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平成30年度 卒業・修了式(3/25)-さあ、Diversity!-

2019年03月27日 | イベント, 全て, 大学全般

平成30年度 卒業・修了式(3/25)-さあ、Diversity!-

日時:平成31年3月25日(月) 11:00~12:10
場所:奏楽堂

式次第
1. 奏楽
2. 学位記授与(学部卒業生)
3. 学位記授与(大学院修了生)
4. 修了証書授与(別科生)
5. 卒業・修了買上作品認定書授与
6. サロン・ド・プランタン賞授与
7. アカンサス音楽賞授与
8. 大学院アカンサス音楽賞授与
9. ラリュス賞授与
10. 学長式辞
11. 役員等紹介
12. 奏楽

 

 桜の花もほころびはじめた青空のもと、3月25日(月)11時より奏楽堂にて平成30年度卒業・修了式が行われました。
 はじめに、音楽学部 小島直文教授、味見純准教授、盧慶順准教授らによる奏楽「長唄『翁千歳三番叟』より」(10世 杵屋六左衛門作曲)が演奏され、慶ばしい雰囲気のなか式は幕を開けました。

 続いて澤和樹学長から、卒業生、修了生それぞれの総代に学位記が、別科修了生総代に修了証書が授与されました。また、卒業・修了買上作品認定書の授与および各賞の授与が行われました。
 その後、ステージ上のスクリーンに卒業・修了生たちの在学中の思い出の写真が映し出され、会場からは笑いと歓声が沸き起こりました。そして音楽学部 上條妙子准教授と澤学長の共演で、「春の海」(宮城道雄作曲)が演奏されると、スクリーンには、雪解けから満開の桜へと続く、美術学部 鈴木理策教授による写真の数々が映し出されました。

 学長式辞では、箏曲家・作曲家で、本学音楽学部の前身である東京音楽学校でも教鞭を執った宮城道雄先生の生涯に触れ、「革新的であること」、「多様性があること」、「国際的であること」を掲げた本学のNext 10 Visionを、90年以上前にすでに体現されていたことを紹介し、卒業・修了生を激励しました。また、大学が卒業・修了生をサポートし、卒業・修了生は母校や後輩たちを応援し、「オール藝大」で日本の芸術文化を発信して行こうと呼びかけ、未来への期待を述べました。

 閉式は、「長唄『英執着獅子』『連獅子』より」(初世 杵屋彌三郎、三世 杵屋正治郎作曲)が演奏され、卒業生・修了生たちの旅立ちを晴れやかに祝福しました。

学長式辞

 皆さん、卒業、修了おめでとうございます。 そして各賞を受賞された皆さん、おめでとうございます。

   ただいま、邦楽科箏曲生田流の上條妙子先生との共演で聴いていただいたのは、宮城道雄作曲の「春の海」です。お正月にはテレビ番組や、商業施設のBGMとしても良く用いられるので、知らない人はいないと思います。今日わたしは紋付・ハカマのいでたちですので、先ほども皆さんに思わず「あけましておめでとうございます」と言いそうになりました。 実際、この曲は1930年の宮中の歌会始での演奏を想定して作曲されたとの事で、日本のお正月を象徴する代表的な曲になっています。

 宮城道雄先生は、幼いころに目の病気を患い、8歳の頃に失明されました。それを機にお箏を習われ、多くの試練を乗り越えて日本を代表する演奏家になられただけでなく、本学音楽学部の前身である東京音楽学校の教授を務められ後進の指導にあたられたほか、お箏や三味線の初心者のための教則本を書かれるなど教育者としても活躍されました。また作曲家としては、先ほどの代表作「春の海」をはじめ、生涯に400曲を超える作品を遺されました。しかもその作品は、邦楽器にとどまらず、大編成のオーケストラ伴奏による箏協奏曲から子どものための曲に至るまで、多岐にわたっています。また、通常のお箏は13本の弦を持ちますが、更に低音を受け持つ十七絃や大胡弓などの新しい楽器を考案するなど、邦楽器の表現領域を広げることにも力を注がれました。

 先ほど聴いていただいた「春の海」は、本来はお箏と尺八のための合奏曲ですが、この曲が発表された2年後に来日したフランスの女流ヴァイオリニスト、ルネ・シュメーがこの曲を大変気に入り、自ら一晩で、尺八のパートをヴァイオリン用に編曲し、宮城先生との共演を申し出たそうです。その後、この二人の共演はレコーディングされ、フランスやアメリカでも発売されて国際的評価を得るようになりました。

   私が何故、今日、皆さんに「春の海」を聴いていただき、宮城道雄先生のお話をしているかおわかりでしょうか? 東京藝大では、一昨年、創立130周年を機に、今後10年間の方針を示すNext10 Visionを発表しました。「革新的であること」(もっと新しい独創にむけた挑戦を)、「多様性があること」(もっと幅広い才能が刺激し合う場を)、「国際的であること」(もっと世界へ日本の芸術文化の発信を)の3つです。

 1929年に「春の海」を作曲し、翌年には東京音楽学校の講師に就任された宮城道雄先生は、視覚に障害を持たれながらも、楽器の改良や、伝統にとらわれない、洋楽器とのコラボレーションなどの革新的な試み、そしてルネ・シュメーとの共演を通じて、国際的な広がりを実現するなど、すでに90年も前に、Next 10 Visionを体現されていたことに私は大きな驚きと感動を覚えます。

  皆さんダイバーシティという言葉を知っていますか? 「多様性」と訳されることが多いですが、私は、数年前にカタカナで書かれたダイバーシティを初めて見て、ダイバーシティ? 水に潜るダイバーさんの町かな……とか、フジテレビのあるお台場に出来た新しい商業施設のことかな……と思っていましたが、「多様性」つまり、男性も女性も、健常者も障がいを持つ人も、また国籍や人種にかかわりなく、さらに年齢、学歴、価値観などの違いを受け入れ、すべての人が活躍できる世の中を目指そうという社会の動きです。英語のDiversityですね。皆さんもご一緒に! (Diversity!)そうです。

 先ほどの「春の海」演奏中に、スクリーンには春の訪れを感じさせる素晴らしい画像が映し出されていました。美術学部先端芸術表現科の鈴木理策先生に作品を提供していただき、その前の皆さんの入学式以来の想い出の画像とともに桐山孝司先生率いる大学院映像研究科のご協力で制作していただきました。卒業式の最初と最後にある音楽学部の先生方による奏楽とともに、総合芸術大学である東京藝大に相応しく、オール藝大で皆さんの門出をお祝いしてくださっています。

 つい先日、「東京藝大正門再生プロジェクト」が立ち上がりました。ご覧のようにレンガ造りで、藝大の歴史を感じさせてくれる正門は、昨年6月の大阪北部地震の際に倒壊したブロック塀で小学生が犠牲になった事を受けて詳細に調査したところ、大きな地震の際に想定される被害を最小限に留めるために、現状のように鉄冊と網で囲って、一時しのぎはしているものの、このあとの卒業記念の撮影をするにはとても残念な状態です。一刻も早く、耐震性にも優れ、藝大のシンボルとしての機能を取り戻すためにも、クラウドファンディングなどで多くの皆さんに協力を呼び掛けています。卒業生の皆さんにも是非、ご協力お願いしたいと思います。私はこの機会に、正門をもう少し広げてはどうかと提案したのですが、「いや、やはり藝大の門は狭き門でなければいけない」という事で却下されてしまいました。受験生にとっては「狭き門」であっても、卒業生にとっては「広き門」であるよう、今後は大学が卒業生の活躍の場を積極的に提供するなどサポートし、卒業生は母校や後輩たちを応援するというような関係を構築して「オール藝大」で日本の芸術文化を発信して行こうではありませんか!

   どうか皆さんは、この東京藝術大学で学んだことに誇りを持って、どのように芸術の力で社会に貢献してゆけるのかを探し求める旅を続けてください。そして藝大は、その姿をしっかり見守って行きます。もう「卒業生は行方不明者多数」 などと言わせません! 皆さんの輝かしい未来に期待しています。本日は本当におめでとうございます。

 

平成31年3月25日

東京藝術大学長 澤 和樹