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藝大リレーコラム - 第十六回 亀川徹 「五感で感じる」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第十六回 亀川徹 「五感で感じる」

“Be strong, be kind,” 新型コロナの感染拡大防止対策に成功したと言われているニュージーランドのアーダーン首相の言葉である。「強さとやさしさ」とを兼ね備えるためには、状況の正しい理解と、科学的な裏付けに基づく冷静な判断が不可欠だ。
約1ヶ月半にわたった緊急事態宣言が解除された。残念ながら4ヶ月前の日常にすぐに戻れるわけではなく、これから私たちに求められるのは、「正しい情報」に基づいた「冷静な行動」である。そのためには、まず自分が普段どのようにして情報を得ているのかを見直してみる必要がある。
今、ツイッターなどのSNSで得られる情報のほとんどは、科学的な裏付けのない単なる落書きだ。特に匿名で発信されている情報は全く信用に値しないゴミ情報と言える。例えば研究者が論文を書くときには、参考文献リストを見ればその論文の価値がわかると言われるほど、どのような既往研究を参照したかが問われる。信頼に足る情報を得ることは、簡単ではない。今多くの情報は、インターネットの検索で得ることができるが、明日の天気や近所のレストランの情報は得られても、今我々が直面しているこの状況を解決してくれるような有益な情報は、おそらく簡単には見つからないだろう。
感染拡大のために最も有効なのは、人々の行き来を遮断することだということは、この数ヶ月で世界的に証明された。しかし、人が人らしい生き方をするためには、人が集まって様々な活動をすることが不可欠だ。そのバランスを取るためにはどうすれば良いか。科学的な情報に基づいた冷静な行動を考える必要がある。
私の専門は、多くのスピーカを用いて立体的な音響を作り出すことだ。残念ながら今のリモートワークの現状では、ヘッドホンを使わざるを得ない。現在最先端の技術を用いれば、100チャンネル程度を用いることで、その場の気配も届けられることができる。しかし今回のような事態でこのシステムを使うためには、インターネットの回線速度やデータ容量はまだまだ不十分だ。また昨今の遠隔システムでは映像が数秒程度遅れるため、遠隔地と結んで同時演奏することは、残念ながら不可能である。
この数ヶ月で体験したオンラインによる会議、授業などから、オンラインでも十分対応できることと、やはり対面でないとできないことがわかってきたように感じる。画面を見ながら最もフラストレーションを感じるのは、相手との距離感がわからないことだ。我々は普段の対面のコミュニケーションで、いかに五感=身体を使って距離感を感じてきたか。そしてそれによって安心感を得てきたことが、このカメラとマイクのみの情報で感じる「身体感覚の欠如」だと痛感している。五感を取り戻す生活に1日も早く戻れるように、正しい情報に基づいて”Be strong, be kind,” を心がけたい。


(東京藝術大学千住キャンパスstudioB 22.2マルチチャンネル音響システム)

 

写真(上):2019年7月 録音実習の様子(東京藝術大学千住キャンパス録音調整室)

 


【プロフィール】

亀川徹
東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科教授 九州芸術工科大学音響設計学科卒業後、日本放送協会(NHK)に入局。番組制作業務(音声)に従事し、N響コンサートなどの音楽番組を担当。2002年に東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科に就任し、音響、録音技術について研究指導をおこなう。現在は22.2マルチチャンネル音響など、3Dオーディオに関する研究をおこなっている。博士(芸術工学)。