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令和2年度 新入生への学長からのメッセージ

2020年04月03日 | イベント, 全て, 大学全般, 学生生活

2020年4月4日(土)に開催を予定しておりました令和2年度入学式は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、中止いたしました。

入学式に代わり、新入生の皆さんへ澤和樹学長からのメッセージを掲載いたします。

 

澤和樹学長からのメッセージ

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんを東京藝術大学の一員として迎えられたことを大変嬉しく思い、心よりお祝いを申し上げます。

本来であれば藝大が誇る奏楽堂で、教職員一同で皆さんをお迎えし、ご家族とともに喜びを分かち合う予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大を防ぐため、やむなくこのような形での学長式辞となりました。

昨年末に中国で発生した新型コロナウィルスの感染は、瞬く間に全世界に拡がり、ヨーロッパ各国やアメリカの大都市では都市封鎖が行われ、人々の行動が制限されて、経済的にもリーマンショック以来の危機感をもたらしています。1945年の第2次世界大戦終結以降、人類が経験して来なかった地球規模での混乱が続いています。これを第3次世界大戦と呼んで、見えないウィルスとの戦いであり、それは自分自身との戦いでもあると言う人もいます。

皆さんは、日本で最難関、しかも長い入試を、ウィルス感染を防ぐための厳戒態勢の中で終え、希望に燃えて入学してこられたと思います。現状では4月20日以降にオリエンテーション、5月11日に授業開始としていますが、今後の状況によっては、これらがさらに遅れる可能性も否定できません。今、報道でも盛んに言われている事ですが、若い皆さんが症状が出ないまま、あるいは軽い症状のまま、ウィルスの運び屋となり、感染爆発を引き起こしたり、あるいは結果的に高齢者や持病を持つ人にうつしてしまって重症化し、死に至らしめる可能性を持っていることを一人一人が自覚しなければなりません。

人類の歴史は、疫病との戦いの歴史でもあります。ギリシア・ローマの古代文明の衰退の一因にはマラリアの大流行があるといわれています。日本でも、8世紀初めに遣唐使が運び込んだと思われる天然痘が大流行し、当時の日本の人口のほぼ3分の1が命を落としたという説もあり、聖武天皇が、疫病流行をはじめとする社会不安を取り除くために巨大な廬舎那仏(いわゆる奈良の大仏)の創建を命じたとされています。中世のヨーロッパでは、本来インドやアジア地域にだけ生息していたクマネズミの伝染病であったペストが、交易が盛んになったシルクロードを経て13世紀末にヨーロッパに拡がり、14世紀にはヨーロッパ全土で何千万という犠牲者を出しました。そしてこの事が中世的社会崩壊の引き金となりルネッサンスや宗教改革という時代の変革に繋がって行きます。これまで疫病の流行は、人類に大きな災いをもたらしたと同時に、人間に考える機会、そして大きな教訓をも与えています。

今回のコロナの騒ぎは、便利さや経済的発展を第一に考え、地球環境の破壊に目をつぶり、自国第一主義や社会の分断を進めてきてしまった現代社会への神からの警鐘ではないでしょうか? 2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能な開発目標(SDGs)と呼ばれる2030年に向けての取り組みは、世界中が一つになって問題を共有しない限り実現できません。ウィルスを撃退するという全世界共通の問題解決意識が、気候変動の大きな要因と分かっていながらもなかなか進まなかったCO2削減にヒントを与えてくれるかもしれません。

また、今後、新世代の移動通信システム(いわゆる5G)を、大学での新しい授業形態や、新たな芸術的表現の手段に使ってゆくなど、今の制限されている環境だからこそチャレンジできるチャンスととらえてはどうでしょうか。

2020年は、大作曲家ベートーヴェンの生誕250年の記念の年でもあります。
ベートーヴェンはピアニストとして絶頂期の20代後半から耳の不調を訴え、32歳の時には自殺を考え、遺書すら書きましたが思いとどまり、人生の後半は全く聴力を失った状態でしたが作曲を続けました。晩年の「第九」交響曲や、後期のピアノソナタ、弦楽四重奏曲などは、大きな試練を乗り越え、心の音を聴きとろうとしたベートーヴェンにしか到達できなかった最高の芸術ではないかと私は思っています。

エネルギーに満ちた皆さんが、外出を控えたり、人と会う事を我慢したりすることは本当につらい事だと思いますが、この試練の時を、自分をじっくり見つめなおす好機と捉え、大切な時間を過ごしてください。そして、この苦難の時期を乗り切った時、芸術がどのように社会に貢献して行けるのかを一緒に考えて参りましょう。

先ほど、音楽学部教授で、前副学長も務められたピアノの渡辺健二先生とともに演奏した曲は、イギリスの作曲家、エルガーの「愛の挨拶」です。エルガーが、後に妻となるアリスに婚約記念とした贈ったロマンティックな名曲ですが、エルガーは当時29歳、アリスは9歳年上の38歳で、しかもエルガーの実家は貧しく、アリスは上流階級の出身、また宗教もカトリックとプロテスタントと、階級や身分が重視された19世紀後半のイギリスでは、結婚に至るまで多くの困難があったようです。しかし困難を乗り越えて結婚し、その後も、結婚記念日には愛妻のためにエルガーは毎年、曲をプレゼントしていたそうです。

まだ少し時間はかかりそうですが、皆さんと一緒に芸術の持つ力で世の中を明るく、元気にして行ける日を楽しみにしています。

改めてご入学おめでとうございます。 

 

令和2年4月 東京藝術大学長
澤 和樹