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藝大リレーコラム - 第十三回 林武史「夢の中で」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第十三回 林武史「夢の中で」

Stay Homeが始まって1ヶ月が過ぎた。この1ヶ月間は夢の世界に浮遊しているような不思議な気分の毎日であった。そして、さらに5月末までの延長が発出された。
私たちが新型コロナウイルスを意識しだしたのは、1月の後半だったように記憶している。2月修士、博士の入試頃には警戒感を強く持ち始め、3月学部入試中は感染者が出ないよう大学全体で感染予防に細心の注意を払い試験を行った。そして、無事に今年度の新入生を決定することができた。その後、感染対策業務に追われ、気がつけば5月になっていた。大学から巣立つ学生たちを送り出すことも出来ず、また新たに迎える新入生とは対面しないまま今日に至っている。アカデミックカレンダーの3月、4月そして5月は乱され続け、未だ混沌とした日々が続いている。
「・・・かつての日常に戻ることは困難である・・・」テレビでこの発言を聞き、新型コロナウイルスのために私たちの日常が奪われ、人と人との関係が分断され、これまでの価値観や人間関係に変化が生じて来たことに不安を持つ。既に大学では遠隔授業が始まり、人と人との結びつきをモニター越しに行っている。

本当のところ、私は家でゴロゴロしながらあれやこれやと夢想することが嫌いじゃない。自宅待機をそれなりに楽しんでいる。子供の頃にみんなと一緒に遊んだ記憶よりも一人で遊んでいた情景の方が鮮明に蘇る。それは、昔から夢見る時間を楽しむ習性があり、大人になり大学という組織に関わるようになった今でもその傾向は何ら変わらないということだ。私は石を彫り、削り、たまに石の表面を磨き、その石を一人で黙々と複数並べて、場を構成する彫刻を造っている。みなさんは、こつこつ石を叩く音と石の破片が周辺に飛び散っている光景を構内で目にしたことがあるかも知れない。今は、石を彫ることも動かすことも私は出来ないが、創る場が何処であれ、制作中は個の世界に浸ることが私たちに特権として与えられている。創造する営みに欠かせない、夢の中での空想的事象をかたちにする日常は変わらない。新型コロナウイルスなんかに、私たちの大事な日常は侵されない。しかし、この感染症との戦いは、長期戦になりそうだ。今後、社会は非常に早いスピードで変わる可能性がある。そして、既成概念を一度捨てる試みを余儀なくされる事態が訪れるであろう。今は、個の創造、表現の力を結集して孤立より連帯感を持ち、生き抜こうではないか。

 

山のかたちのためのドローイング 青
Drawing for Shape of Stones – Blue

 

写真(上):水田

 

 


【プロフィール】

林武史
1956年 岐阜県岐阜市に生まれる 1980年 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業 1982年 東京藝術大学大学員院美術研究科彫刻専攻修了 1998-99年 文部省在外研究員としてパリに滞在 2013年 東京藝術大学美術学部彫刻科教授