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藝大リレーコラム - 第六十回  酒井雅代「ムジタンツークラシック音楽と遊ぶー」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第六十回 酒井雅代「ムジタンツークラシック音楽と遊ぶー」

2018年度より「ムジタンツ」という、音楽を題材とした体験型プログラム開発に取り組んでいます。「ムジタンツ」とはドイツ語の音楽(musik) とダンス(Tanz)を組み合わせた造語で、音楽を専門にする私と身体表現を専門にする山崎朋さんが、互いの専門性を持ち寄って作るプログラムです。2018年に一般公開講座として親子向けに実施した「藝大ムジタンツクラブー親子で楽しむ音楽とダンス!」では音楽と数字、音楽と言葉、音楽と魔法という風に、音楽と何かを掛け合わせる形でテーマを設定し、バッハ、モーツァルト、ラヴェルといった作曲家の作品の中から、子どもの心にフィットしそうな曲を選び、プログラム開発に取り組みました。参加者に音楽作品を深く経験して欲しい、いっそのことクラシック音楽で一緒に遊ぼうではないか、という気持ちで作り始めたこのプログラムですが、山崎朋さんとの協働作業は、異なる感性や観点をすり合わせながら「受け手にとっての面白さ」について一から探究するものになりました。

一般公開講座「藝大ムジタンツクラブ 親子で楽しむ音楽とダンス!」http://ga.geidai.ac.jp/indepth/musitanz2018_1/

2019年度からは文化庁助成事業「Meetingアラスミ!」の一環として、「アトリエ・ムジタンツ」をスタートしました。このプロジェクトは足立区、墨田区、台東区の自治体職員の方々と連携し、「地域とアートをつなぐ」「分野を横断したアートプログラムをデザインする」をテーマに、一般大学生、音楽大学生、音楽家、文化施設職員、企業に勤めるかたなど、一般公募により集まった多彩な受講生たちとともに進められました。「アトリエ・ムジタンツ」の事務局はワークショップ・デザイナー®、コーディネーターとして活動する石川清隆さん、山崎朋さん、私で構成され、チーム内ではプログラム開発とコーディネートの役割をはっきりわけず、公募メンバーの参加度合いもばらつきがある中で、いわば散らかった「アトリエ=作業場」さながらに活動を行いました。3年間に渡って実施したこのプログラムを振り返ってみると、常に試行錯誤の連続でした。事務局3人の「ものの見方」「着眼点」「目指す方向性」はそれぞれ違っていましたが、そこに公募メンバーが入ることで多様な観点が加わり、「受け手にとっての面白さ」の探究は、さらに多層的に広がったように思います。

詳しくは、アトリエ・ムジタンツのWebサイトにも掲載している記録集があるのでぜひご笑覧いただけたらと思います。

ムジタンツのプログラム作りで「受け手にとっての面白さ」を探究するときに、私の支えになっていることが2つあります。1つは、扱う音楽作品の素材そのものについての探究と検討を徹底して行うこと。これは、音楽高校、大学時代、さらに卒業後に至るまで、出会った恩師の方々から室内楽を中心としたレッスンの中で教え込まれた、作品に向かい合ういわば基本的な方法ですが、結局はここに立ち返ることで「面白さのタネ」を見つけている気がします。恩師が「趣味趣向の話をしたいんじゃなくて、素材の話をしたい」と繰り返しおっしゃっていた声が、今でも私の耳にたびたび聴こえてきますし、「そのようにして音楽と向き合い続けるのは、楽しいし、何歳になっても宝が見つかるのよ」と嬉しそうに語っていらしたことも覚えています。2つめは、人と一緒に考えることです。「面白さのタネ」を育てていくためには、他人と意見を交えることで生まれるインタラクションが大事だと考えています。  

今年度も、文化庁助成事業アートラウンドすみだ川の一環としてプログラムを継続しています。このような活動が展開できるGAに感謝しつつ、さらなる試行錯誤と探究を続けていきたいと思います。最後になりましたがムジタンツの誕生から実施に至るまで多大なるご尽力を頂いているGAの熊倉純子先生、箕口一美先生をはじめ、ご理解を頂いている皆様に心より感謝申し上げます。


【プロフィール】

酒井雅代
東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 助教 桐朋学園大学、同研究科修了(ピアノ専攻)。室内楽を主とした演奏活動を行う。各方面で音楽ワークショプやファシリテーター・トレーニングの企画運営に携わる。 2018年東京藝術大学一般公開講座「藝大ムジタンツクラブ」を開始。クラシック音楽と身体表現の要素を混ぜて遊ぶ、新しい形のアートプログラムを提案・実践している。