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藝大リレーコラム - 第七十一回 平諭一郎「学生から学ぶ」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第七十一回 平諭一郎「学生から学ぶ」

美術学部・研究科の卒業・修了生にとって新年の始まりはあわただしい。卒業・修了制作(通称「卒制」)の仕上げと講評、さらに正月下旬から大学美術館や東京都美術館などを会場とした卒業・修了作品展(通称「卒展」)が始まるからだ。

卒展は、美術の学生にとって最も大きなイベントのひとつで、これから先の道を歩む第一歩となりえる場であり、人によっては異なる方角へと人生の舵を切る前の最後の花道であったりするだろう。そのようなハレの舞台を観客として楽しみながら見て歩いていると、自分が卒制を制作した頃から20年足らずで作品や展覧会そのものが大きく変わったように感じられる。画像や映像、マンガ的な表現が増えたし、制作背景や意図、自身の立ち位置を表す文が書かれていることも多い。また、展示されている卒制の側にはQRコードがあり、作品がその先のウェブサイトやSNSへと誘導するための広告塔の役割を担っているようだ。学生の多くは人に見られることを意識しながら展示しているのだろう。また、検索や情報管理、データ編集、成型など、思考や研究、制作の過程でコンピューターを使用していることも影響しているのだろうか。美術館や商業ギャラリーでの展覧会と見た目はそう変わらないくらい、作品がきれいに整えられている。

ここで比較対象として、私が卒業したおよそ20年前の卒展をご覧いただくと時代の差がわかりやすいが、そもそも私は自分の卒展を撮影した写真を持っていないようだ。なぜなら、そのときにスマートフォンはもちろん存在しないし、カメラやコンピューターも持っていなかったからだ。仕方がない。

と昔を懐かしみながら、ふと恐ろしくなる。自分が若い頃は・・・という話をしてしまっている。

これまでにもいろいろな国や地域を訪れたり、先人の作品や思想から学び、人のことばに耳を傾け、考えを吸収することで、学生の頃より知識は増えたし、多少なりとも経験は積み重なっている。しかし、その代わりに失っているものも大きい。いま流行している歌はほとんど知らないし、学生が休日になにをして遊んでいるかもわからない。考え方だけは変わらないまま、取り残されているようだ。そのぶん、学生をはじめ20代の人と話をすると、とてつもなく新鮮な驚きがあったり、小さな成功体験にしがみついた自分の考えに、はっと気づかされることがある。

自分自身では、なかなか気づくことができない。それは自分の「良さ」や「らしさ」が変わっていることもそうかもしれないと思う。私が学生のときにいた先生の多くはすでに定年を迎え、新たに入学した学生も次々と卒業していっている。大学というものは今も昔もそこに在り続けているが、そのなかにいる人は変わり続けている。そして、外から見た大学のイメージもかなり変わったことだろう。自分を変えることは難しい。でも、自分自身では気づかない良さと悪さを教えてくれる人たちを大事にしないと、誰にも必要とされなくなる。

いま正しく見えていても、いま常識だと考えられていても、20年経てばすっかり変わってしまう。だから、「ともに考え、語らう場」(写真:上)をつくり始めている。これからも、自分の子ども世代から教わり、一緒に悩みながら、自分自身が変わっていく道程を楽しんでいこうと思う。

 

大学に収蔵されている卒業制作や自画像の一部(「芸術の保存・修復―未来への遺産」展、2018年)

 

写真(上):アートとプロジェクトの記録と記憶を語る茶話会−勉強会 vol.1(仮)
他メンバーとともに「アートとプロジェクトの記録と記憶を語る茶話会−勉強会 vol.1(仮)」を始める。2024年1月15日に第1回を開催。今後、継続していく予定。(https://future.geidai.ac.jp/study_of_artproject/

 


【プロフィール】

平諭一郎
東京藝術大学 未来創造継承センター 准教授 1982年福岡県生まれ。文化財・芸術の保存/継承研究。東京藝術大学美術学部デザイン科卒(2006)。 同大学院文化財保存学専攻保存修復(日本画)修士課程修了(2009)。 文化財、美術品の再現・復元制作とともに、領域横断的な芸術の保存・継承について研究し、展覧会、論考、作品として発表。 主な企画に、「芸術の保存・修復―未来への遺産」展(2018)、「再演―指示とその手順」展(2021)。同展を記録した編著出版(2022)。芸術保存継承研究会を主宰。