいアートがメインにありつつ、ちゃんとそれが人に伝わる形であったり、音楽とマッチする形であったりというように、中間の部分を探りながら作っています。

資延
もともとMVのように、音楽とアートを一緒に見せたいという気持ちはあったのでしょうか。


MVはいつか絶対作りたいと思っていました。中学生くらいのときから妄想したりしてましたね(笑)。音楽を聴きながら映像を想像するというのがすごく好きだったんです。音楽が好きというのもありました。実際に中学、高校のときは自分で曲を作ったりしていたのですが、これを仕事にするのは違うなと思っていて。絵は子どものころから描いていたので自分のものだと自信を持って言えますが、音楽はどうしても真似事をしているという意識が消えなくて、仕事にするという自信がなかったんですね。それで音楽と関われる形ということで、MVをやりたいなというのは考えていました。

私は、表現の中で音楽という媒体が最強だなと思っていて。生きている中で自然と入ってくるし、形がない分すごく身体に直接流れ込んでくるじゃないですか。その音楽の力を借りたいと言うと変なんですけど、そういう気持ちがあります。

坂田
作品を観ていると、結構ポップな面も感じますし、グロテスクに感じる部分もあるなと思っていて。それはもともとにいなさんの中にあったものが自然に出てきている感じなんでしょうか?


グロテスクやホラーなものは、逆に嫌いで(笑)。ほんとに苦手なんですよ。でも自分が一番恐れているからこそ魅力的に描けるというか。人の心に残る作品を作りたいので、何か怖いもの、恐ろしいものを入れ込むことでトラウマを植え付けたいと思っていて(笑)。自分が一番怖いからこそ、そういうものを入れるという意識で描いています。

夏の悪夢

目撃者

坂田
そこも魅力的だなと思っていました(笑)。

資延
MVは、音楽のないアニメーションと違って、音楽が前提にあるため特殊だと思いますが、こだわりや気を遣っているところはありますか?


絶対に曲の持つ規模感を損ねてはいけないというのはあります。曲ごとに世界観の広い狭いがあると思うんですが、ビジュアルがつくことですごく変わってしまう危険性があります。なので、シチュエーションを考えるときもそこを気にしていますね。たとえばすごく壮大な音楽のMVであっても、そこで大草原のビジュアルを使ったものにしても逆に違う。陳腐になってしまうと思うんです。そういうところに日常的なモチーフを掛け合わせたりするというように、気にしていますね。

坂田
普段、どのような音楽を聴いてらっしゃるんですか?


音楽ではずっと米津玄師さんが好きです。一番影響を受けたアーティストといっても過言ではないですね。全体的に邦楽を聴くことが多いですね。歌詞を見ながら曲を聴くことが多くて。洋楽を聴くときも邦訳を見たりとか。そこからアーティストの人間性を知って好きになることが多いと思います。

坂田
制作以外の時間はどのように過ごされていますか?


何してるかな(笑)。あまりアクティブなタイプではないので、どうしても勉強になることをしがちかもしれませんね。本を読んだりマンガを見たり。家でずっと作業をしているとオンオフがつきづらくなるじゃないですか。今日は完全に休みというときは友だちと遊んでいます。友だちと遊ぶ日が自然とオフになります(笑)。

資延
にいなさんが、他のアーティストと比べて、自分の個性だと思っているところはありますか?


ポップさとアートの中間点にいるのは、私くらいじゃないかなと思っていて。日本のアニメっぽいアニメだったり、アートアニメーションだったり、割とどちらかに寄ると思うんですけど、自分はその中間にいたいと思っているので、そこが私の強みかなと思っています。自分の育ってきたところ自体が中間点というか、どちらも摂取しながら生きてきたので自然とそうなったんですかね。アニメもマンガも好きだし、美術館でアートを見るのも好きでしたから。藝大生はどっちも好きという人、多いと思うんですよね。

坂田
私は小さいころは、音楽はクラシックしか聴かなくて絵もいわゆる絵画ばかり見ていたんですが、中学生になって友だちが増えてきたところでポップに触れたという感じです。だから共存というよりは、後からポップが自分の中に入ってきたというところがあるので、作品の傾向的には絵画とかクラシック系の感じがちょっとあるのかなと思っています。

資延
私はどっちだろう…。もともとはポップよりもアートのほうがすごく好きで、美術の道に進もうと思ったのもアートの影響が強くありました。でもマンガも好きですし、アニメも好きでよく見ているという感じですね。

坂田
にいなさんの話を伺って、大衆に受け取ってもらうには、ポップという形なんだろうなと思いました。中間点というのは、一番受け取りやすい形なのかなと。


数年前まではポップをバカにしていた節があって。やっぱり大衆に媚びることになってしまったり、すごくわかりやすくすることで作家性が失われて安っぽいものになってしまうんじゃないかと思っていました。でも、あるアーティストがポップについて語っているのを聞いてから変わりました。メッセージがあったら多くの人に伝わったほうがいいし、老若男女に伝わる形、誰にでも愛される音楽は素晴らしい。それができるのがポップだ、ということを語っているのを聞いて、それは確かにそうだし、簡単に成せる技じゃないよなというのはあって。

そういうことを意識しだしてからは、常にどこかに普遍性を入れておくことを考えています。人間の普遍的な感情の動き、たとえば家族を失って悲しいとか、いじめられている子がかわいそうとか、そういうシンプルな感情から共感をしていくことがポップにつながるのかなと思っていて。MVを作る上でもそういうことを考えていますかね。誰にでもつながる話から発想していくことが多いと思います。

同時に、プライベートな部分もないとダメだと思っています。普遍性を求めすぎて、ものすごくありきたりなことしか言わなくなってしまったら、ほんとうにそれは表面だけになってしまうので。そこに自分の感情や思想を上手く混ぜ込みながらやっていくのが大事かなと。それにより、見た人によって違う解釈になってしまっても、それはそれでいいと思います。それ自体が自分の作品の個性になると思うので。普遍性とプライベートな部分は、常に両立させて作品を作っていきたいなと考えています。

坂田
にいなさんとして、これからこうしていきたいという展望はありますか?


今はMVがメインで、誰かの作品を広げていくという活動をメインにしていますが、これからはゼロイチの部分をやっていきたいなという気持ちがあります。自分で物語を作って短編アニメーションを作るとか、マンガを描くとか、そういうことをやっていきたいですね。

坂田
基礎の部分から自分で作っていこうという感じですね。作品の規模が大きくなると一人で作るのが難しくなってくると思いますが。


MVは今でも一人で作っていて。自分で全部やりたいというか、伝え方がわからないので結局そうなってしまうという感じです。手を動かしながら考えるタイプなんです。MVも、最初から絵コンテを作ってビジュアルを決めていくというようなガチガチな感じではなくて、ラフを描きながら色も決めていくという感じなので、なかなか人に頼めなくて。このようなやり方だと、もっと規模の大きな仕事ができないというところがあって(笑)。そこが課題ですね。

ただ、今はとりあえず自分の中で手法を決める時期だと思っています。多分この段階で人に頼んだり、スタジオを構えて誰かと仕事をするとなると、どんどん自分の色が薄くなってしまうと思うので。ちゃんと自分の色を理解してから次のステップに進みたいと思っています。

資延
藝大を卒業されてから、藝大で学んでよかったなと思うことはありますか?


先日久しぶりに藝大に行ったとき、めちゃくちゃいい環境だなと思いました(笑)。在学中は、先生は何も教えてくれないし(笑)、ほんとに自分から動かないと何も得られない。ただ場所を貸してくれてるだけじゃん、みたいな気持ちがあったんですけど、それがとても大事だったなとはすごく思います。藝大にいることで、何をしてもいいんだというマインドが育つことが大事かなっていう。日本で中学、高校くらいまで過ごしていると、ルールみたいなものにガチガチに縛られちゃうと思うんですけど、藝大に入って上野公園に放たれることによって、何でも許してくれるじゃない?みたいな(笑)。そのマインドがすごく大事だなって思いますね。

あと、藝大に入るとシンプルに、すごく尊敬できる仲間たちが生まれるじゃないですか。その中で切磋琢磨していくというのがほんとに重要だったなと思います。藝大の中にいると気付かないんですけど、卒業してから久しぶりに藝大生に会うと、変だなって思うことがあって(笑)。久しぶりに家で、同級生5、6人と遊ぼうってなって、昼くらいに集まろうと言ったのに、結果的に全員集まったのは夜の8時で(笑)。それについて誰も何も思ってないんですよ。そういうのが大事かなと(笑)。社会人としてはダメなんですけどね。

坂田
藝大に入ると、同級生にいろんな人がいるので、あの子はこういう子なんだって寛容になるの、わかります。そういう環境に慣れると、社会で普通に過ごしているときに、もっと人間は寛容さがあってもいいんじゃないかなって思うときも多いですね。

資延
藝大生にメッセージがあったらお願いします。


そもそもこの日本で美大を選んで、その中でも藝大を選ぶって、結構異端な道を進んでいると思うんですね。なので、みんな自分の思考を持って自分で行動できる人たちなので、その力を存分に発揮してほしいなと思います。友だちの中には、SNSで発言するのが怖いという子もいるんですけど、普通とはちょっと違う道を選んできた私たちだからこそ発信できるものだったり、思考があると思うので、そこはすごく自信を持ってものづくりをしてほしいし、発信してほしいなと思います。

あと、ビジネス面でいうと、藝大生を紹介してくださいって言われたときに、SNSに作品を上げている子が少なくて紹介できないんですよ(笑)。

資延
去年くらいから、一気に課題とかをSNSに上げる子が増えましたね。やっている子は大量に作品を上げていて、たまにバズったりしています。私たちの代とか下の代ですかね。逆にやらない子は全然やらないという感じです。


じゃあ、私たちの世代がやってなかったのか(笑)。持っている技量はめちゃめちゃあるし、みんな「そんなこと簡単にできないよ~」ってことを涼しい顔してやっているから、なかなか気付かないんです。でも社会に出てみると、藝大生の力ってすごいなって改めて思うので、ちゃんと社会から見つけてもらえる場所にいてほしいなと思います。

 

>>過去の「藝大人たち」

 


【プロフィール】

藍 にいな

漫画家、アニメーション作家
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
SNSにて発信した漫画が共感を集め、2018年に自身初の書籍である「セキララマンガ 眠れぬ夜に届け」を執筆、出版。
同年、アニメーション作家として活動をはじめ、依頼様々なアーティストのミュージックビデオや配信ジャケットを手掛けている。
主な活動に、YOASOBI「夜に駆ける」MV、椎名林檎ライブツアーバックアニメーション、Omoinotake「惑星」MVなど。

 

【インタビュアー】


坂田 真紀
東京藝術大学美術学部デザイン科2年

 

 

 

 

 

 

 


資延 美葵
東京藝術大学美術学部デザイン科2年

 

 

 

 

 

 


撮影:新津保建秀