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藝大リレーコラム - 第十九回 三輪恭市「いまだ抱くことの出来ぬ孫への伝え」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第十九回 三輪恭市「いまだ抱くことの出来ぬ孫への伝え」

貴方がイギリスで生まれて、まだ一か月もたたない3月5日の朝のことです。爺が仕事前のルーティーンとして、三年半つづけている藝大のキャンパスのシンボル『椎の木』と『岡倉天心像』。そして『アーネスト・フェノロサの碑』にご挨拶をした時でした。六角堂の天心先生が新型コロナ感染防止の為マスクをお掛けになりました。
爺の第二の人生の生業は、近代日本の正倉院たる東京藝術大学大学美術館で来館者様、学生さん、教職員の方々の『生命・身体』と収蔵する国宝・重要文化財を初めとする唯一無二の約3万点もの大切な『美術資料』等を衛(まもる)ことです。貴方のような次の世代を担う人達に伝え残す為です。
大学美術館の鍵を開け、朝一番に開館準備に入るのですが、今は淋しく中央監視室のモニターが暗い展示室を映しています。新型コロナによる臨時休館に伴い、校内の特別巡回が強化され、いつもは学生さんの若々しい声や、夜通しの作品制作の音が響く校内ですが、今はひっそりと時折休園中の上野動物園の動物達の淋しそうな声が聞こえるだけです。
爺の本務は大学美術館ですが、お昼過ぎには食事交代の為、美校正門に立ちます。第一の人生では、『人』と『物』と『金』を繋げ事実の解明をする生業でした。東日本大震災から九年が経ち、正門には喪章を付けた国旗が掲揚され、人生お金より『命』が一番大事と福島へ救出に向かった日のことを思い出します。その同じ3月11日にWHOは『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)』をパンデミック(世界的大流行)と宣言しました。私たち日本人は、疫病も、地震も、津波も自然のものとして畏敬の念をもって『命』を大切につないで。
例年であれば最終合格発表日は生協が用意した特注の『藝大合格』のピンクの紙袋を持つ合格者や父兄の方へ、笑顔で『おめでとうございます』と声をかけるのも、ネット発表のみで叶えることは出来ませんでした。
藝大広報誌「藝える 第六号『愛』」の配布を始める前の『藝大ヘッジ5 植樹ワークショップ』に参加し、感染防止の間隔を取り美校正門の学長の植えた反対側に爺も『愛』込めて苗木を「植える」ことにしました。外周巡回で保育所の医療従事者等の子供達との挨拶交換に加えて苗木の成長が貴方の成長とも重なり、また一つ外周巡回の楽しみが増えました。
卒業・修了式及び入学式も中止となり、写真だけでもと正門前で袴の晴れ姿等で記念写真を撮りに来た学生さんたちにお祝の言葉を掛けられた事はとても嬉しく、また学長の入学生へのメッセージも藝大ホームページで聞く事が出来ました。
三輪の名を名乗る爺(三輪の末)が今を生きる東京に『緊急事態宣言』が発令され、ヤマトの三輪の本では、古代からつづく疫病を鎮める『鎮花祭』が挙行されましたが、ついに「藝祭2020」の中止が決定され、多様で個性豊かな新入生たちが一つの目的に向かって才能を足し合い『藝祭御輿』を作り上げる素晴らしい教育プログラムの制作過程を観ることが出来ないのはとても残念です。
旧奏楽堂や赤レンガ館からの学長のバイオリンの音色に励まされながらも三度の入構禁止期間の延長の末、大学美術館での開催の御即位記念特別展『雅楽の美』も中止となり、夜遅くまで学芸研究員さんたちが頑張られ、数多くの国宝、重要文化財を始めとする素晴らしい日本伝統の『音楽と美』の品々の展示が『幻の展示会』となってしまいました。
5月には、オンラインでの授業や展示会も始まり、保存修復彫刻の籔内佐斗司先生の研究室のオンライン展示会では、『古事記』や今年編纂1300年を迎えた『日本書記』に記載されている日本最古の疫病に関わる三輪の本の大神(おおみわ)神社の元神宮寺・大御輪寺のご本尊を明治の廃仏毀釈の中、フェノロサ先生や岡倉天心先生そして村の人々より、聖林寺へ移され、今に伝わる国宝『木心乾漆十一面観音立像』の摸刻研究の成果が、新型コロナウイルス感染症の『緊急事態宣言』発令の中、オンライン開催されたことは爺の心を強く震わせるものでした。
『緊急事態宣言』も解除され、ブルーインパルスも藝大の上を飛び、日比野克彦先生の『IMA概論』オンライン授業を受講される学生さんにも偶然挨拶ができ嬉しいことでした。
一部の面接授業も始まり爺は守衛所の受付で学生さんが使うボールペンを一本一本消毒しながら『日日是好日』だなと思いました。晴天の日もあれば、大雨の日もある。更に嵐もあれば、地震や津波や新型コロナもやってく日もある。その日々を右往左往することなく、知るを楽しみ正しく畏れ、そんな日々をひっくるめたうえで楽しむべき日を楽しみ、楽しみなきところまでも楽しみ、今日一(恭市)日を精一杯生きて大学美術館を衛。その為にも自ら清浄と免疫力を上げ人生100年時代を壮年として明るく楽しく元気よく生きる。三度目のウルトラマラソン『柴又100k』の完走に挑戦するか。人は、ウイルス(自然)と共に生きて来た。抗体検査(東京0.1%)も『日日是好日』。笑える嘘は良いけれど、爺は保身の偽り無く誠実に、利他的にフロー長寿(フロー理論)と参ります。
貴方の居るイギリスでは、新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方がアメリカに次いで世界で二番目。コロナの影響もあってか抗議デモ(適法)や野外彫刻が運河に落とされ(犯罪)、暴動が起きないかとても心配です。無事に日本に帰って貴方を抱ける日を楽しみにしている爺です。
館内最終巡回を終え朝の入館した状態に戻し、最後に鍵をかける音が爺はたまらなく好きだ。そして『フェノロサ先生』、『岡倉天心先生』、『椎の木さん』にクールダウンの挨拶をする。爺は早く新型コロナウイルス感染症が終息し、岡倉天心先生のマスクが取れ、通常の授業や展示会の開催が出来ることを心から願っております。 

 


【プロフィール】

三輪恭市
(株)KSP・EAST 東京藝術大学派遣隊 大学美術館守衛 三輪恭市(とびラー警士 海柘榴市) 1955年東京都生まれ 。東京国税局、同管内税務署及び税務大学校教育官等を務め東京上野署を最後に退官。 AUM事案、東日本大震災等の経験からライフワークとして生命科学・考古学・文化財・日本美術史等を学ぶ。 2017年東京藝術大学大学美術館 守衛(警士) 2018年東京都美術館×東京藝術大学『とびらブロシェクト 』とびラー7期 例年DOOR公開講座受講。 還暦過ぎから始めたジョギングで2016 2017 ウルトラマラソン「柴又100k」二度完走 〔税理士資格・施設警備業務2級・防災士・上級救命講習・防災センター要員・自衛消防技術認定・テロ対策警備技能士〕