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藝大リレーコラム - 第二十九回 東誠三「コロナ禍の中で」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第二十九回 東誠三「コロナ禍の中で」

新型コロナウィルスの感染拡大、いわゆるコロナ禍に全世界が巻き込まれて、半年以上の月日が経ち、その収束は未だ全く見えていない。街で目に入る光景は一変し、それは恰も、我々の世代が十代の頃にしばしば話題になっていた、近未来社会の様相を描いた幾つかのSF映画のようだ。いや、3月以降、少なくとも我々が目にしてきた光景の奇異さは、それ以上かもしれない。

私は、音楽学部で実技を教えているので、担当する授業のほぼ全ては、いわゆる「レッスン」である。コロナ禍の長期化が避けられなくなるとともに、レッスンの遂行のために何とかしなければという焦燥感が募り、夢想だにしなかった「オンラインレッスン」を始めることになった。この言葉とそして、それと対になる「対面レッスン」、どちらも生まれて初めて使うことになった単語だ。我々音楽の実技担当教員は、「生の音」を介した教育のために奉職している訳であって、よもやこのような形でレッスンを行わざるを得ないというような事態は、全くの想定外だった。至極当然ではあるが、本来会議用のアプリであるzoomやSkype、FaceTimeなどを通した楽音のやりとりは、極端にそのクオリティが落ちる。音楽の表現は、時間軸にしても(テンポや拍子)、エネルギーの多寡にしても(強弱)、空間(音響・音色)にしても、非常に微妙な差異で成り立っていることが多い。そうした微妙な差が全く伝わらない環境で、一体教育として成り立つのか? 数々のジレンマと戦いながら、恐らく全ての実技教員がもがき続け、無力感に苛まれた前期だったように思う。貧しい音響に加え、小さい画面を凝視し続けなければならない肉体的な苦痛も、一日中レッスンを続けると、かなり応えてくる。唯一、画面の向こうに、学校に来ることができず、また様々な演奏の機会を奪われて悶々とし、普段のレッスンとは違う様相に多いに戸惑いながらも、こちらの問いかけや働きかけに答えてくれようとする一人一人の学生がいることだけが救い、とも言えた。

緊急事態宣言が解ける頃から、対面レッスン再開への模索が始まった。常態化したオンライン会議を通じて、切実かつ異なる状況の各専攻科から、様々な意見が出され、対面レッスン復活への道は決して平坦ではなかった。幸いこの10月から少なくとも、学生・教員の双方が望めば専攻実技の対面レッスンは、ほぼ全面的に可能となっているが、これとても感染拡大の状況が悪化すれば、また後戻りしかねない。対面レッスンがごく一部解禁され始めた6月中旬のある日、久しぶりに上野の構内に入ると、そこにはひっそりと佇む、まさに廃墟のような音楽学部の姿があった。音のしない「音楽学校」は、ゴーストタウンそのものだ。魂を抜かれた、抜け殻のようなものだ。後期は、学生たちが、その抜け殻に戻ってくる。元どおりになるのは、いつになるのか見当もつかないが、永らく「腑抜け」だった校舎に再び魂が少しずつ宿っていくのを、安堵と、そして新たな希望とともに見届けて、そして聴き届けていきたい。

 

写真(上):2020年前期 新型コロナウイルス感染症対策を実施した上での授業風景

 


【プロフィール】

東誠三
東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ 教授 東京音楽大学卒業後、フランス政府給費生としてパリ国立高等音楽院に学ぶ。 日本国際、モントリオール、カサドシュ、ポッツォーリ等数多くの国際音楽コンクールに優勝・入賞。近年では、演奏・教育の両面で活発な活動を行なっている。 2007年より東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ 准教授。(‘16〜 同教授)