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藝大リレーコラム - 第五十五回 枝川明敬「Why art matters.輝く日本のために 」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第五十五回 枝川明敬「Why art matters.輝く日本のために 」

コロナ(COVID-19)は、世界に多大な影響を与えることになりましたが、文化芸術の分野では人との接触が不可欠な舞台芸術に特に大きなものがありました。文化芸術でも比較的人との接触を避けられる美術は、インターネット活用による売買や展覧会も企画され、舞台芸術ほど影響は大きくありません。一方でゲームソフト業・インターネット関連サービス業は活動指数の伸びは大きく、特にゲームソフト業はコロナ感染症蔓延の影響はほとんどみられません。

現在の喫緊課題は、文化芸術への多大な被害に対する保障措置とコロナ感染がある程度抑制された際の文化芸術活動のあり方にあるでしょう。文化芸術への支援措置は文化芸術団体・芸術家への直接支援と被害を受けた芸術家個人の生活を維持するための支援に分けられます。欧米諸国の事例をみるとヨーロッパは前者の救済措置に重きが置かれ、アメリカは後者の趣です。アメリカは私的領域での文化芸術支援の規模が大きく、政府も個人への給付が主体となっています。その政策はアメリカ国家の成り立ちの歴史に負っています。ヨーロッパの国々は単一主権国家か連邦国家かによらず国家(中央政府,地方政府)の文化芸術団体・芸術家への給付が中心です。アメリカは消費者サイドへの支援によって、個人の生活を維持し結果として文化芸術活動を消費の立場から再興しようとする姿勢が強い。ヨーロッパは、文化芸術団体・芸術家への給付措置で、供給者サイドに立った支援です。我が国は,供給者サイドの支援措置が文化庁・経済産業省で行われていますが、消費者サイドに立った文化芸術団体・芸術家個人への支援措置はほとんどみられません。

今回の文化芸術へのコロナ被害の対策で日頃の日欧米文化政策の特徴が浮き彫りになりました。政策行為自体は一定の行政制度を前提とした国民への介入の最適値を求めることに主要な目標がありますが、コロナ被害のような前例のない事態に対して、従来の行政制度では対応が難しく、行政制度と政策課程が無力化するのが実情です。そのようなフレキシブルに対応しなければならない事態に対して、欧米では政策決定の前提条件の変更を認めた上で、文化芸術への新たな枠組みを構築して支援を行っています。

ちょうど、2021年12月は太平洋戦争開始80年目に当たります。日本の軍事を含む諸制度の矛盾・柔軟性のなさが、人的・物的資本の欠如以上に戦争遂行に大きいマイナスとなったことは戦後明らかにされています。80年目に当たる年に、欧米と比べて日本の政治行政制度と意志決定過程の不自由さ・非柔軟性が「弱きものである」文化芸術支援に如実に表れているともいえ、当該戦争から得た教訓は何であったのか考えさせられます。


(1988年のルーブル美術館、観光客も少ない。彫刻とは本来触覚で鑑賞するものですが、いつになったら昔のようになるのでしょうか。)

 

写真(上):When Covid-19 is cleared, Japan will be lie in the sunshine?

 


【プロフィール】

枝川明敬
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻 教授 1955年生まれ。文化経済学者。名古屋大学工学部卒業。工学博士(名古屋大学,建築学)。経済学修士(筑波大学)。文部省(現文部科学省)入省、総務庁(現内閣府・総務省)、文化庁地域文化振興室長、名古屋大学教授などを経て、東京藝術大学教授、専門は、地域/公共圏と文化資源、文化政策、地域創造。主な著書に『文化芸術への支援の論理と実際』、『新時代の文化振興論──地域活動と文化施設を考える』、『文化芸術の経営・政策論』、共著に『文化政策概論』、『文化会館通論』、『美術館政策論』、『文化経済学』、『COMPARING Cultural Policy』など。