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藝大リレーコラム - 第七回 新井鷗子「みんなの藝大」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第七回 新井鷗子「みんなの藝大」

そもそも家の中が藝大でした。父は美校油画出身の画家、母は音校ピアノ科出身のピアノ教師。個性的であることが素晴らしい、独自の考えを持つことこそが大事、という空気の中で育ちました。ごく平凡な地元の小学校に通っていた私は、みんなと同じ服を着てみんなと同じことがしたいのに、学校が決めた規則や行事に従うことを潔しとしない両親のもと、常に、他人とは少し違ったオリジナルとやらを貫くことを強いられ、肩身の狭い思いをしたものです。ですから幼いころは、「個性とはなんと忌まわしいものだろう」と感じていました。

思えば自分の仕事は「消去法」で決まったようなものです。十代は音大受験を目指して朝から晩までピアノレッスンの日々。しかしピアノ科の受験に失敗し、演奏がダメなら音楽を研究する方に行こうと藝大の楽理科に入ったものの、地道な研究を続ける根気がなく、そこから逃げるように作曲科を受験し、楽理科卒業と同時に作曲科に1年生から入学。藝大を丸々2回転、合計8年間も通いました。卒業後は、作曲コンクールにいくつか挑戦してみましたが、毎度予選落ちで簡単に心が折れ、作曲家になるのをあきらめかけたころ、たまたま友人のコンサートを企画構成したものが成功し、そこから「コンサートの企画構成」の依頼が次々と来るようになります。企画構成とは、コンサートの「裏方」として、キャッチコピーを考え、曲を並べトークの台本を書き、みんなに楽しく聴いてもらうためのアイデアを考える仕事です。

ある日、たまたま私の構成したコンサートが某テレビ局のプロデューサーの目に留まり、音楽番組の構成をレギュラーで務めることになりました。そうしてこれまでに、読響シンフォニック・ライブ、題名のない音楽会、N響ほっとコンサート、東急ジルベスターコンサート等クラシック音楽専門の構成作家として、現在に至っています。
昨今はアーティスト自身がトークしながら演奏するというスタイルが増えましたが、一昔前の演奏家はひたすら演奏するだけで、芸術音楽を親しみやすく聴かせることは堕落とするような風潮さえありました。しかし今や藝大生たちも、自ら歌って弾いて踊って演じて、トークも上手で、多彩なエンターテイナーとして活躍する人が増え、時代は変わったものです。
これからの藝大生たちは、みんなが楽しめるものと己の個性をきっとうまく両立させていくことでしょう。

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【プロフィール】

新井鷗子
東京藝術大学音楽学部楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。「読響シンフォニック・ライブ」「題名のない音楽会」「エンター・ザ・ミュージック」「東急ジルベスターコンサート」等の番組構成、コンサートの脚本を数多く担当。藝大COI拠点にて障がい者を支援するワークショップやデバイスの研究開発に携わる。著書に「おはなしクラシック」(アルテスパブリッシング)、「頭のいい子が育つクラシック名曲」(新星出版)、「ひとさし指のノクターン」(ヤマハ)、「音楽家ものがたり」(音楽之友社)等。「横浜音祭り」総監督。東京藝術大学特任教授、洗足学園音楽大学客員教授。