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第14回「学長と語ろう こんさーと」を開催しました

2013年11月07日 | イベント, 全て

11月2日(土)、本学奏楽堂にて、第14回奏楽堂トーク&コンサート「学長と語ろう こんさーと」を開催しました。

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 20131107_02_02各界でご活躍されているゲストをお迎えし、「芸術の力を世界に発信しよう!」という趣旨で始まったコンサートも14回目となり、今回は作家の夢枕獏さんをゲストに迎え、「人はなぜものを創るのか?」をテーマにトークが繰り広げられました。

 トークでは、夢枕獏さんの幼少時代の頃から、現在の趣味である釣りに至るまでの写真がスクリーンに映し出され、それぞれの写真についての話題で大いに盛り上がりました。

20131107_02_03 第二部のコンサートでは、東京藝術大学ウィンドオーケストラ(指揮:山本正治音楽学部教授)の演奏が行われ、途中では、夢枕獏さんがステージ上で朗読する場面もありました。

 次回の「学長と語ろう こんさーと」は、2014年6月に、蜷川幸雄さんをゲストにお迎えして開催予定です。

 

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トーク〈テーマ:人はなぜものを創るのか?〉

宮田亮平学長(以降、学長) 本日は夢枕獏さんをお呼びしております。夢枕さんは非常に多才で、あらゆることに精通しておられます。皆さんで楽しみましょう。前半、後半と、いろいろな意味で獏さんに登場していただき、一緒にときめきを感じたいと思います。さあ、大きな拍手でお迎えください。それでは、獏さん、お願いします。(拍手)

 

夢枕漠氏(以降、夢枕) よろしくお願いします。

学長 今回で奏楽堂は2回目ですか?

夢枕 そうですね。私は1回こちらで楽しい思いをさせていただいて、きょうは2回目です。

学長 1回目は、昨年7月の「ジャズin藝大」で山下洋輔さん、尺八の山本邦山先生とご一緒でしたね。

夢枕 はい。朗読をさせていただきました。

学長 語りがいいんですよ。

夢枕 いいんです。自分で言っちゃいけないですね。(笑)すごくいい。今までずっと音楽は、客席で聞いていたんですけど、一緒にここでやると、音の中に浮いているような感じがして。すごいいい感じだったんですね。

学長 この場所は獏さんにも二度登場していただいていますが、実はここは卒業式、入学式を行う場所です。そして、学生の演奏の場所、それからシンポジウム等、いろいろな用途に使われるところなんです。ところで、ご自身の卒業式のことは覚えていますか?

夢枕 いや、もう覚えていないですね。1、2年でもう忘れていると思うんです。

長 私も覚えてないんです。だから私は卒業式では1個のキーワードを、ここの檀上だとか、いろいろなところで書かせてもらっています。これは私の字なんですけどね。(壇上の「書」)

夢枕 ああ、これがそうですか。

学長 そうなんです。これは今年の字なんです。「輝」。殷や周の時代は、「光」は「炎」だったのです。そして、「軍」という字は旗なんです。

夢枕 ああ、なるほど。

学長 炎を燃やし、棒を持って旗をこう振って、みんなでこの車に乗って1つの方向に進んで行く。そんな意味を含んでいます。

夢枕 すごい字ですね。すばらしい。

学長 そんなことで、1個のキーワードを作り、少し語って学生を送り出します。毎年やっているんですけど。ちょっと学長職を長くやり過ぎたもので、だんだんネタの文字が無くなって来ちゃって。

夢枕 (笑)

学長 今日は、ぜひ後で何かこんないい字があるよということを教えていただけたらと思います。ついでですが、この間、私の個展、お忙しいところ、おいでいただいてありがとうございました。

夢枕 あ、これ、ありましたね。(作品を見ながら)これそうだ、見た時に、うわーっと群れになってだんだん小さくなるのが、時間と宇宙というか、そういうものが全部見えるような気がして、うわ、すごいな、と思ったんです。持って行こうと思ったんですけど、重かった。(笑)

学長 (笑)会場に入らなくて、仕方なく、クレーン車を頼んで屋上まで、そこから後は人力で6階まで運びました。なんかね、夢中になると、そういう寸法などの計算が全くできなくて。

夢枕 あの時、銅鑼がありましたね。すごくいい音がして。

学長 ああ、ありがとうございます。

夢枕 叩かせていただきました。

学長 そうそう。あの銅鑼は今、巡業中ですよ。

夢枕 ああ、そうですか。こちらへあるわけじゃない?

学長 そう。それを打ってからお迎えしようと思ったのですが、実は日本橋、横浜、大阪、名古屋と地方巡業に今回っているものですから、ちょっと今日は持って来れずにすみませんでした。さあ、それでは、夢枕さんについて、ほんの少しですが、調べさせていただきました。

夢枕 あまりヤバいことは出なかったと思うのですが。

学長 残念ながらヤバいことは何もありません。やっぱりなんと行っても、『陰陽師』。あれがやっぱりものすごく私にとってはインパクトが強い作品なのですが。安倍晴明の話ですよね。役人になったりとか、平安京でしたよね?

夢枕 そうです。平安京の陰陽師。

学長 ああいう時代考証が必要な話から、全然違ったプロレスの話までね。めちゃくちゃ幅広いじゃないですか。あれはどうして?

夢枕 あれは子どもの頃、好きだったものを捨てられないような感じです。だから、子どもの頃好きだったおもちゃが未だにあるみたいな感覚です。子どもの頃はクラスで一番腕相撲強い男になりたかったけど、挫折したりとか。虫が好きだったりとか、いろいろなことが好きだったんですけど、それをまだ捨てられない現象だと思うんですけど。

学長 ああ。なんか見たらおもちゃ箱の中にあって、それを開ける、ああ、こんなのがあったな、みたいな感じで紐解いたものが、僕らは一瞬しか映像にならないけれども。ところで、ものすごく多くの文学賞を受賞されていますね。

夢枕 賞ですか。多いんですかね?

学長 だってね、ざっくり見ると、『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞。

夢枕 これですけど、同じ餌で置き竿にしていたら、お魚が3匹釣れたような、1つの作品で3つ賞をいただいたんです。僕の方でもびっくりして、本当に寝ているとなんか電話があったんです。こういう賞なんですけど、「いかがですか?」って。「いくらでもいただきます」と。(笑)謹んでお受けをするんですけれども。

学長 すごいですね。ちょっと待って。1つの餌で3匹釣っちゃう?

夢枕 だから、同じ作品で3つ賞をいただいた。僕最初の賞をいただいたので、それだけかなと思って、気持ちは次の話を書いているんですけど、しばらくすると電話があって、それも3回あったので、それはちょっとびっくりしました。

学長 すごいですね。結局それは釣客伝、つまり先ほどからの話に出ている、川の方の話ですか?

夢枕 それは海の方なんですけど。(笑)江戸時代の釣り親父たちの話なんですね。江戸時代というか、江戸の、東京湾ですけど、昔は江戸裏と言っていまして、すごい良い干潟があって、もう魚の宝庫ですよ。マグロも入ってくるし、クジラも入ってくるし。魚を釣る良い場所まで干潟を歩いて行く間にヤスを打って行くんですね、みんな。それで、ヒラメとかカレイを踏むんですって。踏んだらそれでヤスで突いて、それでもう途中で魚籠がいっぱいになって現場に着いて、そこでアオギスというのを釣って、また帰って来る。そういうすばらしい湾で釣りに狂った男たちの話を書きました。

学長 偶然ですけどね。本当に偶然、今のお話聞いていて、そのまんまの作品、私、実はついこの間作ったんです。

夢枕 えっ?この前、私伺った時は……。

学長 あれのちょっと前。豊洲の駅にね。やっぱり佐渡ですから、裏に潮騒の海があって。この年になるとやっぱり朝起きた時に海があるといいなと思ったんで、豊洲に住んだんですよ。そうしたら、オファーがあって、ここに1つの壁画を作ってくれって。ところが、未だに私の車、古いものだから、あの辺走るとカーナビは海の中走ってるんですよ。埋め立てたので。あれ、何にもないもんだな、困ったなと思って江戸時代の巻物とか、そういうのを調べたら、キス。

夢枕 アオギス、はい。

学長 そうそう。というのがあるので、その辺のモチーフをポンポンポンと置いて作ったんですよ。

夢枕 それはどちらに行けば拝見できるんですか?

学長 豊洲の駅です。ぜひご覧下さい。

   さて、先ほど、「ジャズin藝大」の話をしましたが。

夢枕 はい。それで前回ここに立たせていただいて『陰陽師』を朗読させていただいたんです。

学長 字も書くけど、しゃべる?

夢枕 しゃべるというより……。

学長 語る?

夢枕 自分の小説を読んで、もう本当に演奏の中に混ぜていただいたんですけど。あれで僕ちょっとおかしくなって何か、ついつい入っちゃった。

学長 そう。その時は、奥様はジャズのプロデュースをなさってらっしゃる?

夢枕 家内は今、ジャズのミュージシャンを、デンマークのミュージシャンが多いんですけれども、日本へ呼んで、それで日本のジャズバーであるとか、あとは小さな会場を借りたりしてやっている。先日は京都の下川神社でジャズのコンサートと朗読の会をやらせていただいて。なんかすごく雰囲気が良くて、それで気持ちがいい時間だったんです。

学長 だから、一番最初のきっかけが確か、最初と言うかどうか分かりませんけど、残念ながら開演はできなかったんですが、昨年ですか。

夢枕 はい、オペラです。

学長 長安の都で、確か、遣唐使。

夢枕 遣唐使をテーマにした『長安の恋』という、日本の遣唐使船で行った日本人に井真成(セイシンセイ)という人がいるんですけど、それが向こうの楊貴妃の侍女に恋をするというお話だったんです。これは松下先生(演奏藝術センター教授)に騙されて、軽い感じで「どう?」って言うから、「やりますよ」って言ったら、かなりこれは時間がかかって、何度か書き直しをしたりしてようやくできたんです。日本と中国といろいろな問題があって、もう会場まで決まっていたんですけれども、流れてしまった。

学長 ちょっと残念なのですが、それは大事な問題がありますから。でも、そうやって音楽の内にも獏さんの文章というか、作品がどんどん入り込んで来て、広がって行っているというか。

夢枕 それはおかげ様ですごく広がって、音楽って全然だめな人間だったんですね。カラオケもほんのちょっとしか歌えなくて、音痴で、音程をうまく出せないんですよ。だから、せいぜい『宇宙戦艦ヤマト』か、僕やっぱりアニソンは割と耳の中に残るので何とか、というぐらいで、本当に恥ずかしいぐらい音程がうまく取れないんですよ。

学長 ああ、そうですか。でも、もうここまでいろんな作詞をなさっているから、もう大丈夫ですよ。

夢枕 いや、でも作詞はインクで原稿用紙のマスを埋めるだけですけど、音程を出す人って本当に尊敬します。ああいうふうに狂わずにちゃんとね、譜面……読めるというのがもう不思議でしょうがないです。

学長 それは私もそうです。東京藝大の学長をやっているけど、仕事は鍛冶屋なんかやっていますから。

夢枕 (笑)

学長 松下先生、あの先生がふっと僕に言ってくれたんです。獏さんの言葉というのですか、文章というのは自分が作曲すると、とっても作曲しやすいんですって。私もある機会を得て、獏さんの文章を読ませていただいたのですが、文字がいいものね。

夢枕 あ、文字はね、あまりうまくないので、読みやすいというのだけを心掛けて書いているんです。

学長 いや、今時ほら、結構ワープロの人ばかりじゃないですか。ところが、獏さんは手書き原稿。

夢枕 僕メールはパソコンは指一本でこうやりながら出すんですけれども、原稿だけは未だに手書きじゃないとだめなんですよね。もうどういうわけかやっぱり、もう30年近くやって来て、もうちょっとこれ変えられないって感じです。

学長 でも、むしろそれが僕らにビジュアルで、耳ではなくて、目で感じる人間にとっては、ものすごい驚きですね。

夢枕 そうですか。編集者の人が解読できないとまずだめなので、それは解読できるようには最低限、保たないといけないなと思っています。

学長 そうですか。でも結構、全然分からない人、いっぱいいるじゃないですか。

夢枕 専門の方がいないと、これを何と読むか判読できないような字の先生もいらっしゃるというのは聞いたことあります。誰だか分からないですけど。

学長 いえいえ、知ってるくせに。(笑)よくいろいろな文豪の方の記念館なんか行くと、よく直筆の過去の作品がある。さっぱり分からないですね。

夢枕 ああ、そうですか。

学長 それから、ト書きがあったり、線引いたりいろいろしていて、まああれがやっぱり格闘しているというね、積み重ねで書いていて、おもしろいのですが、音符を見ているのと同じですね。

夢枕 1回イギリス行った時に博物館でベートーヴェンとモーツァルトの手書きの楽譜というか、音符が乗ってあるのを見たんですけど、ベートーヴェンの楽譜って、流行作家が勢いに任せて1時間に原稿紙10枚ぐらい書くような勢いでサーッと行っているんですけど、モーツァルトはめちゃくちゃ丁寧に一角一角漢字で言えば丁寧に書いているような、きちんと線を止めて、止めて、止めてこう音符が並んでいて、あ、性格良く出てるなと思ったんです。

学長 ああ、そうですね。皆さんも今度ベートーヴェンをお弾きになる時、モーツァルトをお弾きになる時にそんなことをちょっと思い出しながら、お弾きになると、それぞれの違いがまたおもしろいですね。

ところで、仕事は同時並行されているのですか?

夢枕 14本の連載を並行してやっているんですけど、ほぼ慢性的にこういう状態なので体が慣れちゃって、だから釣りには行くんですよ。

学長 ああ、あれは別ですよね。(笑)でも、大丈夫なんですか?編集者の方々との連携して間違いがないように?

夢枕 原稿の間違いとか?そうですね、僕も辞書を引いたり、いろいろなことをしながらやっているんですけれども、専門の校閲の方がいて、すごい細かいところまで指摘をするんですね。地元は小田原なので、小田原の描写をすると、「右へ曲がると何々がある」なんて知っているつもりで書くと、「通りが1本違います」っていう。あちらは地図を確認して、ちゃんとやっているんですね。だから、相当やっぱりプロで文章を見ている人達は良い仕事をしているんですよ。

学長 なるほどね。時代考証なんかもきちんと。

夢枕 時代考証もね、こちらもやるんですけれども、僕の読んだ資料と別のところにある資料と違うことが書いてあるケースがあったりして、これは難しいですね。編集の方が読むのは別の資料だったりすると、これは一体どっちが正しいんだ、みたいなことになって。それはもう面倒になると、もうそちらの資料で行きましょうと。とても1人だとちょっと無理ですね。

学長 そうですね。やっぱり自分のらしさを出すには、やはり脇にとても優秀な皆さんがいてくれるということがありがたいことかもしれませんね。